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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第一部

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第20話 ああ、わたし、この人のこと好きだなあ

 唇の、口角の部分。

 頬と唇の境目のあたりを、柔らかく暖かいものが触れている。


 しばらくして、それが離れたかと思うと、そのまま頬に触れて、また肩口に埋もれていった。


「……これ以上はもうしない……。エステルが可愛すぎるのがいけない……」


 わたしの肩に顔を埋めながら、アスラン様がモゴモゴとうめく。


「アスラン様……」


 肩に顔を埋めたまま、抱き込むようにわたしを抱き締めているアスラン様の背中を、あやすようにそっと撫でる。


 ああ、わたし、この人のこと、好きだなあ。


 子供のように、アスラン様がわたしの肩に顔を埋めるのを感じながら、改めて実感した。

 ――が、そこでようやく、いまここが、ふたりっきりの場所ではないのではないかと言うことに思い至った。


「あああ、あのアスラン様。ここって今、周りにアスラン様の護衛の人がいらっしゃいますよね……?」

「え、あぁ……」

「わ、わたしたち、めちゃくちゃ見られているのでは」


 わたしがそう言うと、アスラン様がのっそりと、名残惜しげにわたしから体を起こす。


「大丈夫だよ。誰もそんな気にしないから」

「わ、わたしが気にします!」


 どう考えたって、今この場は明らかにアスラン様の指示待ちの状態なのだ。

 確実に周囲に生ぬるい空気が流れているのだと思うと、急に居た堪れない気持ちになった。


「ぽめ!」

「あ、レイヴン……」


 いつのまにか、フレドリック様の足に噛み付いていたはずのレイヴンが戻ってきて、わたしの足元に体を擦り寄せる。


「ありがと、レイヴン。わたしのために、フレドリック様にやり返してくれたんだよね」

「ぽめ……!」

 

 そう言って、わたしはレイヴンを抱き上げると、改めてありがとうとお礼を言う。


「さあ。じゃあ、これ以上暗くなる前に、家に帰ろうか」


 アスラン様が、レイヴンを抱き上げたわたしに向かって、再び手を伸ばす。


 ――そうだ。

 いまのわたしには、一緒に帰ろうと言ってくれる人がいる。


 他の誰でもない、わたしだけを必要としてくれる人が。


 わたしは、差し出されたその手に、自らのそれをゆっくりと重ねる。

 その繋いだ手に引かれて、わたしは今度こそ、この手がずっとわたしの帰る場所であり続ければいいなと、心から願うのだった。


 *


 数日後。

 皇帝の応接室にて――。

 

「フレドリックは罪人として聖王国に帰す。同時に、エステルを帝国で預かっていること、罪人がエステルに行ったことを聖王に通達し、聖王自身には自国の管理が行き届かなかったことを理由に謹慎処分とする」


 それが、アスラン様が下した、聖王国への処断だった。

 アスラン様の発言を受けて、皇帝陛下が口を開く。


「聖王を謹慎処分とするなら、今後の聖王国の管理はどうするつもりなのだ」

「それについてなのですが。父上、聖王国をしばらく、皇太子直轄領とすることを考えています」


 皇太子直轄領とすることで、わたしを聖王国に戻してもアスラン様の庇護下に置いておくことができるし、なんなら直轄領だからアスラン様自身もしばらく聖王国に拠点を移して、そこで政務をしても問題ないですよね――という、なんとも私利私欲を多分に感じる名目であった。


「皇族の領地が増えることに、うるさい貴族たちが文句を言ってきそうなのが頭が痛いのだが……」

「しばらくの間ですよ、父上。幸い、父上はまだまだ元気に公務を行えますし。父上が皇位を退くまでに、僕が子供を二人くらい作って育てておけばいいんですよね。僕の子供なら、りっぱな聖王の血筋になりますし」

 

 聖王国を統治させるにあたって、全く問題のない人選、プランじゃないですか――と。

 

 にこにこと、さも当たり前のように皇帝陛下に向かって話をするアスラン様の話を横で聞いて、わたしは危うく飲んでいたお茶を噴き出すところだった。


 こ、子供……?


 ……って、誰との子供のことを話しているんですか……?


 もちろん、いちおう名目上婚約者であるわたし――と言い切るには、自意識過剰なのではという思いと、子供を産むと言うビジョンまでまだ持ちあわせてなかったと言う動揺があるのであって。

 アスラン様のことが好きだ……と言う自覚はできたものの、人としてはもちろんとても好きだが、男の人として好き……? とかどうとかは、まだわからないので……。

 などと、思っていたら。


 がしっ。


「……なにか良からぬことを考えているような気がするから先に釘を刺しておくけど、子供っていうのはもちろん、僕とエステルの子供のことだよ」


 アスラン様が、わたしの肩を掴んで、ずい、と念を押してきた。

 

 え……。

 このかた、読心術でも持ってるんでしょうか……。

 わたしが思考を逃避させようとしたのを前もって察したのか、逃れようもないほどストレートに釘を刺してきたのであった。


「まあ……、私としてもね、息子が子作りに励んでくれるのであれば、特に異論はないけどね……」

 

 皇帝陛下からの『人の部屋の中でいちゃつくな』オーラをひしひしと感じつつ――もちろんそれはアスラン様に向けて送られているものではあるのだが――とりあえず、アスラン様は話を先に続けることにしたようだった。


「とりあえずエステルと一緒に、そろそろ一度、聖王国に向かうべきかとは思っております。本音を言うとあまり気は進みませんが、そろそろ聖王も限界でしょうし」


 フレドリック様を馬車で輸送させつつ、わたしとアスラン様は転移門で移動する、という方向で考えているらしい。

 転移門とは、大掛かりな魔道装置の一つで、人をある地点から別の地点へ転送する装置のことである。

 王族や皇位貴族が国家間を移動するために作られたものだが、使用するのに莫大な魔力と料金がかかるので、平民が使えないと言うのも実際のところではある。


 そう言うわけで、わたしは再び、聖王国の地に戻ることとなったのだった。

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