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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第二部

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38/60

第3話 ちょっと、効果がありすぎたみたいです

「う〜ん……」

 

 翌朝。

 基本的にいつも早朝に目を覚ますわたしは、寝起きはそんなに悪くない。


 身体のリズムで起きる時間を感じて、ふ、と瞼を持ち上げた時。

 自分のベッドの反対側に、見たことのない、男の人の背中が見えた。


「……ん?」


 目を覚ますと、目の前に見覚えのない人影が寝ていて。


「――――――き」


 きゃああああああああああああ!


「どうしましたエステル様!」

「エステル! どうしたの!?」


 わたしの叫び声を聞きつけて、バタバタとみんなが駆けつけてくる。


「……なんだよ……? 朝から騒々しい……」

 

 そんな中、騒動の元凶となった張本人が、ベッドの上でむくりと起き上がる――が。


「あ、あれ……? レイヴン……?」


 そこにいたのは、さっきの男の人ではなく、少年の姿になったレイヴンだった。

 ――ただし、昨日見た時よりも、明らかに急激に成長している。


 少年の姿を取るレイヴンは、いつも6歳くらいの男の子の姿だったが、目の前にいるのは、10歳前後まで成長した姿で。


「なんだか、急激に体が成長してないか?」

「え?」


 アスラン様に言われて、レイヴンが自分の身体をまじまじと見つめる。

 そうして、しばらく思いを巡らせるよう、逡巡した後――。


「エステル。……ちょっと効果あり過ぎたみたい」

 

 




「さてそれで……、どういうことなのかな? エステル」


 顔は笑っているが、アスラン様の目が笑っていない――。


 あれから。

 そのままわたしの部屋で、事情を説明してもらおうかと、アスラン様に捕まって。

 一体何でレイヴンが成長したのか、そもそもなんでレイヴンがベッドの上で寝ているのか。

 洗いざらい白状させられることとなったのでした。


「――それで、その魔獣くんと添い寝をして、寝て起きたら、5歳くらい成長した姿になっていた、と」

「あの、わたしが目を覚ました時は、もっと大きな大人の男性のようにも見えました。だから、驚いて叫び声を上げてしまったんですけど」


 確かにあの時、もっと成人男性のような後ろ姿に見えたのだ。

 幻術にでもかかったのだろうか? と首を傾げる。


「多分それ、リバウンドしたんだと思う」

「リバウンド?」


 レイヴンの言葉に、わたしが疑問を投げ変えす。


「急激に成長したら体にかかる負担が大きいから……。 だから、元に戻そうとする力が働いて、適応したのがこのくらいの姿だったんだ」

「もうちょっと、詳細を省かずに説明してもらいたいのだけど」


 レイヴンの答えに、笑顔を保ったままのアスラン様が差し入ってくる。


「つまり君は、エステルの力で、一晩でそこまで成長したってこと?」

「まあ、そういうことになる」

「浄化の効率が上がるんじゃないかと思って、エステルが君を抱きしめながら眠ったと」

「……一応言っとくけど、この姿じゃなくて獣の方の姿でだけどな」

「でも、起きた時には獣化は溶けていたんだろう?」

「……」


 あれ? 何だか雲行きが……。

 

「で、でも、効果はあったわけですし。実際にちゃんと実証もできました」

「でも起きた時には獣化は溶けていたんだよね?」


 あ、あれ?

 アスラン様が、レイヴンに言ったことと全く同じ発言をわたしにも向けてくる。


「あの……」

「だめ。だめだめ。絶対だめ」

「え……」


 わたしがまだ、何も発言していないのに、アスラン様がだめだと強く遮ってくる。


「だめだよ、エステル。どうせ、『でもやっぱり、浄化が早く進むなら、この方法も悪くないと思うんですけど……』とか言おうとしたんだろう? だめだからね、絶対」

「あ、アスラン様?」

「これでまたトライしてみて、朝方に成人の姿になった魔獣くんと同じベッドで寝てるのみたら、僕、正気でいる自信がないからね」


 それは明らかに不貞だよ――、とアスラン様が釘を刺してくる。


「レイヴンは家族ですよ⁉︎」

「家族でも、男は男だよ? だめなものはだめです」

「……」

 

 アスラン様の返事はにべもない。

「不貞だよ」と言われた発言に、わたしは思った以上に傷ついた。


 そんなつもりはなくて。

 それで、アスラン様がためになって、喜んでくれるなら、と思っただけなのに。

 わたしはまた、こうやって間違えてしまうのか……、と思ったら、思いがけず目尻から涙がぽろりとこぼれた。


「え、エステル……?」


 それをみたアスラン様が、ぎょっとした顔で慌て出す。


「すみません……、あの、大丈夫……、大丈夫ですから」


 一度溢れ出したら、堰が切れたように止まらなくなってしまった。

 慌てて隠そうとして涙を拭うが、なんだか、ぽろぽろと溢れて止まらなかった。


「あの……、エステル」

「アスラン様、ちょっと」


 そう言って、狼狽えているアスラン様を、カリナが部屋の外へ押し出していく。

 乳兄妹で幼馴染とはいえ、仮にも皇太子殿下を押し出していけるのは凄い……、と思いつつ、そっとしておいてくれようとしたカリナに感謝する。


 ずっと黙って話を聞いていたクラウス様も、アスラン様を追いかけていって、部屋にはわたしとレイヴンの二人だけになり。


 レイヴンは、泣き続けるわたしに、特に声を掛けるでもなく、ただ背中をさすり続けていてくれた。

 わたしにとっては、こういう暖かさが家族だと思っているのだけれども。

 それを伝えることは、難しいことなんだなあ、と心のうちで思いながら。

 久しぶりに、流せるだけ涙を流した。

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