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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第二部

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第7話 え、公爵令嬢? 誰がですか?

 それが発覚したのは、いつも通り午前の仕事をアスラン様の執務室で片付けていた時だった。


「あの、よろしいでしょうか」


 クラウス様が珍しく遠慮がちに、アスラン様に話を切り出してきたのは。


「構わないよ。どうした?」

「例の件なのですが……」


 そういうと、クラウス様はわたしに向かってさりげなく小さく目配せする。

 ――わたしが席を外した方が良さそうな話なのだろうか。


「あの……」

「いや、いい。エステルも一緒に聞いて」


 わたしが気を回して席を立とうと声をあげかけたところを、アスラン様に制止される。

 確かに、最近ずっとアスラン様と一緒にいたから、クラウス様もわたしに言えない話をしにくかったのだろうと察して席を立とうとしたのだが、アスラン様としては不要だったみたいで。


「よろしいのですか?」

「ああ。クラウスだって、いつまでもエステルに言わないでおくのも、と言っていたじゃないか」

「それはそうですが……」

「で? やっぱり間違いなかったんだろう?」


 アスラン様とクラウス様が、わたしのわからない二人だけの話をどんどん進めていく。

 黙って隣で聞いていたけれど、どうやらわたしも全く無関係というわけでもないみたいなんですけど……。


「どうやら、エステル様のご生家は、ウェンズ公爵家で間違いないみたいです」

「えっ……」

「現公爵の末息子であるエリック様が、当時婚約者であった令嬢の家が没落したのを機に、婚約者の女性と駆け落ちして生まれたのが、おそらくエステル様で間違いないかと」

「確かなのか?」

「公爵家にあった絵姿の写しで、当時の近隣住人に確認を取りました。エリック様の方は間違いありません。奥方……、エステル様のお母様に関しましては、資料がなかなか見つからなくて苦労しましたが、ほぼ間違いないかと」


 とんでもない新事実が目の前で羅列されていくのに、当事者であるわたしが一番信じられなかった。


「ウェンズ公爵はなんと言っていた?」

「殿下がお調べになったのならおそらく間違いはないと思いますが、念の為顔通しはさせてほしいと」

「まあ、そうだろうな」


 公爵家としては、そのつまりわたしのことなんですけどが本物であれどうであれ、皇家に嫁ぐ娘の実家になるのだ。

 棚ぼたでしかない事実ではあるが、審議は自分で見定めたいんだろうな、とアスラン様がいう。


「ど、どうして……」

「ん?」

「アスラン様も、わたしが庶民の出だから、っておっしゃってたじゃないですか。なのになんで……」

「……もともと、妙だなとは思っていたんだ。昔、聖王国にいた時にエステルの母君の話を聞いて。調べてみたけど、当時住んでいた土地の近くには、誰もエステルの母君の家族と思われる人がいなくて。父親に関しても、越してきて間もなく事故で亡くなって、葬儀には身寄りといえる人もいない。その時はそのまま特に追求することもなくいたんだけども、今回の婚約にあたって、徹底的に調べることにしたんだ」


 もしかして、本当は全くの庶民ではなく、なにかしらの貴族との血のつながりがあった場合、トラブルの種にもなりかねないから、という理由もあったらしく。


 そうして結局――、出てきたのは予想以上の上級貴族だった、と。


 そうは言われても、言われた方のわたしは全く実感も湧かなくて。

 お母さんのことは、覚えている。

 言われて思い返してみると確かに、下町に住んでいた割にはどことなく品がある人だったようにも思う。

 美人で明るくてよく笑う人だった。

 今思うと、男の人にも結構モテていたのではないかと思う。


 それに反して、父親に関しては全く記憶がない。

 わたしが物心ついた時に事故で亡くなってしまっていて、母親に幾度となく父のことを尋ねたが、「あなたにそっくりな、優しくて、おっちょこちょいな、可愛い人よ」と笑って言われたものだった。

 ――わたしの髪と瞳の色も、父親譲りなのだと。


 なんと言ったらいいのかわからなくて、俯いてぎゅっと両手を握り込む。


「……エステル」


 それに気づいたアスラン様が、握り込んだわたしの手に、そっと手を添えてくれた。


「……わからないんです」

「……」

「これが、いいことなのか悪いことなのか。いまさら、わたしが貴族の生まれだよと言われても、育ってきた環境はそうじゃないんです……」


 今の恵まれた環境と対比するように、貧しい暮らしの中苦労を重ねてきた母親の背中が記憶に蘇って。

 

 いままでずっと、自分が貴族の生まれじゃないから、庶民の出だから駄目なんだと、自分を卑下して生きてきた。

 でも今改めて。

 自分が本当は貴族の血を引いていたということを知らされて初めて。

 大切なのは、血筋じゃなくて、誰から何を貰って生きて生きたかということなんだと知った。


 きっと、わたしがいま得ているものは、普通の貴族の家に生まれて育っていたら、得られていなかったものだ。

 そう思って――、記憶の中で笑っている母親のことを思い出し、そのひとにもう何もしてあげられないことが切なくて――、わたしはアスラン様の胸を借りて、一人静かに涙を濡らした。

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