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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第二部

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第6話 どうしてうまくいかないの?

 結局、あのまま立ち去ってしまったアスラン様の代わりに、クラウス様に頼んでエヴァンジェリン様の客室を用意したり、皇宮内の案内をしていたりしたら、あっという間に夕食の時間になり。


 結局、夕食も流れでアスラン様とエヴァンジェリン様と3人でテーブルを囲むことになったのだが、エヴァンジェリン様ただひとりが楽しそうに会話を回す中、ひたすら気まずい空気で食事をいただく時間になったのだった。



 ――泣きたい。

 

 というか、もう半ば泣いている。


「……泣くくらいだったらさっさと謝ってこいよ」

 

 ベッドにうずくまってめそめそと泣いているわたしに、レイヴンが呆れたように声をかけてくる。


「そう、なんだけどぉ……」


 この状態で謝りに行っても、ただ困らせるだけだと思うし……。

 一回思いっきり泣いて、もう少し気持ちの整理ができたら謝りに行きたい。

 というか、一回思いっきり泣きたい。


 と、思っているところに。


 コンコン。


 と、部屋のドアをノックする音が響く。


「エステル様。アスラン様がいらっしゃいましたが……」


 ドアの外からカリナの声。

 アスラン様、という名前にびくりと反応する。


「おい」


 レイヴンがわたしに向かってどうするのかと声をかけてくるが、わたしはぶるぶると首を振って全力で無理だと示す。

 それをも見たレイヴンが、仕方ないなと言わんばかりに嘆息し、読んでいた本をパタリと閉じて、すたすたとドアに向かって歩いていく。


「悪いけど、もうちょっと落ち着いてからがいいって」

「……寝ているわけではないのか?」


 被った掛け布団の向こうから、アスラン様とレイヴンが話をしている声が聞こえる。


「エステル」


 アスラン様がそう呼びかけ、こちらに向かって近づいてくる気配を感じた。


「エステル……」


 アスラン様の呼びかけに、布団から出るか否か躊躇し、だけどやっぱりまだ何を言えばいいのかわからなくて、もぞりと深くうずくまる。


 そっと、背中に手が当たる感覚がした。


「ごめんね……。幸せにするって、エステルの居心地のいい環境を作るために頑張るって、言ったのは僕なのに、僕が一番それをできてないよね……」


 布団の向こう側から聞こえてくるアスラン様の声は優しくて。


「ねえ。出てきてちゃんと仲直りしよう? いつまでもこんな気まずい状態でいるのは辛いし、なにより、エステルと一緒にいられないのが耐えられないよ……」


 その言葉が、あまりに苦しげに響いていたので。

 わたしは、アスラン様が心配になって、被っていた布団からチラリと顔を覗かせた。

 もちろんまだ、アスラン様を直視することなんてできないけど……。


「エステル……」


 わたしが、泣いて赤くなった目を隠すように俯いていると、アスラン様が遠慮がちに「抱きしめてもいい?」と聞いてきた。


 こくりとうなづくと、恐る恐ると言った様子でわたしの肩に手をかけ、そっと抱きしめてくる。


 ――ああ。

 

 アスラン様に抱きしめられたことで、なんだか少しほっとした自分がいた。

 わたし、いつのまにかこんなに、アスラン様に対して安心感を抱くようになっていたんだなあ……。


 そう思うと、不遇だった聖王国での聖女時代からの今の幸せがとても尊いものに思えて、また少し泣けてきた。


「アスラン様、ごめんなさい……」

「謝るのは僕だよ。僕の方こそごめんね、エステル」


 アスラン様はそう言って、涙の跡の残るわたしの顔に、キスの雨を降らせてきた。

 わたしも、こんなにもわたしのことを思ってくれるアスラン様に、何かお返しをしたいと思って、体を伸ばしてアスラン様の頬にそっと口付けると、アスラン様はほう、と深いため息をついて、またぎゅっと深くわたしを抱き込んできた。


「アスラン様……?」

「ううん……、大丈夫。今僕は、男としての誠意を試されてるんだと思って……」


 アスラン様の言っていることはよくわからなかったけど、とりあえず不快でため息をついたのではないということだけはわかったので、わたしもきゅっとアスラン様のことを抱きしめ返した。






 ――翌朝から。

 アスラン様のわたしに対する態度がより甘くなったのは、わたしの気のせいではないと思う――。


 朝は朝食の前にわたしの部屋まで迎えにきてくれて、朝食の席まで手を繋いでエスコートしてくれるし、日中も仕事中の距離が前より近い気がするしことあるごとにわたしの顔や手に触れてくる。


 午後の予定はいつも別に行動していたのだが、それさえ「エステルが良ければ、一緒に来る?」と言われて、四六時中付き添って行動するようになった。

 午後は大体、軍務関係の仕事が多かったので、厳つい男の人や兵士の人たちにすれ違うたびにぎょっとされたりしたのだけど、いままで関わりのなかった帝国内での軍関係の規律や決め事などを知ることができて、それはそれでためになった。


 後になってようやく、エヴァンジェリン様に見せつけるためにあえてベタベタしているのだということに気がついたが、それをカリナに伝えたら「いいんです。エステル様は、それに気づいてないくらいがちょうどいいんです」と言われた。

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