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死んだことにされた伯爵令嬢は公爵令嬢として幸せになる  作者: ちる
リリーナ・サイフォールド伯爵令嬢は死んだ
5/26

ルーカスの来訪

「今日から外に出ていいのよね!?」


リリーナは朝食のパンを片手にアドリードに問いかけた。


「はい。完治から二週間以上経っていますし、他の者への感染もないようなので。体力も戻ってきてはいますが、まだ万全とはいえないので無理はしないで下さい」


リリーナ達が感染した病気は感染から発症まで二週間と長く、いくら完治しているとはいえ他の村人達の心情的にも少なくとも二週間は外出禁止が必要だとアドリードは説明していた。


「はい!近くを散歩するだけにするわ」


リリーナはピンクの飾りも何も無いワンピースに見を包み、腰まである長い髪を器用に結い上げ一纏めにし、大きな麦わら帽子を被った。可愛らしい村娘の出来上がりだと本人は思っているが、整った顔立ちと王子妃教育のおかげで洗練された所作は貴族にしかみえず、村娘の格好のご令嬢にしか見えない。


「さぁ、ちょっと村を探検してきましょう」


メリッサは母の専属侍女であり、リリーナの専属侍女は存在しない。本来ならいて当然なのだが父がリリーナだけ冷遇しているため付けていない。第一王子の婚約者なので王子から護衛を数名付けられていたが、病気になった為すぐにいなくなった。小さな頃はよく一人で森を散歩したり、花畑で遊んでいたリリーナは久々に一人で自由に歩けることに喜びを感じた。


外に出ると畑仕事をする人たちや家畜を散歩させている人たちと出会った。畑には色とりどりの野菜が広がり、収穫に追われていたので、微力ながらお手伝いをすることにした。


「ふぅ。こんな感じで大丈夫かしら?」


リリーナの横に置いてあるカゴには収穫したての真っ赤なトマトが山盛りに詰まれていた。ちょっと頑張りすぎたのか座った姿勢から立ち上がると少しクラっとしてよろけてしまった。


「おいおい、お嬢ちゃん、あんまり無理しちゃ駄目だよ。あんたお貴族様だろ」


少し離れた場所にいたでっぷりした中年男性はちょっと慌てた様子で近寄ってきた。


男性はエリック、この畑の持ち主だった。妻が病気にかかり、薬があれば治る病気だった為借金してまでして買った薬は偽物。家は取り上げられ、病気の妻と無一文で放り出された。行く宛もなく、もう始まりの森で二人仲良く魔物に食べられようとやってきた所をフィーリアに救われた。


「そうなのね。じゃぁここの村人達は皆死ぬために来て、叔母様、叔父様に助けられたのね」


畑の近くの大きな切り株に腰掛けてエリックが入れてくれた薬草茶を啜りながらリリーナは畑仕事をする村人達を眺めた。皆汗水垂らし楽しそうに野菜を収穫している。


「そうだ。フィーリア様とアドリード様には感謝しかない」


エリックは当時を思い出したのか少し涙ぐんでいた。


「フィーリア様とアドリード様のおかげで私も元気になってねぇ。この人も痩せ細ってごぼうみたいな体だったのが今やこの腹。あははは。ほんとお二人のおかげで幸せよ」


エリックの隣に座る奥さんのメリンダはとても健康そうな笑顔をリリーナに向けた。


「ふふ。それは良かったわ。私も二人のおかげでこの通り元気になったわ」


「それはよーござんした。そろそろお昼になるぞ。お嬢ちゃん、うちの野菜食っていくか?」


「あら、もうそんな時間なのね。どうしようかしら?」


ふと視線を感じ、農道の方に目を向けると見知った顔を見つけた。


「あら。あの方は・・・。

ごめんなさい。お客様がいらっしゃったみたいで、本日はお暇いたしますわ。お誘いくださってありがとう」


「そうかい。じゃぁ今度来たら美味しい野菜料理をご馳走するからね。フィーリア様とアドリード様によろしく言っとくれ。また明日野菜を持っていくよ」


「はい」


リリーナはペコリと頭を下げ、農道へ向かった。


「姫様。本当にお元気になられたのですね」


農道に立っていた少年はうっすらと涙を浮かべ、跪いて騎士の礼をした。


「ふふ。ジャンはルーカス様から聞いて来たのかしら?ええ、この通り元気よ。お母様も回復されたの」


「本当に良かったです。ルーカス殿下も心配されて、姫様の元気なお姿を早く見たいと駄々こねまして」


「まぁ。それではルーカス様もご一緒なの?先触れも頂いていないわよ?」


「あー姫様を驚かせたかったようで」


「もうルーカス様ったら。じゃぁ急いで戻らなくては行けないわね」


「病み上がりですし、急がなくても大丈夫ですよ。おそらく殿下の方からこちらにいらっしゃるでしょうし」


リリーナが診療所のある方の道に目を向けるとキラキラと光る銀髪の美少年が村の少年達が着ているようなシャツと短パン姿で手を振って歩いてくるのが見えた。違和感しかない。


「ふふ。あら、本当ね」


(お忍びとはいえ、さすがにあの格好はないわね)


「リリーナ。君は本当に元気になったんだね。会いたかったよ」


ルーカスはリリーナの手の甲にそっとキスを落とし、そっと抱きしめた。


リリーナは顔を赤らめて俯くと、自身の格好に気づき、ルーカスの胸に手を置いて距離をとった。


「駄目よ。畑仕事してたから汚れているわ」


「汚れても大丈夫だよ。僕も今日は村の少年だからね。村娘さん」

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