第18話 プレゼント!? え、マーキングってなんですか?
「エステル、次これつけてみて」
「あの……、アランさん……」
帝都の外れにある、ひっそりとした路地裏のアクセサリー屋さんで。
わたしは今なぜか、アスラン様に取っ替え引っ替えアクセサリーを付け替えさせられております……。
「ほんとにここ、アランさんのよく来るお店なんですか……?」
「え? うん、そうだよ?」
なんというか、帝国の皇太子がよく来ると言うにはやや……女子向けのアクセサリーが多すぎる店内に。
アスラン様の行きつけ、というよりは、わたしのためにチョイスしてくれたお店なのではと勘繰ってしまう。
「あ、エステルもしかして」
何に気づいたのか、アスラン様が悪戯っぽい顔になって、わたしの顔を下から覗き込んでくる。
「僕がここで、他の女の子にもこうやってアクセサリーを買ってるんじゃないかとか心配してる?」
「えっ……」
アスラン様に、暗にやきもちを焼いているのではと仄めかされる。
実のところ、そう言われるまで特にそんなことを考えてもいなかったのだが、改めて言われたことで、アスラン様が同じように他の女の子にプレゼントを探している様を想像したら、なんだか少しもやっとした。
「ははっ……、からかってごめんね。エステルが心配しなくても、もちろんここに他の女の子を連れてきたことはないし。ここはね、知り合いがやってる店なんだ」
「そ、そうなんですね……」
「そうよぉ。アランてば、可愛い彼女連れてきちゃって。どうしたの?」
そう言って、やたら綺麗な熟女のおねーさんが、突然わたしたちの背後から会話に割って入ってきた。
「やあ、ナタリア。そうだよ、今日は彼女を連れてきたんだ」
平然と『彼女』と答えるアスラン様に、慣れないわたしはまたしても赤面する。
「おやおや……、本当にえらく可愛らしい子だね。安心しな、お嬢さん。本当にこいつは、ここに他に女を連れてきたことなんてないからね」
「そ、そうですか……」
「ねえナタリア。彼女に、なにかアクセサリーを探してるんだけど」
動揺するわたしをよそに、アスラン様はナタリアさんと一緒に、わたしのためのアクセサリーを厳選していく。
「できれば、ずっと身につけられるもので、さりげなくて、でもちゃんと主張もあって……」
「随分と注文が多いね……」
アスラン様の注文の多さに、ナタリアさんが呆れ顔になった。
「当たり前でしょ? はじめてのプレゼントなんだから」
「えっ!? そんな、大丈夫ですアランさん。わたし、自分でお金を払います!」
「何言ってるの? 僕が買ったものをエステルにつけてもらうのが楽しいのに。エステルが自分で買ったら意味ないよ」
慌てるわたしに「むしろそれがやりたくて来たんだよ?」とアスラン様が平然と答えるので、わたしはそれ以上、何も言えなくなり……。
そんなこんなで、最終的にアスラン様が選んだのは、ゴールドの華奢なデザインのピンキーリングだった。
ひっそりとさりげなく、アスラン様の瞳と同じ色のアメジストも嵌め込まれている。
「うん、いいね。ちゃんとしたのはまた改めて贈るから、とりあえず今のところはこれを肌身離さずつけててね」
「ちゃんとしてなくて悪かったわね」
失礼な……、とナタリアさんが半目で睨む。
「でもまあ、そんなに大事な彼女なのねー。妬けちゃうわあ。羨ましいわあ」
「何言ってるの。自分だってとっくに素敵な旦那がいるじゃないか」
「まあね」
そうやって軽口を言い合う二人を見ると、どうやらここがアスラン様の行きつけというのは本当のことらしい。
仲良さそうに掛け合っている二人を見ていたら、ふいにアスラン様がこっちに向き直り、「じゃ、エステル。左手を出して」と言われた。
そうして、アスラン様に促されるままに左手を出すと、そのままスッと手を取られ、小指に購入したばかりのピンキーリングが嵌められた。
――そう言えばわたし。男の人に、指輪をもらうのなんて初めてだ。
慣れなくて、こそばゆくて……、嬉しくて。
思わずいろんな角度からまじまじと見つめる。
「お嬢さーん、それ、マーキングだからね。気をつけ……ったっ!」
「うるさいよナタリア」
二人の方をちらりと見ると、店のカウンターから野次を飛ばしてくるナタリアさんに、アスラン様がニコニコしながらすかさず突っ込むという、珍しい光景が繰り広げられていた。
*
その後は。
アクセサリー屋の外で待たせていたレイヴンを伴い、屋台でクレープを買って食べながら公園を散歩したり、路上で音楽を演奏する人たちを並んで一緒に眺めたりと、いわゆる、普通のカップルのしそうなデートというものを、アスラン様がエスコートしてくれた。
天気もいいし、レイヴンもいるので、最初のアクセサリー屋さんこそレイヴンを外で待たせてしまったけれど、その後はみんなで楽しめるコースを選んでくれたのだ。
そうして、散々遊んで、日が暮れて来た頃。
「帰る前に、エステルを連れて行きたいところがあるんだけど」
ちょっと歩くんだけどいいかな? と、アスラン様が気遣ってくれる。
全然大丈夫ですよ、と答えたわたしが、アスラン様に手を引かれて連れて行かれたのは。
帝都から少し離れた高台にある、街全体を見渡せる見晴らし台だった。
「わぁ……」
陽が傾きかけ、茜色に染まる空の下で、一つ一つの家にぽつぽつと灯りはじめた灯りが、キラキラと輝き始めていた。
「僕の都合で、結局エステルをずっと忙しくさせちゃって、ゆっくり街を見る暇もなかったでしょう? ――ここから見えるこの街の景色が、一番綺麗だから。エステルにどうしても見せたかったんだ」
後ろから、美しい景色に感動するわたしの両肩に手を乗せたアスラン様が、耳元で優しくささやく。
「アスラ、アランさん……」
その素晴らしい光景に、そして、アスラン様の思いに感動したわたしが、思わずアスラン様名前を呼びながら振り返った瞬間――。
「――そこまでだ」
嫌と言うほどに聞き覚えのある声が、突然割って入ってくる。
「迎えに来たぞ、エステル。追放は撤回するから――私と一緒に、聖王国に戻るんだ」
わたしの記憶にあるよりも、くたびれた出立ちに変わり果ててしまった、フレドリック様がそこに立っていた。




