花は色づき、君と散る。
大学生に上がり、私には初の彼氏ができた。相手は同じ学部の子で、友達思いで笑顔が素敵な男の子だった。しかし彼は最近学校に来ておらず、電話も全く通じない。
そんな私を見かねた幼なじみの愛理は、慰めと称して久しぶりに家に招いてくれた。
「こんなに可愛くていい子の優ちゃんをほったらかしにするなんて、酷い彼氏。別れちゃいなよ」
別れる、か。そんなこと、思いもしなかった。彼はいつも私のことを気にかけてくれていたし、喧嘩だってしたことがない。連絡が途絶える前も、私が嫌いになったとか、そういう素振りは全く見せていなかった。
「……無理だよ、そんな簡単に。理由だってまだ聞いていないし……」
「そっか。じゃあしょうがないね」
愛理は、足元で包装されて束になっており、黄色く立派に咲き誇るバラへと視線を落とした。
「ねえ優ちゃん。黄色いバラの花言葉って知ってる?」
私は花にそこまで詳しくはない。私は、少し寂しそうに顔を覗き込んでくる愛理に、考える素振りもみせずただただ首を横に振った。
「友情、だよ。私は優ちゃんのことが大好き。友達として……いや、それ以上に。優ちゃんはどう?」
それ以上……というのはよくわからなかったが、友達だと改めて言われるのは嬉しい。私も愛理のことは幼なじみで友人だって、親友だって思っているし、同じく大好きだ。
私は、照れたようにもじもじと体を揺らす愛理の頭を撫で、優しく抱き締めた。
「私も大好きだよ愛理~。悩みを聞いてくれる相手なんて、愛理と彼しかいないよお」
「私と、彼氏さんかぁ」
愛理は私を華奢な体できゅっと包むと、耳元で囁くように呟いた。
「もしも彼氏さんが死んじゃってたりしたら……優ちゃんはどう思う?」
少し、ぞっとした。そんなこと想像したくもないし、もしかしたら……なんて考えている私もいるのだ。
「そんなの、悲しいに決まってるよ……もう立ち直れなくなっちゃうかも」
「大丈夫だよ、そうなったら私がずっと側にいてあげるから」
「ありがとう。でもその時は一人にして欲しいかも……」
愛理は私の背中から両手を放し、すっくと立ち上がった。
「……ねえ優ちゃん。そんなに彼氏さんが好き?」
さっきから、似たような質問ばかりだ。今日は愛理が相談を聞いてくれる、慰めてくれるはずだったんだけど。
「好き……だけど、どうして?」
「私とどっちが好き?」
質問を、質問で返された。先程から愛理の表情がどんどん暗くなっているように見えるのは、気のせいだろうか。
しかも、彼氏と愛理のどっちが好きかだなんて、決められるはずがない。
「どっちも好きだよ」
「……それじゃやだ」
ぼそぼそとこもったように呟く愛理。
いつもと様子が違う彼女に戸惑いながらも、私は宥めるように彼女へと手を伸ばした。
「仕方ないじゃん、選べるわけないよそんなの」
「なんで……私がいれば、それでいいじゃない!」
愛理は涙を浮かべ、私を突き飛ばした挙げ句悲鳴のように叫んだ。
沸々と沸き上がる恐怖。得たいの知れない悪寒。
私は尻餅をついたまま、呆然と愛理を見上げることしかできなかった。
「……ねえ優ちゃん。黄色いバラの花言葉って知ってる?」
愛理は黄色いバラの束から鋭利な何かを取り出した。私はそれが何かすぐに理解したが、頭は無意識に気づかないフリを強要していた。
「ゆ、友情……だよね……?」
「うん。でも、もう一つあるんだ」
愛理は笑顔を浮かべたままナイフを私の首に突き立て、慣れた手つきでスッと横に薙いだ。
「嫉妬。……優ちゃんは誰にも渡さないから」
あまりに一瞬のことで、何が起こったのか思考が追い付かない。だんだんと狭まる視界の中、愛理の嬉しそうな表情だけが映っていた。
「優ちゃんの血、赤くてとっても綺麗……。そうだ、赤いバラの花言葉も教えてあげるね」
愛理は、背中から床に崩れ落ちた私の両手を無理やり組ませ、隙間に赤く染まったバラの茎を差し込んだ。
「熱烈な恋……だよ。一緒に逝こ? 優ちゃん」
ナイフは再び赤い花を咲かせ、からんころんと二人の幸せを祝っていた。
お読み頂きありがとうございます!
普段は「バケモノグラシ。」というギャグ調のラブコメ書いてます、もしよろしければそちらもどうぞ!




