第2話 そもそもなんなの? 聖女修行って
「……そもそもなんなの? その、聖女修行って」
「レイヴンに聞いたんです。昔、大聖女様が大聖女になる前、自分の力を高めるために、聖地に行って修行をしたって」
私の言葉を受けて、アスラン様が「余計なことを……」と低く呟きながら、レイヴンをじろりと睨み見る。
「言っとくけど、俺が自ら進んで教えたんじゃなくて、エステルが色々聞いてくるからだからな!」
睨まれた方のレイヴンも、負けじとアスラン様に向かって弁明の言葉を投げる。
「だからと言って、エステルがそれをする必要はないんじゃない? いまはそんな、国家を脅かすような大事件が起きているわけでもないんだし」
「わたしにとっては、アスラン様が悲しい思いをするのは、国家を脅かされるのと同じくらい大事件です!」
「エ、エステル……!」
そう言うと、アスラン様は感極まったように、がばっ! とわたしを抱きしめてくる。
そうして、一瞬ではっ! と我にかえり、
「あっ、いけない。エステルの可愛さに我を忘れるところだった」
とつぶやくアスラン様だったが、依然としてわたしを抱きしめたままなのは変わらなかった。
「とにかくエステル。聖女修行が悪いわけではないけど、するなら婚約式が終わってからにしようよ。もしかしたら、その間にそこの魔獣くんが完全に消化されるかもしれないし」
「消化じゃなくて浄化な」
暗に邪魔者だって言いたいのかよ……、とレイヴンが合いの手を入れてくる。
「でも、後継者を産めないかもしれない婚約者なんて」
「……こんなこと、大っぴらには言えないけど。僕にとっては、後継者よりもエステルが大事だよ。……もちろん、二人の子供ができたらそりゃあ嬉しいけど。でもまずその前に、無事に婚約式を終わらせて、エステルは僕の婚約者だよって、世間に堂々と堂々と宣言したい」
「アスラン様……」
「だから、僕のためだったら、外に修行になんか出ないで、ずっとここにいて?」
うるうると、懇願するようにアスラン様が訴えかけてくる。
「わかりました。そ、そうですよね……。婚約式前にふらふら出歩くとか、よく考えたら軽率でした……」
「でも、エステルの気持ちはすごく嬉しかったよ。ありがとう」
言いながら、アスラン様がちゅっ、とわたしの額に軽くキスを落とした。
それだけで嬉しくなってしまう自分は、何とも単純なものだと思うが、それはそれで悪くないのだった。
「ねえ、レイヴン」
「ん〜?」
夕食後。
いつでも寝られるよう寝巻きに着替えたわたしは、ベッドの上にころりと転がりながら、レイヴンに尋ねる。
「……アスラン様って、勇者の生まれ変わりなの?」
「んー、禁則事項」
しれっとレイヴンに交わされる。
そんなレイヴンはと言うと、最近、図書室で借りてきた本にハマっていて、わたしの話もそこそこに、ずっと読書している。
なんなの。
普段は大聖女の生まれ変わりとか、割と口が軽くてぺろっと言っちゃうくせに。
改まって聞くとすぐに「禁則事項」と言って、答えてくれないし。
「……レイヴンがあんまりアスラン様が好きじゃなさそうなのって、そのせいなんじゃないの?」
「……。別に、嫌いってわけじゃないけど」
わたしの質問に、ばつが悪そうにレイヴンが答える。
ずっと気になっていたのだ。
もともとレイヴンは、誰にでも愛想のいいと言うタイプではなかったけれど、アスラン様に対しては何だか一線を置いているようなふうに見えたから。
「いいだろ。別に嫌がらせとかしてるわけでもないし。仲良しこよししないと困るわけでもないし」
「わたしは、ふたりが仲良くしてくれたほうが嬉しいけど」
「……」
わたしの答えに、レイヴンはなんとも言えない顔をして「……前向きに努力してみるよ」とぽつりと答えた。
「じゃあ、そろそろ寝ようか。レイヴン」
「ん?」
相変わらず、本に齧り付いているレイヴンに向かって、ぽんぽん、と寝そべっているベッドの傍を叩く。
「ん」
「……なに? どういうこと? 意味がわからないんだけど」
「一緒に寝るの」
「……は?」
わけがわからない、という表情をするレイヴンに向かって、わたしはついさっき思いついた名案を説き出す。
「眠る時もひっついて寝れば、レイヴンの浄化が早まるんじゃないかと思って」
「……それは……、流石に皇太子のやつも気分良くないんじゃないのか?」
「何言ってるの! もちろん、いつもの姿に変身してだよ」
わたしにとってはレイヴンは家族のようなものだし、いまのままでも弟にしか見えない少年の出立ちだから、孤児院で弟分たちを抱きしめて寝てきたわたしとしては、そんなに気にするほどのことでもないのだが。
まあ確かに、このままの姿だと、多少アスラン様が気にはするだろうと思うので。
黒ポメだったら大丈夫だろうと、人化を解除するようにレイヴンを説得する。
「……えぇ……、俺、知らないぞ……」
俺は一応止めたからな、とレイヴンが釘を刺しながら、ぽふん! と、少年から黒ポメに姿を戻す。
「よしよーし。ほらレイヴン。おいでおいで」
「ぽめ」
わたしが再び枕元を叩くと、黒ポメになったレイヴンが素直にぽてぽてとベッドにかけてきた。
流石にベッドに飛び上がれないだろうと思い、足元まできたレイヴンを抱き上げ、そのままぎゅっと抱きしめながら、ころりとベッドに寝転がる。
そういえば、聖王国に来たばかりの頃。
レイヴンと出会ったばかりの時は、よくこうして一緒に寝たな、と思い出す。
孤児院の時みたいに気軽に話せる人もいなくなり、聖王様には放置され、フレドリック様からは酷い扱いを受けて。
泣きたい気持ちを堪えながら、よくこうして寝ていたっけ。
あの時と比べて、今はこんなに幸せだ。
あの時のわたしに教えてあげたい。
あなたの頑張りは、ちゃんと報われるよ、って。
そんな、暖かい気持ちに包まれながら、眠りにおちようとしている中で。
わたしは、気づかなかった。
気づかなければいけなかったのに。
その時、レイヴンがどんな思いで、わたしの腕の中で、ひとり考え込んでいたのかを。
お読みくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』『評価』で応援いただけると嬉しいです。
広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、
今後のモチベーションに繋がります。
何卒応援よろしくお願いしますー!!!!




