74 ?視点:全ては婚約破棄のために ①
誘拐作戦が失敗して6年。
僕はようやくあの場所に来ていた。
「ここがシエルノクターン学園………」
目の前にあるのは王立シエルノクターン学園。
乙女ゲー「Twin Flame」の舞台。
やっとルーシーに会える場所。
ゲーム通り、僕はこの学園に入学することになっていた。
だから、今日は女子の格好。
ひさしぶりのスカートだから、ちょっと違和感。
アストレア王国とは違って、ここではちゃんと女の子として、過ごさないといけない。
だから。
「ついに、ついにここに来たのね、私」
口調を変えて、行動も女の子らしく。
「よしっ、行こう!」
気合いを入れ、僕は大きなバッグとともに校舎へと力強く一歩を踏み出した。
★☽★☽★☽★☽
学園に来るまでの間。
結局ルーシーを誘拐することはできなかった。
なぜかエドガーが僕のことを探しており、ムーンセイバー王国では自由に動けず。
ルーシーをアストレアに転送させる計画は中止。
そこで、僕は違う計画を立案。
それはゲーム通りライアンとの婚約を破棄したルーシーにアストレア王国に来ないか誘うもの。
ライアン大好きルーシーにとって、ライアンとの婚約破棄は辛いことかもしれない。この計画自体ルーシーを辛くさせないか、少し疑問に思っていた。
だけど。
『ルーシー、ライアンのところにはあんまり行ってないみたいだよー』
とアース曰く、ルーシーはほとんどライアンの所には行っていないらしい。
ワンチャン、ルーシーはライアンのことが好きじゃないかも? ないかも?
まぁ、もし、ルーシーがライアンのことを好きじゃないのなら、ぜひとも婚約破棄をしてほしい。
でも、立場上ルーシーから婚約破棄はできないだろうから、ライアンから婚約破棄ができるよう僕らは動く。
計画の根幹とは逸れることだが、僕は個人的にライアンにはざまぁをしたい。
…………だってさ。
あいつ、めちゃくちゃかわいいルーシーとの婚約を破棄するんだよ?
まじ意味分からなくなーい?
ルーシーの婚約者ってことは世界一幸せ者ってことだよ?
確かにステラへのいじめはダメだと思うよ?
だとしても、婚約破棄までする必要なくなーい?
…………あー。やばい。
学園の敷地内に正気のルーシーがいると思うと、テンションが上がってしまう。
ふぅー。深呼吸。深呼吸。
話を戻すけど、ルーシーの可愛さを分かってもらうために、ライアンにはざまぁをする。
こんなに可愛い子を捨てるな、ってね。
ゲームのルーシーの復讐みたいな感じだね。
でも、どんなざまぁしようか。
ゲームのライアンルートでは、ルーシーはステラへのいじめに関して断罪され、その後、ライアンとの婚約を破棄され、ステラはライアンと結ばれる。
これが本来のシナリオ。
だーけーどー。
僕はライアンが告白してきても振る。彼を罵倒する。
そんでもって、僕はルーシーに婚約を申し込む。
いや、結婚を申し込んじゃう!
こんな感じでどうだろう?
え? めっちゃいいんじゃない?
よし、ライアンざまぁをしよう!
そんでもってルーシーをアストレアに!
そのためにはまず――――。
「そういや、名前を言ってなかったね」
入学式開始前、僕は中庭で彼と対面していた。
彼というのは、あれだ。
「僕の名前はライアン。君の名前は?」
僕の宿敵、ライアン。
彼はにこやかに聞いてきた。
うーむ。
こうして目の前にしてみてみると、こいつイケメンだ。
くそぅ、腹立つ。
僕と立場変われ。
そんな煮えたぎる思いを隠し、挨拶をする。
「私はステラ・マクティアと申します。よろしくお願いいたします、殿下」
「なんだ、僕のことを知っていたのかい……ライアンでいいよ。ステラ」
「え? いいのですか?」
「ああ」
「では、お言葉に甘えて。ライアン様、よろしくお願いいたします」
僕は左手を差し出す。
案の定、ライアンは少し戸惑っていた。
「左手ですか。出会ってそうそう、僕のことを嫌いだなんて………」
その通りだよ。
本当はあんたにケンカを売りたいんだよ。
即刻決闘をして、ルーシーとの婚約を破棄させたい。
「はっ! 私左利きなもので……ついつい………すみません」
だけど、僕はしぶしぶ右手を出し直す。
「改めて、よろしく。ステラ」
ルーシーの将来のためにもここは我慢。
がんばれ、僕。
営業スマイルだ。
「よろしくお願いいたします、ライアン様」
その瞬間、2階の通り廊下が見えた。
ルーシーが僕らを見ていた。
彼女の顔はとても悲しそうだった。
★☽★☽★☽★☽
入学した次の日。
僕はルーシーに会った。
会えた。
挨拶もできた。
だけど――――。
「なんで、あの犬がルーシーのペットになってんだ」
「犬って白いワンちゃんのこと?」
「そうだ。なんでなんだ?」
「えー。僕になんでって言われてもー」
僕がお昼のことを愚痴ると、アースは困ったようにそう言った。
アストレア王国の王子であるアースもまたムーンセイバー王国に来ていた。
どうやらムーンセイバーから、ルーシーを誘拐した代わりにこっちにこいと言われたらしく、アースも学園に入学。
彼が学園長に研究をしたいと言うと、研究室をくれたらしい。
なんて権力に甘い学園長なんだ。
そんなアースの研究室には、基本誰も入ってこない。
護衛も執事もいない。お手伝いさんもいない。
「なんでワンちゃんがいけないんです? ルーシーさんがペット飼っていてもいいじゃないですか?」
そう尋ねてきたのはアースの側近ジェシカ。
隣にいた兄ジェイクもうんうんと頷く。
アースの側近の双子もムーンセイバー王国に来ていた。当然、彼らもシエルノクターン学園に入学している。
「確かに普通の犬だったらいいよ。それだったら僕は当然許す」
「ステラのその言い方だと、ルーシーちゃんの犬が普通じゃないみたーい」
「そうです。普通じゃないみたいですわ」
ああ、普通じゃない。
だからこそ、焦ってる。怒ってる。
「あの犬はな――――本当は人間なんだよ」




