405 バックアップ
「予備は取っとるで安心して。厳重に保管しとるで心配無用」
ドヤ顔で主張するのは、役場職員の竹中。
他所は何もしていないから、ニュースで報道されるような事態に陥っているけれど、出入業者のお墨付きがあるから『うちは安心』と自信満々。
他所を批判し、具体性の無い講釈を垂れる人は、内容が伴っていないことが多い。
自分の目で確認しないと信用出来ない――竹中の機嫌を取り、見せてもらうことにした。
竹中が得意げに紹介した現状は、同じ階にある『予備』という名の倉庫に、複製した書類を保管するというもの。
何もしていないよりは良い。
だけれど、この方法では有事の際に、破綻する。
同じ階に存在しているのだから、身代金要求プログラムの攻撃対象には、予備用倉庫内の書類一式も含まれる。
竹中が批判した他所は、何もしていなかったのではなく、予備ごと暗号化されただけ。
問題点は、予備 の目的が、復旧ではなく安心を得ることにすり替わっていること。そのせいで復旧が困難になっている。
館内マップによると、予備用倉庫がある階には、喫茶店も併設されている。火災の発生可能性は低いとは言えない。延焼すれば原本共々取り出すことが出来ない状態に至る。
損傷していない書類を持ち出せるようになる時期は、事態が落ち着いた後。それまでは被害状況を確認することさえも出来ない。
とはいえ、それを帰蝶が指摘しても、自信に満ちている竹中が聞く耳を持つことは無さそう――竹中自身が気付き、自らの意志により改善が必要という判断に至るよう、陽動する必要がある。
目視確認した範囲では、予備用倉庫付近に防火戸や、防火シャッターは無かった。
「延焼を防ぐ防火設備にも、力を入れているんですか?」
帰蝶は岐阜弁しか話せないわけではない。TPOを弁え、標準語で質問する。
「避難訓練は、していますよ」
竹中は論点をすり替えた。
でも、不十分であると自覚しているからこそ即答した。ならば単刀直入に。
「この構造だと、予備用倉庫も燃えてしまいますね」
もしも竹中が、燃えても構わないと考えているならば、帰蝶が改善を促す行為は、お互いにとって時間の無駄にしかならない。
「……あっ! それはマズイです」
竹中にも危機意識はある様子。
「階を分けるだけでも、被害を緩和出来る確率を上げられます。全焼すれば終わりですけど」
「早速、保管する階を変更します。全焼に備えて、他の施設に移すことを検討する方が良さそうですね」
「施設を分ければ、安全性は向上します。でも、転送時間が長くなるので、その分復旧に要する時間も長くなってしまいます。なので、並行して運用する方が安心です。あと、保管方法も変更することで、安全性を更に向上させることも可能です」
「出入業者のお墨付きがあるのに、何か問題があるのでしょうか?」
「複製した書類を保管する方法だと、身代金要求プログラムにより原本が暗号化されると、予備用倉庫に保管している書類が、暗号化された書類で上書きされてしまいます」
「……あっ! それはマズイです」
「現状の方法は、フルバックアップというものです。お勧めは、増分バックアップという手法です。最初に現状と同様にフルバックアップを行います。その後は、前回バックアップ時から変更や追加があった書類のみを保管します。この方法には、指定した時点の状態に復旧出来るメリットがあります。ですが万能ではありません。途中のバックアップデータが破損すると、以降のデータを復元出来なくなるというデメリットもあります」
「デメリットがあるのに、何故お勧めなのでしょうか?」
「例えば日曜日にフルバックアップし、月曜日から土曜日にかけては増分バックアップをする。そうした運用をすることで、一週間以内の状態には、復旧可能になります」
「完璧ですね!」
「いいえ。フルバックアップ前に暗号化されると復旧出来ません」
「では、どうすればいいんですか!?」
苛立ちを隠さず、声を荒らげる竹中。
「バックアップをバックアップする機構を設けて対応します。日曜日に取るフルバックアップを、直近一ヶ月分、別の場所に残しておくという感じです。一ヶ月分とはいっても、日数分ではなく四回分なので、容量に余裕がある場合は、期間を伸ばすことで安全性を高められます」




