死亡届
診療所に戻り、ルーカスと二人で(ジャンは護衛中だからと断った)お昼を済ませ、お茶を飲みながらリリーナに起きた事や聖魔法の事を話した。もちろん音声遮断魔道具を起動させて。
「聖魔法か。聞いたことがあるよ」
「そうなの?」
「あぁ。王族と教会は不可侵協定を結んでいるが、ある程度の情報交換はしているんだよ。使えるものがいるとなればリリーナは色々な者たちに狙われるね。例え僕の婚約者であろうとも。隠しておくのが一番だね」
「そうね。知っているのは叔父様、叔母様、メリッサ、ルーカス様、ジャンとお母様だけよ。お兄様には今度会った時に伝える予定。お父様には・・・言うつもりはないわ」
(それ以前に手紙を拒否されているしね。開封もされていなかったし。見る価値もないってことね。本当、なんでこんなに実の娘を嫌いになれるのかしら)
「・・・サイフォールド伯爵か」
ルーカスの顔色が明らかにおかしくなった。
「ん?どうしたの?」
「あぁー・・・実はサイフォールド伯爵から・・・・妻と娘の死亡届が出されたんだ」
「???」
「お父様の妻と娘・・・」
ルーカスがコクリと頷いた。
「つまり・・・私とお母様、よね?」
「あぁ。妻のサリーナと娘のリリーナは病に倒れて亡くなったそうだ。死亡届を見た限り、偽造されていないし、きちんと実在する医師のサインもあった。だがその医師は行方知れずになっている」
「私、死んだの?」
リリーナは頭が混乱していた。
(ここは夢の世界?それとも死後の世界?)
「待て待て。死んでない。サイフォールド伯爵の意図は不明だが、リリーナ達がこの村に向かった翌日に亡くなったという診断書が届いているんだ。僕が気づいた時にはもう葬儀も済んだ後だった。死亡届も受理されていた。
サイフォールド伯爵にも父上や母上にもリリーナ達は生きていると言ったが信じてくれない。愛する婚約者が亡くなったショックでのおかしくなったと思われている。
君の兄君とジャンはリリーナ達が生きていると知っている。
この三人以外はリリーナ達の死を認めている。
どうしてこんなことになっているのかは分からないんだ」
「お父様だけでなく陛下や王妃様まで・・・」
「本来であればリリーナを王城まで連れて行って生きていることを証明したいのだが、それこそ僕がおかしくなってリリーナに似た別人を連れてきたと言われるとジャンに止められた」
「わ、わ、私は・・・どうしたら・・・」
「一先ずこの村で療養していてくれ。お母君もまだ本調子ではないのだろ?二人共本来の生活をおくれるようになったら今後のことを考えよう」
「そ、そうね。だいぶ回復したけど、筋力が衰えていて、やっとゆっくり歩けるようになった所で」
リリーナはあまりの衝撃的な話に頭が真っ白になり、意識がハッキリした頃にはいつの間にか部屋のベットに寝かされていた。
(あぁ。私が死んだってことはもうルーカス様の婚約者でもなくなってしまったのね。救いなのはお母様も一緒ってことくらいかしら?あ、お父様と縁が切れたことも救いね。ふふ)
『トントン』
リリーナが考えを整理していると、控えめにドアをノックする音が聞こえた。あきらかにメリッサのそれとは音が違う。
「?どなた?」
「僕だよ。今、いいかな?」
「あ、ちょっと待ってて」
リリーナは起き上がり、手鏡を出して、少し乱れた髪を整え、ベットの端に腰掛けた。
「どうぞ」
「失礼する」
ルーカスは一人で部屋に入ってきた。
「ジャンは?」
「あー畑仕事を手伝っているよ」
「そう・・・」
何を話したら良いのか考えがまとまらず沈黙してしまう。ルーカスはそっとリリーナの隣に腰掛けた。
「・・・・実は・・・新たな婚約者を持つよう言われているんだ。」
(やっぱりね・・・私は・・・振られるのかしら?)
「・・・普通なら一年は喪に服すからこんなにすぐに婚約者の話はでないんだけどね。それに僕はまだ10歳で成人するまで6年もあるし急ぐ必要もないのだけど。・・・・もしかしたらリリーナ達の死亡届は僕の婚約絡みかもしれない」
「・・・病にかかった初めの頃、お父様に婚約を辞退するよう言われたことがあるわ。従姉妹のエリザベートに譲ったらどうかって」
「そうか。だが父上と母上はリリーナのことを気に入っていた。サイフォールド伯爵に協力する要素はないな。本当に何が起こっているのだろう?」
「分からないわ」
「あーリリーナは・・・その・・・僕との婚約がなくなることをどう思う?」
「寂しく思うわ。5年も婚約者として一緒にいたのだもの」
「いや、聞き方が悪かったな」
ルーカスはポリポリと頭を書いて、少しの間考え込んだ。リリーナはそんなルーカスを見つめ、急かさないように次の言葉を待った。
「この婚約は僕の我儘で成立したものだ。リリーナはお慕いしているとは言ってくれてはいるが、本当の気持ちを知りたいんだ。いや、君の気持ちを疑っている訳ではないんだ。何というか・・・どこまで僕を求めてくれるのか知りたくて・・・どんな困難があろうとも僕の妃として隣に立ってくれるかい?・・・例え・・・王子じゃなくなったとしても」