第13話 へっ? わたしってけっこう、すごい聖女なんですか?
「ま、魔獣……!?」
「正確には、魔獣の一部……つまり浄化された肉体の部分。核となる魂の部分はまだ聖王国にあるし」
それは、結局のところ魔獣本体っていうことなのでは……?
「まあ、警戒する気持ちはわかるけど。弁解というかちゃんと説明すると、ここにいるおれは、エステルに浄化されて人化できるようになった部分だから。警戒しなくても、害を与えることはないよ」
そう言って、両手を上げながらレイヴンが告げてくる。
「浄化……? わたしが……?」
「聖女の能力っていうのは、人から感謝されるほど高くなる。エステルは、聖王国にきてから自主的に人助けに励んでたじゃないか」
確かに……。
生まれ持った身分が低い聖女だから、せめて人の役には立とうと、聖王国にいた時はあくせくと働いていた。
それこそ、寝る間を惜しむほどに。
結果それが、しんどくなって過重労働になって最後には自分の首を絞めるほどにヘトヘトになっていたのだけど。
「エステルが聖女になったことで肉体が綺麗に浄化されて、肉体に宿った意識の残滓が自立するくらいに復活したんだ。そのうちなんとか実体を持てるようになったから、それであの黒い犬みたいな姿でエステルの前に出てくることができたんだけど」
「はぁ……」
「それが……! もうちょっとで魂の方も浄化が終わるかって時に、あのバカ王子が! エステルを追放なんてするからさあ」
そう言って、レイヴンがぷんぷんと怒り出す。
「ちょ、ちょっと待って。話についていけなくて……。もうちょっとで浄化が終わる?」
「そうだよ。肉体が再び自立できるくらいに浄化されて、あとは魂の浄化が終われば、転生できるはずだったんだ」
レイヴンの説明によると、つまりはこういうことだ。
もともと聖獣(という名称となっているが、実際には神の御使にあたるので、神獣と呼んだ方が正しいらしいが)だったレイヴンだが、闇落ちして魔獣になったことで、倒された後、輪廻にのることができなくなってしまった。
そこを、神様の計らいで、何百年かかるかわからないが聖女の浄化を受け続け、最終的に瘴気が除去されるまでになったら、聖獣に戻してあげるから輪廻にのっていいよ、という話になったのだそうだ。
「肉体と魂を分化したおかげで、こうして肉体の方は人の姿をとれるくらい回復できたけど……、バカ王子のせいでエステルと魂が離れちゃったから、完全浄化ができなくなっちゃったじゃんか!」
「そ、そうなんだ……」
よもや、そんな事態になっているとは……。
というか、自分が聖女として結構役に立っていたのだという事実を、追放されてから知らされるとは。
「え、じゃあわたし、なるべく早く聖王国に戻ったほうがよかったりするの?」
わたしが離れてしまったことで魂の浄化が滞ってしまっているのであれば、早く聖王国に戻って魂の浄化を進めたほうが良いのだろうか?
そうなると、わたしの独断では行動できないし、アスラン様にも相談しないといけないなあと思って聞いてみる。
「まあ……、中途半端な状態で浄化が止まっちゃってる魂については、ちょっとかわいそうかなーとは思うけど……」
自分の肉体を、まるで他人事のようにかわいそうと言うレイヴン。
え、なんか軽い調子で言ってるけど、いいのそれ?
「とはいえ正直、エステルを虐げてたバカ王子も、バカ王子を御しきれなかった聖王も、ちょっとは痛い目見ろと思わなくはない」
「て、手厳しいなあ……」
なんだか、アスラン様と同じようなこと言ってるし。
まあ、アスラン様も結局のところは元聖獣の子孫になるわけだし、血筋が同じだと思考も似たようなこと考えるんだろうか?
「その、浄化が放置されてる魂の方は、放置されてることで痛かったり辛かったりすることはないの?」
「うーん、まあ……結局痛みとかっていうのは大半、痛覚のある肉体が感じるものだし。肉体がここに出てきてて、エステルの近くでいまも浄化されてはいるから。感覚的なものはそんなに辛くはないと思うけど」
「けど?」
「……どこか、寂しくはあるんじゃないかな。おれたちにとって、エステルの浄化の力っていうのは、癒しであり温もりなんだ」
そういう意味では、早くなんとかしたいって思いはあるけどね、とレイヴンが言う。
「……。結局のところ、わたしはどうしたら……」
「まあ、聖王国側がどう出てくるのかを一旦様子見で、あとはここの皇太子に相談するのがいいんじゃない?」
あんまり長いこと放置しないほうがいいとは思うけど、いますぐ動かなければいけないほど切羽詰まった状況でもないと思う、とレイヴンが言う。
「聖王は呪いを受けて苦しいだろうから、かわいそうっちゃかわいそうだけど、日頃の行いが悪くなければ、天の采配が働いて解決の方向に動くだろうし」
「そういうものなの?」
「うん。結局のところ、この世界の力のありようって”業”だからね」
そういうと、レイヴンは「はー、久々にたくさんしゃべった……」と言って、ぽふっ、とわたしの膝の上に身を投げ出し、ごろごろとくつろぎ始めた。
「業……」
「エステル、ちょっといい?」
レイヴンの言った言葉の内容について、わたしが思いを巡らせ始めたところに、コンコン、と部屋のドアをノックする音がした。
――アスラン様だ。
「あ」
「? エステル? いないの?」
「は、はい!」




