聖魔法
「えっ!?な、な、なんですかこれは。魔力がありません。あ、いや、少しはあるのでしょうか?魔力計を持ってきましょう」
アドリードは急いで部屋を飛び出して行き、大きな天秤はかりの様な物を持って戻ってきた。
「旧式で数値化することはできないですが、僅かでも魔力があれば反応します」
秤の底の部分の蓋を開け、小さな水晶の様な魔石を差し込みスイッチを入れ、リリーナの側に置いた。アドリードが持っていた時ははかりの針がゆらゆら揺れていたが、リリーナの側に置いた瞬間ピタリと止まった。止まった位置は魔力なしを示していた。
「これは・・・魔力枯渇・・ですね」
魔力枯渇とは魔力が全くなくなっている状態である。本来、魔力とは空気のように目には見えないが血液の様に体の中で作られ、体の中にある魔力タンクと呼ばれる臓器に蓄えられる。その臓器は臓器とは呼ばれているが実際は目に見えるものではない。そして人によって大小様々である。なので、子供なのに大きな魔力タンクがある者もいれば、大人なのに小さな魔力タンクの者もいる。タンクに入り切らなかった魔力は呼吸と共に体外へ排出される。タンクの容量以上の魔法は使えない為、より高度な魔法を使える者は大きな魔力タンクを持っている。魔力タンクが無い人間はいない為、魔力枯渇という状態はこの世界の人間にとって死を意味する。
「そ、そんな・・・お嬢様・・・」
(あーどうしてうまく行かないの。魔力枯渇なんて・・死んでいるのと同じじゃない)
メリッサは両目に涙を浮かべ、両手はリリーナの右手をしっかりと握っている。
「リリーナは生きているのよね?」
フィーリアがメリッサが聞きたかったが聞けない一言を言ってくれた。
「もちろん。心臓も動いていますし、呼吸も正常です。あー・・・魔力が回復すれば目覚めます」
「魔力枯渇なんて死ぬのと一緒の状態でしょ!?魔力が回復しても目を覚まさないってこともあるんじゃない?」
(確かに。植物状態なんてことも考えられる。そ、そんなことになったら・・・)
「ちょっとお待ちを」
アドリードは胸ポケットから小さな砂時計を取り出し、ひっくり返してテーブルに置いた。
「音声遮断魔道具なんか作動させてどうしたの?」
「これから話すことは教会の極秘事項なもので。念の為に」
「「!?」」
それを聞いた二人は目を見開いて口をパクパクさせていたが、アドリードは構わず話を続けた。
「魔力枯渇を起こしても生きている人間はいるんです。リリーナ様のように。
1000年前に教会を作った方も魔力枯渇を起こしても大丈夫な方でした。彼方は治癒魔法に秀でた方で、瀕死の患者や腕や足が欠損した患者も治すことができました。あまりに強大な魔法をお使いになっていた為、いつしか彼方がお使いになる治癒魔法は聖魔法と呼ばれる様になりました。
私が教会で働く事になった時、あまりの魔力量の多さと治癒魔法を得意とすることから聖魔法を使用できるのではと調べられたのです。結局聖魔法は使用できませんでしたが。
リリーナ様はきっと聖魔法をお使いになって魔力が枯渇したのでしょう。聖魔法の使用者は自身の魔力以上の魔法が使えるそうです。
1000年たち聖魔法が御伽噺だと世間では思われるようになりましたが、教会にとっては聖魔法は神の御業に等しい扱いになっています。聖魔法を使えると知れれば、よくて大聖女に祭り上げられ、悪くて監禁されるでしょう」
(あれ?リリーナって聖魔法が使えたの!?聖魔法が使えるのってマリアだけじゃなかった?この世界はゲームとは違うってこと?)
「リリーナ様の為にも聖魔法が使えることは秘密にしておくべきですね。一先ず、お二人の病は思いの外軽症で、私が治癒魔法を使用して治したことにしましょう」
「分かったわ」
「承知いたしました」
三人はその後、これからのことを話し合うことにした。