第3話 ちょっと、効果がありすぎたみたいです
「う〜ん……」
翌朝。
基本的にいつも早朝に目を覚ますわたしは、寝起きはそんなに悪くない。
身体のリズムで起きる時間を感じて、ふ、と瞼を持ち上げた時。
自分のベッドの反対側に、見たことのない、男の人の背中が見えた。
「……ん?」
目を覚ますと、目の前に見覚えのない人影が寝ていて。
「――――――き」
きゃああああああああああああ!
「どうしましたエステル様!」
「エステル! どうしたの!?」
わたしの叫び声を聞きつけて、バタバタとみんなが駆けつけてくる。
「……なんだよ……? 朝から騒々しい……」
そんな中、騒動の元凶となった張本人が、ベッドの上でむくりと起き上がる――が。
「あ、あれ……? レイヴン……?」
そこにいたのは、さっきの男の人ではなく、少年の姿になったレイヴンだった。
――ただし、昨日見た時よりも、明らかに急激に成長している。
少年の姿を取るレイヴンは、いつも6歳くらいの男の子の姿だったが、目の前にいるのは、10歳前後まで成長した姿で。
「なんだか、急激に体が成長してないか?」
「え?」
アスラン様に言われて、レイヴンが自分の身体をまじまじと見つめる。
そうして、しばらく思いを巡らせるよう、逡巡した後――。
「エステル。……ちょっと効果あり過ぎたみたい」
「さてそれで……、どういうことなのかな? エステル」
顔は笑っているが、アスラン様の目が笑っていない――。
あれから。
そのままわたしの部屋で、事情を説明してもらおうかと、アスラン様に捕まって。
一体何でレイヴンが成長したのか、そもそもなんでレイヴンがベッドの上で寝ているのか。
洗いざらい白状させられることとなったのでした。
「――それで、その魔獣くんと添い寝をして、寝て起きたら、5歳くらい成長した姿になっていた、と」
「あの、わたしが目を覚ました時は、もっと大きな大人の男性のようにも見えました。だから、驚いて叫び声を上げてしまったんですけど」
確かにあの時、もっと成人男性のような後ろ姿に見えたのだ。
幻術にでもかかったのだろうか? と首を傾げる。
「多分それ、リバウンドしたんだと思う」
「リバウンド?」
レイヴンの言葉に、わたしが疑問を投げ変えす。
「急激に成長したら体にかかる負担が大きいから……。 だから、元に戻そうとする力が働いて、適応したのがこのくらいの姿だったんだ」
「もうちょっと、詳細を省かずに説明してもらいたいのだけど」
レイヴンの答えに、笑顔を保ったままのアスラン様が差し入ってくる。
「つまり君は、エステルの力で、一晩でそこまで成長したってこと?」
「まあ、そういうことになる」
「浄化の効率が上がるんじゃないかと思って、エステルが君を抱きしめながら眠ったと」
「……一応言っとくけど、この姿じゃなくて獣の方の姿でだけどな」
「でも、起きた時には獣化は溶けていたんだろう?」
「……」
あれ? 何だか雲行きが……。
「で、でも、効果はあったわけですし。実際にちゃんと実証もできました」
「でも起きた時には獣化は溶けていたんだよね?」
あ、あれ?
アスラン様が、レイヴンに言ったことと全く同じ発言をわたしにも向けてくる。
「あの……」
「だめ。だめだめ。絶対だめ」
「え……」
わたしがまだ、何も発言していないのに、アスラン様がだめだと強く遮ってくる。
「だめだよ、エステル。どうせ、『でもやっぱり、浄化が早く進むなら、この方法も悪くないと思うんですけど……』とか言おうとしたんだろう? だめだからね、絶対」
「あ、アスラン様?」
「これでまたトライしてみて、朝方に成人の姿になった魔獣くんと同じベッドで寝てるのみたら、僕、正気でいる自信がないからね」
それは明らかに不貞だよ――、とアスラン様が釘を刺してくる。
「レイヴンは家族ですよ⁉︎」
「家族でも、男は男だよ? だめなものはだめです」
「……」
アスラン様の返事はにべもない。
「不貞だよ」と言われた発言に、わたしは思った以上に傷ついた。
そんなつもりはなくて。
それで、アスラン様がためになって、喜んでくれるなら、と思っただけなのに。
わたしはまた、こうやって間違えてしまうのか……、と思ったら、思いがけず目尻から涙がぽろりとこぼれた。
「え、エステル……?」
それをみたアスラン様が、ぎょっとした顔で慌て出す。
「すみません……、あの、大丈夫……、大丈夫ですから」
一度溢れ出したら、堰が切れたように止まらなくなってしまった。
慌てて隠そうとして涙を拭うが、なんだか、ぽろぽろと溢れて止まらなかった。
「あの……、エステル」
「アスラン様、ちょっと」
そう言って、狼狽えているアスラン様を、カリナが部屋の外へ押し出していく。
乳兄妹で幼馴染とはいえ、仮にも皇太子殿下を押し出していけるのは凄い……、と思いつつ、そっとしておいてくれようとしたカリナに感謝する。
ずっと黙って話を聞いていたクラウス様も、アスラン様を追いかけていって、部屋にはわたしとレイヴンの二人だけになり。
レイヴンは、泣き続けるわたしに、特に声を掛けるでもなく、ただ背中をさすり続けていてくれた。
わたしにとっては、こういう暖かさが家族だと思っているのだけれども。
それを伝えることは、難しいことなんだなあ、と心のうちで思いながら。
久しぶりに、流せるだけ涙を流した。




