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86 ??視点:希望 && 絶望 後編

 「まさか君もループしていたとは」

 「私もびっくりです」


 お互いにループしていることに気づいた僕らは、これまでのループのことを話した。


 ルーシーと一緒に生きようとしたが、殺されてしまったこと。

 ルーシーを生かそうとしても、死んでしまうこと。

 やっとルーシーが生きてくれると思ったら、敵対してしまうこと。 


 ルーシーは涙を流しながらも、最後まで聞いてくれた。


 「あんな普通になってしまったけど、僕はずっと好きだった」

 「ステラさんをいじめたのに、ですか?」

 「そこは……確かに許せないよ」


 いじめは許せない。絶対に許せない。

 だけど。


 「僕も非があったんじゃないかって思う。君に対する態度とか」

 「…………」

 「今、謝ってすべてが許されるわけじゃないけど……ルーシー、今までごめん」

 「私こそ、ライアン様の思いをちゃんと確認せずに、勝手なことをしてごめんなさい」


 そうして、謝り合うと、僕らはなぜか笑ってしまった。

 ああ……ルーシーと笑い合うなんていつぶりだろう。


 「今後はどうしましょう? ライアン様の話からするに、私たちが……その親密にしていると、アース様が急に現れて……」

 「えー? 僕がどうしたのー?」

 「「!?」」


 気づくと、僕の隣にアースがいた。

 彼は目を輝かせて、僕らを交互に見てくる。


 「ねぇー。なぁーに話してたのー? 僕にも教えてよー」

 「……アース、なんでこんなところにいる? 勉強の時間じゃなかったの?」

 「あー、抜け出してきちゃったぁー。それよりも兄さんたちが話していたことが知りたーい。教えてよー」

 「……それは無理だ」

 「なんでー? 話してたのは僕のことでしょー?」

 「悪いんだけど言えないんだ」

 「…………」

 「……そろそろルーシーも帰らないとね。遅くなると、ご両親が心配するし」


 ルーシーに視線を送る。

 彼女は僕の意図を察してくれて。


 「そ、そうですね! では、ライアン様、アース様。私はこれでおいとまさせていただきます……」


 と帰ろうとした。

 だが。


 「え?」


 体は動かなかった。

 僕もルーシーも。


 「な、んで?」


 と頑張って立とうとするが、体は動かない。

 まるで何かで押さえつけられているよう。


 「おい、無理に動くなよ」


 少年とは思えない低い声。

 その声の主であるアースの瞳は水色から赤に変わって、ぎらりと光っていた。


 「動いたら、死ぬよ?」


 そう言って、アースは右手をきゅっと絞る。

 その手先についていたのは透明な糸。

 気づけば、糸は僕らの体を縛っていた。 

 

 「アース様、なぜ私たちにこんなことを……」

 「ルーシーは意外と冷静だね……その様子だと、君もループしているのか。ふーん」

 「……アースもループをしているのか?」

 「僕? 僕は残念ながらしていないよー? 前の記憶なんてないねー」


 と言って、あっはっはと1人笑うアース。


 「この感じだと言う通りにしてもらえなさそうだから、君たちには死んでもらうね!」

 

 アースはぱちんと指を鳴らす。

 その瞬間、ルーシーの首がスパッと切れた。


 「ルーシー!」


 ルーシーの頭がごろんと床に転がる。

 そ、そんな……出会って一日目だぞ?

 今まで1日目で殺されるなんてことはなかったのに。


 動揺が隠せず、かといって何もできず、僕はアースを睨む。


 「そんなに睨まなくても、兄さんもルーシーと同じところに送ってあげる!」

 「…………」

 「じゃあね、兄さん。さようなら!」


 その瞬間、糸で首をガッと切られ、視界が横になる。

 首から、自分の血が噴き出ているのが見えた。


 「全くぅ、あの女神もよくあがくもんだねー」


 ああ……。

 ルーシーもループしているのが分かったのに。 

 また、死ぬのか……。


 「ねぇ、エフェメリス様?」


 そのアースの一言を聞いて、僕は死んだ。




 ☀☽☀☽☀☽☀☽




 アースに糸で殺された次の人生。

 その人生では僕らは殺されず、アースを捕えることができた。


 僕らを殺そうとしていたアースを、ヘルメスに助けてもらい、捕らえたのだ。


 これで、僕らを殺す人間はいなくなった。


 だが、その後、僕は地下深くの牢屋に足を運んでいた。


 「やぁ、兄さん。こんなところに来て、どうしたんだーい?」


 アースは牢屋の中でも結構くつろいでいた。

 魔法結界があるため、決して外にでることはできないのだが、その狭い牢屋の中でも彼は生き生きとしている。


 物がいっぱいあるし……随分とくつろいでいるみたいだな。


 自分の魔法で作ったであろうソファに、アースは寝転がっていた。


 「兄さんは何も用なしに、僕の顔を見に来たってわけじゃないでしょー?」

 「まぁね」


 何も用がないのに、殺人者の前に来るわけがない。

 僕は単刀直入に聞いた。


 「エフェメリスって誰だ?」

 

 前回の人生でのアースの呟き。

 それは、まるで誰かに話しかけているかのようだった。


 「それは僕らの神様だよ、兄さん」

 「……神?」

 「そうだよ、兄さん。この王国はあの女神を主神としているけど、僕らの神エフェメリス様は全てが見える神様。あの女神よりも偉大な神様だよ」

 「その神がお前に『僕らを殺せ』と言っているのか?」


 と問うと、アースは首を横に振った。


 「そんな命令、エフェメリス様が出すはずがないじゃーん」

 「ではなんと?」

 「『正しき道へと修正しなさい』かなぁー? まぁ、兄さんはつくづく正しい道を歩んでくれないみたいだけどね。神はいつも溜息をついているよー」


 正しい道というのは、まさかステラを選ぶ道か?

 なぜそんなにステラを選ばせようとするんだ?


 「それにしても、兄さんたち、最近随分楽しそうにしているんじゃなーい? でも、気を付けた方がいいよー。たとえ、僕を捕えたからといって、油断はしない方がいいかもねー」


 アースは悪魔のように、にひっと笑い。


 「僕以外にも神の使いはいるんだからさー」


 そう僕に忠告してきた。




 ☀☽☀☽☀☽☀☽




 「ライアン様、見てください! お魚さんがたくさんいます!」


 嬉しそうに声を上げるルーシー。


 ラザフォード家が所有している別荘地。

 その近くにある湖、僕らはそこに来ていた。


 今日はいつもの服装と違い、水着姿。


 ルーシーの水着姿はとても綺麗だった。

 まぁ、ちょっと目のやり場に困ってしまうことは……あったけど。


 殺されるストレスが常にあった僕とルーシー。

 だが、アースが捕らえられてからはすっかり安心していた。


 もちろん、完全にというわけではない。


 アースが以前忠告してくれたように、彼以外にも僕らを殺しにくるキラーが現れるかもしれない。

 だから、今回はヘルメスに同行してもらっている。


 警戒態勢を維持しつつも、僕らはバカンスを楽しんでいたのだが……。


 「ライアン様! これ見てください!」

 「わっ!? ルーシー!? そいつをどこで捕まえたの!?」

 「え? この子はそこでプカプカと浮かんでいました!」

 

 こ、こいつはステラが捕まえていたものじゃないか。


 確か、ステラはミュトスと名付けて、飼い始めて、一時して命令したらその姿に変わることに気づいて「不思議だねー」って話をして。

 ある日、冗談で「人間になって」って言ったら、妖精族の王子が現れて……。


 「ってこいつ、ギルバートじゃないか!」

 「ギルバート? この子の種類の名前はギルバートというのですか? ライアン様は博識ですね!」

 「いや、違うよ……そいつはシューニャみたいな感じのものだと思うよ」

 「シューニャ、ですか? それは聞いたことのない生き物ですね……」


 ルーシーはそのシューニャをつんつんとつつき、そして、抱っこ。

 満面の笑みを浮かべて、シューニャを撫でていた。


 「……ルーシー、その子をどうするつもり?」

 「この子ですか? もちろん、連れて帰ります!」

 「つ、つれて帰るの?」

 「はい!」


 元気よく返答するルーシー。

 一緒に返事をするように、シューニャもぴぃーと鳴いた。


 連れて帰りたい、か。

 かわいいからそうしたい気持ちはわかるんだけど、そのシューニャの中身は男なんだよな。


 「それは……やめた方がいいんじゃないかな?」


 というと、ルーシーは分かりやすくしょぼんとする。

 ああ……がっかりするルーシーも可愛い。

 

 うーむ。仕方ない。


 「そ、そのシューニャは狂暴と聞くから、僕が飼うよ」

 「本当ですか! ありがとうございます!」




 ☀☽☀☽☀☽☀☽




 僕はシューニャを飼い始めた。

 正直な感想……ルーシーや以前のステラが引かれるのも分かる。


 ミュトスは僕にかなりなついてくれた。

 ブラシで撫でると、気持ちよさそうにしていた。

 おい、この子の中身は本当に男なのか?


 と最初は疑っていたが、一時してからはどうでも良くなっていた。




 ☀☽☀☽☀☽☀☽




 「我が名はステラ・マクティア! 魔王に使える闇の支配者!」


 ――――なぜこうなった。


 城下町はすでに炎につつまれ、王城は崩壊。

 空は紫へと変わり、以前の世界とは全く異なっていた。


 ムーンセイバー王国はもう国としての形がない。

 きっと国民の多くは死んだであろう。


 見上げれば、空には魔王に魂を売ったステラと。


 「なぜですか!? ステラ・マクティア! なぜあなたのような人が魔王の配下に!」


 ルーシーがいた。


 「それは当然であろう! 月の聖女よ!」

 「当然……?」

 「そうだ! あのお方は迷える私に導きをくださった! 当然あの方に仕えるのは当たり前であろう!」

 「でも、あなたが仕えているのは人類の敵、魔王です!」

 「魔王ではない! 我が王はミサキ様だ! 間違えるでない!」


 ああ……ステラはもう魔王しか眼中にないな。

 まるで狂信的な信者のよう。

 

 「月の聖女よ! 我が王の願いのため、国とともに滅びよ!」


 まさかステラが敵対すると思っていなかったな。

 ステラが魔王につくなんて。


 「まずは貴様の王子を殺しておこう!」


 ステラは僕を見るなり、手を伸ばしてくる。


 「ライアン様! 逃げて!」


 ルーシーの叫び声が聞こえるが、動けない。動かなかった。

 だが、ステラは手に魔力をため込み、光の玉を作っていき、そして、放った。


 「ピィ——!!」


 だが、僕は死ななかった。

 目の前には白い獣がいた。


 「ミュトス!?」


 ミュトスが結界を張っていた。

 いや、あれはミュトスじゃない――――。


 目の前の獣は光を放ち、姿を変えていく。

 

 「ムーンセイバーの王子、僕は男が嫌いなんだけどね」


 気づくと僕の前には1人の白髪の少年が立っていた。


 「だけど、君は嫌いじゃなかったよ。ライアン」

 「君は……」

 「僕の名前はギルバート! ギルバート・グラスペディアだ!」

 

 小さな彼だが、ステラの攻撃を結界で押さえていた。

 まさか彼が僕らの味方をしてくれるなんて。

 

 妖精族の王子の突然の登場に驚いていた僕だが、やってきたルーシーに逃げようと促された。

 

 「ライアン様、今は逃げましょう!」

 「でも、ギルバートが……」

 「大丈夫だ! ライアン! ここは任せてくれ! ライアン!」


 ちらりとこちらを向き、笑うギルバート。

 小さな体の彼だが、背中は大きく見えた。


 「じゃあね、ライアン! どうか君たちは生きてくれ!」


 1人戦うギルバートを置いて、僕とルーシーはその場から逃げた。


 


 ☀☽☀☽☀☽☀☽



 僕らは逃げた。

 でも、魔王は攻撃してきた。

 ルーシーは頑張った。


 だけど…………。


 「でんか、また、ですね」

 「…………」

 「また、わたしたち……しぬの、ですね」

 「きみは死なないよ」 


 僕らは生きるんだ。

 今は魔王のせいで壊された世界だけど、この世界で生きる。

 妖精族の王子ギルバートに願われたんだ。生きてくれと。


 それにもう……2度目なんて嫌だ。

 ルーシーが死ぬところをこれ以上見たくない。

 

 「そんなかおを……なさらないで、ください。つぎはきっと……だいじょうぶ、です」

 「ルーシー、死なないで」

 「あんしんして……きっと、だいじょう、ぶですから……だ、から…………」

 「生きて……お願い……」


 次なんて嫌だ。

 もう一度なんて、嫌だ。

 しかし、彼女の体が徐々に冷たくなっていく。


 「ルーシー」


 やっとアースを捕まえれたのに。


 「ルーシー……起きて。目を覚まして」


 ギルバートが僕らを助けてくれたのに。

 やっと一緒に暮らしていけると思ったのに。

 今回はもう大丈夫だと思ったのに。


 ぽたりぽたりと、僕の涙が、ルーシーの顔に落ちてゆく。


 「ねぇ……お願いだから。死なないで……一緒に生きて……」


 もう彼女は息をしていなかった。

 その後、僕も魔王に殺され、死んだ。




 ☀☽☀☽☀☽☀☽


 


 「また、だね」

 「……はい」

 

 その後も、何度も、何度も、何度も、僕らは死んだ。

 ステラを選ぶ道しかないように思えた。

 

 それでも、僕らは頑張った。

 

 アースを捕まえて、ステラを捕まえて、ギルバートを仲間にして、黒月の魔女を倒して、魔王を倒して。

 僕らの死の原因となるものを除いていった。


 でも、いつもどこかで殺される。

 酷い時にはいつの間にか死ぬ、なんてこともあった。

 

 抗わなかったら、僕らは静かに死ねるのだろうか?


 ――――そして、ある人生の時。


 「僕らの運命を変えることなんて無理なんだよ、ルーシー」

 

 もう疲れ果てていたんだと思う。

 気づけば、そう呟いていた。 


 「でも、いつかは一緒に……」

 「いつか、ね……何度死んだら、君と一緒になれる?」

 

 もうルーシーが死ぬところを見たくなかった。

 限界だった。


 「これまで100回以上ループをしてきた……でも、君と結婚できたのはいつ? 君と最後まで生きれたのはいつ?」

 「…………」

 「そんなの1回もなかった。絶対に僕らは殺された」

 「…………」

 「もう諦めよう、ルーシー。僕らはきっと――」

 

 僕はそこで言葉を止めた。

 止めざるを得なかった。

 

 だって、ルーシーが泣いていたのだから。

 ループと分かって以降、彼女は泣くことはなかった。

 何度酷い目にあっても、何度殺されても。


 静かに涙を流すルーシー。

 彼女は同時に怒っているようにも見えた。


 「わ、私はいつか……ライアン様と一緒に生きていけると思ってた!」

 「…………」

 「何度死んでも、いつかは神様が私たちに味方してくれるって思ってた!」

 「…………」

 「でも、ライアン様が……殿下がそうおっしゃるのなら! 諦めましょう! ええ! 諦めましょう!」

 

 ルーシーはバッと立ち上がる。

 

 「さようなら、殿下。また会う時は天国で」


 そう言って、彼女は去っていった。

 僕は彼女を追いかけなかった。

 去っていく彼女を見なかった。


 …………これでいい。


 こうすればルーシーは生きてくれる。

 もう彼女が死ぬところは見なくてすむ。


 「僕らはこういう運命にあるんだ……」


 その後、僕らはちゃんと話をすることはなかった。




 ☀☽☀☽☀☽☀☽




 ルーシーは毒を使って、ステラを殺そうとした。

 また、僕は彼女を国外追放にした。

 彼女が笑顔を見せることはなく、姿を消した。


 数年後、僕はステラと結婚した。

 ステラと結婚しないと、ルーシーが殺される可能性があったから、一応ね。


 でも、結婚した後はどうでもよかった。

 ただただ幸せだった。

 魔王と戦って、子どもを育てて、孫と出会えて。


 苦難もあったが、ルーシーと生きようとしていた頃よりもずっと平和だった。


 ルーシーとの出来事は単なる幻。

 今までのことを全部忘れる。

 そして、僕は幸せになる。


 だから、ルーシーのことなんて……。




 ☀☽☀☽☀☽☀☽




 ――――数十年後。


 年を取った僕はもう歩けなくなっていた。

 王座にも座れなかった。

 目が覚めてもベッドの上。起き上がることはない。


 こうなったら、もうそろそろ死ぬのだろう。


 そう思いながら、今回の人生を振り返る。

 今回の人生ではルーシーと戦うことはなかった。

 いつもなら、黒月の魔女の手下となって現れていたのだが、僕らの前に姿を現さなかった。


 彼女はどこかで生きているのだろうか? 

 死んでしまったのだろうか?


 「ライアン様」


 眠っていると、聞こえてきた僕の名前を呼ぶ声。

 それはとてもしわがれていて、小さかった。

 だけど、どこか優しい声。


 「あ、あ…………」


 目の前にはルーシーがいた。

 顔にはしわが多くなって、すっかりおばあちゃんになっていたが、確かに彼女はルーシー。


 ……なぜこんなところに彼女が?

 死に際だから夢でも見ているのか?

 それとも、僕がもう天国にいて……。


 「あの時怒って、あなたの前から去ってごめんなさい」


 涙がぽたぽたと落ちてくる。

 だが、その涙は僕のじゃない。ルーシーのだった。


 「ずっとあなたを愛してた。ずっとあなたのことを思っていた。なのに、私は……ごめんなさい」


 ルーシーは謝ってくるが、僕も謝るべきだろう。

 あんなことを言って、君は諦めていないのに、僕は勝手に諦めて。

 僕の方が圧倒的に悪い。


 「僕こそごめん。僕もずっと君をあいし――」


 気持ちを伝えようとした瞬間。


 「え?」


 刺さる音がした。

 胸が痛い。


 「るぅっ、しぃ……」


 槍がルーシーの胸を、僕の胸を突き通っていた。


 「アハハ! アハハ!」


 ルーシーの背後にいたのはステラ。

 赤い瞳をぎらりと光らせる彼女は、僕らを刺す槍を掴んでいた。


 ステラが……僕らを…………。


 すると、ステラは槍を抜くことなく、悪魔のような笑みを浮かべる。

 そして、拍手しながら歌い始めた。


 「死んだぁー♪ 死んだぁー♪ 王様死んだぁー♪ 一緒に魔女も死んじゃったっ! アハハ! アハハ!」


 ステラの笑い声が響き渡る。

 悪魔のような笑い声が痛みとともに響く。


 まただ。

 きっと、また、最初から…………。




 ☀☽☀☽☀☽☀☽




 「また始まったね」


 新たな人生が始まった。

 僕はまたルーシーと出会った。


 「また始まった?」

 「ほら、また始まったじゃないか。僕らの人生」


 ループのことをいつものように話しかけたのだが、彼女はなぜかキョトンとして、首をかしげていた。

 まるで何も分からないと言っているように。


 「すみません。何の事でしょうか?」

 「え、ルーシー。ループのことだよ?」


 そう訴えるが、彼女は困ったように、苦笑するだけ。


 「ループ……わっかですか?」

 「…………」

 「違う……輪……それはもしかして魔術の専門用語か何かですか?」

 「…………」

 「すみません。なんのことだか、私にはちょっと……」


 僕はその事実を信じたくなかった。嫌だった。

 てっきり今回もルーシーはループしているのかと思っていた。


 だけど、違う。

 今回のルーシーはループしていない。

 これまでのことを全部忘れている。


 「僕はまた1人……」


 その瞬間、心の奥で、ぷつりと糸が切れる音がした。

次回、87話「??視点:if (i=another route) { break; }」です。

お楽しみに!

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