母の事情⑤
「えっと・・・お母様とおと、いえサイフォールド伯爵は結婚してるわよね?」
「ふふ。ヨキアムとの婚約の前にノアとの婚姻届が受理されていたのよ。この国では重婚は禁止されているから。側妃なんて王族しか持てないしね」
「なるほど」
「それにヨキアムとの婚約届は偽造なのよ。だって私はサインなんかした覚えないんですもの」
婚約届や婚姻届などの契約書類は偽造防止の為、本人の魔力を込めたサインをすることになっている。それを怠った書類は全て無効となる。エドガーはサリーナに言ってもサインは貰えないと思ったので勝手にサインしていた。貴族は魔力登録をする義務があり、怠ると貴族籍が抜かれ、平民となる。なので偽造が例えバレても犯人が特定できないように、エドガーは魔力は込めずにサリーナの名前を書いていた。
「父のエドガーが教会関係者にお金を渡して受理させたのよ。婚姻届も同じように」
「それだったらなんでこんな生活を送っていたの?その・・・一応あの人は・・私とお兄様のお父様なのでしょ?」
「あらやだ、言ってなかったわね。あなたの父親はノアよ。そしてマキシマスはヨキアムの亡き兄の子供だから私の子供ではないわ」
「えっ!?お兄様がお兄様でないの!?」
「それは特に隠していなかったのだけど。使用人も皆知っているわよ。ヨキアムは元々次男だったの」
「そ、そんな・・・」
「この偽装結婚?をしなければならなかったのは、詳しいことは聞けていないのだけど、簡単に言うとノアが命を狙われていて、私も狙われるからって所がかしら?」
「お母様は10年も耐えたのね」
「10年耐えられたのはメリッサのおかげよ。メリッサは幻影魔法が1番得意で、あいつからイヤらしい誘いがあっても避けることができたの。だからあいつとはキス一つしてないわ」
(メリッサって凄いのね!あら、メリッサはノア様の義妹だから私の叔母様ってこと?)
「メリッサ叔母様って凄いはね!」
「ふふ。後で本人に言ってあげて」
「あ、それでトリニード公爵ってどこの国の方なの?」
「フィルメリア魔導国よ。ノア・トリニード、つまりあなたの本当のお父様よ。本当はもっと早くあちらに行く予定だったのだけど、私が病気になったせいで予定が狂ったわ。まぁあいつが死亡届を出したのは予想外だったけど、問題なく国外に出れるわね」
「死亡届が出ているのに本当に大丈夫なの?」
「私もリリーもあちらの国で戸籍を取ってあるわ。あちらの国でノアと私の婚姻届を出してあるから」
「そ、それは大丈夫なの?」
「平民だった子供を貴族が引き取ったって事になっているし、きちんと国王様には事情を話して許可を取ってあるから大丈夫よ。あなたは産まれた時に出生届けを出しているからもっと問題ないでしょ」
(国王様の許可があるのなら大丈夫なのかしら?色んな情報がいっぺんに出てきて混乱してきたわ)
「えっと、つまり、お母様と本当のお父様と一緒に暮らすと言うことね。他国とはいえ公爵令嬢ならルーカスと結婚できるかしら?」
「そうよ。メリッサも一緒にね。んー結婚に関しては大丈夫と思うわよ?ルーカス殿下は平民になろうとしていたみたいだけど。ルーカス殿下にはリリーが公爵令嬢になれる事を言っていないの」
「やっぱり平民になる気でいるのね。後で手紙で知らせてもいいかしら?」
「手紙って魔道具で送るのよね?それだったら知らせても大丈夫よ」
「はい。そういえば、メリッサはサイフォールド家の使用人でしょ?勝手に連れて行って大丈夫なのかしら?」
「私達が村に着いてすぐに執事長から解雇通知と紹介状が届いたみたいよ」
使用人は辞める時に紹介状を貰い次の仕事先に提出するのが通常である。あまりに素行の悪い使用人には紹介状が渡されない為次の仕事を探しにくくなる。
「えっ?」
「2日間無断欠勤しているし、妻と娘が亡くなった為仕事もないのだから解雇する、と書いてあったようよ。本当は紹介状も出さないと言っていたみたいだけど、執事長が出してくれたの。執事長は私とリリーが生きているのを知っているみたいなのよね」
「えっ?そうなの?ルーカスとジャン以外にもまともな人がいたのね!」
「ふふ。早くこんな国から出ていきましょう。村の他の人達もノアの領地で暮らせるから動ける人から引っ越しているのよ」
「大勢で移動なんてしたら怪しまれるのでは?」
「馬車ではなく船を使うから特に問題はないわ。始まりの森を抜けると海が広がっているの。ノアの領地は海に面しているから船の方が便利なのよ」
(なんだかサイフォールド伯爵から解放されたからか?お母様が生き生きしているわ。以前は淑女の鑑みたいだったのに、今は少女のようだわ)
「その姿がお母様の素なのね」
「ふふ。リリーにはもっと素を出して良かったかもしれないわね。色々隠していてごめんなさい」
サリーナから笑みが消え、悲しげな表情になった。
「私は大丈夫よ。お母様にはお母様の事情があったのだし」
「ありがとう」
その日は色々ありすぎてリリーナは夕飯を食べた後、すぐに寝てしまった。




