第11話 いざ! 聖女修行です!
「まだまだァ! まだ40秒しか経ってないわよ!」
エリシエル様の叱責の声が青空の下に響き渡る。
「はい! 3、2、1……。10秒置いて、次は体側をやるわよ!」
わたしがいま、何をしているかというとですね。
うつ伏せになった状態で、前腕と肘、そしてつま先だけで体を支える、体幹を鍛えるというトレーニングをしています……!
……き、きつい……!
事の発端はエリシエル様の「……エステルちゃん、身体全然鍛えてないでしょう」という一言からだった。
健やかな力は、健やかな体から!
健やかな体とはすなわち! 自らの意思でしなやかに動かすことのできる体である!
というのが、エリシエル様のモットーらしく……。
聖女修行がまさかの肉体トレーニングだと思っていなかったわたしは、普段全く運動してこなかった体を鞭打って、修行に励んでいるのであった。
「エステルちゃん! いや、我が弟子よ! 腰が落ちてるわ! お腹に力を入れて体幹保って! そんなことで大切な人たちを守れると思ってるの!?」
エリシエル様が、思っていた以上にスパルタだった。
ちょっとでも気を緩めると容赦なく叱咤してくるのだ。
「ほら、しっかり腕振って! 早さは求めてないから! ペースを保って、呼吸に集中して!」
体幹トレーニングの次はランニングだ。
動きやすい服に着替えたエリシエル様も並走しながら、二人で山道を走る。
「聖女っていうのは持久力が必要だから。ペースはこのままでいいから、後1時間継続して走るわよ」
「ふぁ、ふぁい!」
「返事が弱い! 『はい! 師匠!』でしょ!?」
「は、はい!師匠!」
午前中のトレーニングを終え、「一旦休憩ね♪」と言って席を外したエリシエル様のいなくなったところで、わたしは木陰の地面に倒れ込み、いまだゼイゼイと荒い呼吸を繰り返していたところに。
「おい、大丈夫か?」
レイさんが心配して様子を見に来てくれた。
倒れ込んでいるわたしを、心配そうに上から覗き込んでくる。
「はい……。なんとか……」
「ごめんな。あいつ、悪気はないんだ。というか、善意しかないんだ」
「大丈夫です……。そのあたりは理解してます……」
わたしが答えると、レイさんは「そうか」と言って、わたしの隣に腰掛ける。
「お前を元の時代に戻す方法は、俺の方でちゃんと調べてるから。とりあえず……、まあ、修行頑張れ」
「……はい。ありがとうございます……」
地面に寝そべったまま、レイさんにお礼を言う。
「あいつもな……。本当は今、あいつ自身が一番辛いんだ。だから、お前が来てくれたのはいい気分転換になってるんだと思う。お前にとっては災難かもしれないけどな」
「エリシエル様が、ですか?」
レイさんが、自分達の事情についてぽろりと話し出したので、わたしはグッと体を起こし、ちゃんと話を聞く体制を取ろうと努める。
「……。俺たちは今、人を探してるんだ」
「ひと、ですか?」
「まあ、正確には人じゃない。俺の弟」
「弟……」
そこでわたしは、ようやくハッと気づいた。
アスラン様のことだ……!
「もともと、俺と弟の二人で、世界各地の歪みを正しながら旅をしていたんだ。……まあ、そこに色々あってあいつも加わることになるんだけど」
あいつと言うのは、エリシエル様のことなのだろう。
訥々と語り出すレイさんの話を、わたしは黙って聞いた。
レイさんが言うには、弟さん――おそらくそれが、アスラン様の前世と思われる人物なのだが――の方は攻めに優れ、レイさんの方は守りに秀でていると言う能力を顧みて、弟が先に歪みのある場所を調査しに行き、状況把握してから業務を遂行しに行く、という流れだったのだそうで。
「エリシエルが付いてくるようになってからだな。そういう段取りにするようになったのは。弟は、ただの人間のエリシエルに、歪みがどんな影響を与えるか、危険なことが起こらないか凄く心配していたし、それに関しては俺も同意見だったから」
歪み、というのは、要するに地脈の乱れで生じるもので、歪みが大きくなると、魔界や神界と繋がる道が出来てしまうらしい。
「ちょうどひと月前くらいのことだ。弟が、帰ってこなくなったのは」
いつものように、先に様子を見に出ていった弟。
通常ならば、遅くても翌日には帰ってきていた弟が、今回に至ってはいつまで待っても帰ってこない。
「数日、その場で弟が帰ってくるのを待って。エリシエルが言ったんだ。帰ってこないなら探しに行こうって」
そうして、ちょうど二人が弟さんを探している最中に、わたしがばったり出くわした、と言うことらしい。
「お前が、大切な人を助けたい、って言った一言が、あいつの心に響いたんだろうな。自分に重ねちまったところもあるかもしれないし。本来なら、人に修行なんてつけてる場合じゃないのに」
レイさんははっきりとは言わなかったが、わたしのいた時代まで伝えられていることが真実なら、弟さんとエリシエル様は恋人同士のはずだ。
実際に、この時はまだそうじゃないかもしれないが、いずれそうなる関係性だということは間違いなく。
「もしかしたら、お前の修行をつけることで、自分自身も叩き直そうとか思ってるのかもな。あいつ、聖女のくせに脳筋なとこあるし。……自分のせいで、って責める気持ちも、少なからずあるんだと思う」




