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54 反応

 黒月の魔女の一件以来。


 周囲の反応はがらりと変わった。

 ミュトスのことがあって、今までは、私はクラスの人たちから距離を置かれていたのだが。


 きっと私が月の聖女と分かったからだろう。


 彼らは、今のうちに月の聖女とコネクションを作っておこうと考えたのか、私に接触し始めた。

 彼らは私に声を掛けてくるようになった。


 たが、そんな下心はすぐに気づく。


 かといって、断るとか、冷たい対応をするとかはしなかった。

 最初は嫌とは思わなかったから。


 だけど、一気に多くの人と関わるようになったためか、そのうち疲れがではじめ、いつの間にか話しかけられる前に逃げるようになっていた。

 一時、こんな噂が流れ始めた。


 『ルーシー・ラザフォードが月の聖女であることは、デマである』


 ―――と。

 正直なところ、私もそう思った。

 魔女がてきとうなことを言っただけだと思う。 


 私は、聖女の最大の特徴である光魔法が全くと言っていいほど使えない。

 さらには保持魔力も少ない。他の魔法も使えるのは初級のみ。

 治癒魔法もまともに使えない。


 そんな私が聖女だとは思えなかった。


 もしかしたら、魔女は公爵令嬢を殺す理由がほしくて、てきとうなことを言ったかもしれない。


 ………………そう考えていたが。


 だが、ライアンは魔女が私を聖女と言った時、こう言った。


 『なんで、お前がそれを知っている』


 ――――――と。

 まるで、私が月の聖女であることを事前に知っていたようだった。

 その後のライアンと魔女の会話から判断するに、国王陛下や臣下はきっとそのことを知らない………知らないのだ。

 

 なら、なぜライアンがなんでそんなことを知っていたんだろう?


 私も、誰も知らなかったのに。

 アースに予知してもらって、教えてもらったんだろうか?


 ていうか、本当に私が月の聖女なんだろうか?

 もしかしたら、勝手にライアンが思い込んでいる可能性だってある。


 分からない……分からないことだらけ。


 しかし、あの魔女の件があって以降。


 ライアンは挨拶をしてこなくなった。話しかけてこなくなった。

 私に対するあたりが強くなったような気もする。

 すれ違って挨拶をしたり、頭を下げたりするけど、彼は私を空気のように扱う。


 この前までと変わらない対応だから、いいんだけどさ。

 でも、少し仲良くなりかけたような気がしたからさ。


 ………………でも、ちょっとだけ、残念に思った。


 また、魔女の出現に伴って、学園に巨大な結界がはられることになった。

 その結界をはるのはアース。学園長に頼まれたそうだ。

 アースはその結界をはる際に、私を誘ってきた。


 なぜ、私? とは思ったが。

 丁度、彼に聞きたいことがあったので、了承した。


 また、2人きりになりたいので、カイルたち4人には来てもらわないことにした。

 大勢で行くと、答えてもらえない可能性だってあるからね。

 4人から文句は言われはしたが、了承してくれた。

 

 そして、昼休み。

 アースとともに学園敷地の一番端を歩いていく。

 今日は天気もよく、見上げると青空が広がっていた。


 夏も近くなり、若干暑さを感じる。

 が、風があるので、うだるような暑さではない。

 念のため、日傘はさしている。


 …………だって、日焼けなんかしたくないもの。


 前を歩くアース。

 今日の彼はいつになく静かだった。

 いつもなら、もっと陽気で。


 「君、黒月の魔女に会ったんだってー? どうだったー?」


 と事件のことを聞いてくる。

 だが、彼は事件から今日まで、事件のことを聞いてくる様子はなかった。

 話題にすらしてこなかった。


 そんな彼に違和感を感じていた。

 

 だから、ちゃんと話したいと思って、来たんだけど……。

 彼の右手には杖があり、器用に動かして、結界を張っていた。

 そんな彼に問いかけた。


 「ねぇ、アース」

 「………なんだーい?」


 背を向けたまま、結界を作っていく。


 「……魔女が街に現れること、知ってたの?」


 アースはすぐには答えてくれなかった。

 

 「知ってたよ」

 「……」

 「だから、ムーンセイバー王国(こっち)の宮廷魔導師には一応報告しておいたんだけど……」


 彼はアハハと軽く笑う。


 「でも、まさか君たちの前に現れるとは思わなかったなぁー」


 今回のことはどうやらアースにとっても、予想外のことだったらしい。


 「しかも、襲うなんてねぇ…………」

 「アースは私が月の聖女であることは知ってたの?」


 そう問うと、アースの足が止まる。

 そして、彼は私の方を一瞥して。


 「………………さぁ?」


 と言った。軽く笑って、肩をすくめていた。


 「私は月の聖女なの?」

 「………………違うんじゃない?」

 「やっぱり?」

 「………………さぁね、僕には分からない」


 その後も、何度か尋ねた。

 が、答えてくれなかった。

 全部はぐらかされた。


 いつもなら、馬鹿正直に答えてくれそうなアース。

 だが、その質問に対してはなぜか頑なに、真剣には答えようとはしなかった。

 なぜ、はぐらかすのかも分からなかった。


 もしかして、自分の目で確かめろって言いたかったのかしら?


 そう考えた私は図書館で本を探した。

 月の聖女について書かれた本を。

 月の聖女と関連のある本を。


 図書館の隅々まで探した。


 ――――だが、なかった。


 月の聖女について書かれた本も、関連する本も一切なかった。

 星の聖女や太陽の聖女に関する本はある。

 かなり研究が盛んにされているのか、大量にあった。


 たが、月の聖女に関するものが一切ない。

 司書さんにも探してもらったが、貸し出されてて本がないというわけでもなかった。


 ムーンセイバー王国のみ月の聖女が生まれるにも関わらず、図書館にも、学園にも、どこにも月の聖女に関連することが一切なかった。

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