30 救世主
突如現れた少年。
僕らを攫ったリアムたちの仲間だと思われるそいつは、ルーシーをぎゅっと抱きしめていた。
「ちょっ! 何勝手にルーシーに……………」
僕は彼をルーシーから離そうとしたが、それは止めた。
暴走して、怪物のようになっていたルーシー。
悔しいが、少年が抱きしめたことにより、彼女が徐々に落ち着きを取り戻していた。
地面に広がっていた綺麗な夜空は消え、大風も感じなくなる。
そして、意識を失ったルーシーを少年はぐっと支え、地面にそっと寝かせた。
「ねぇ、これどういうこと?」
なぜルーシーがこんなことになった?
なぜ少年にはルーシーの暴走を止められたんだ?
「なぜあんたたちは僕らを攫ったんだ?」
しかし、僕の質問に少年は答えることなく、静寂の時間が流れる。
すると、空の遠くの方から声が聞こえてきた。
「あっちから! あっちから! ルーシー様を感じたんです! 私、確かに感じたんです!」
「…………なんだ、そのスピリチュアル的な発言は。怪しすぎる占い師みたいだな」
徐々に近づいてくる複数の声。
「ハッ、エドガー様、さては私の直観をバカにしてますね。バカにしているのは今のうちです。私の直感は確かに当たるんです」
「…………ふん、適当なこと言うな」
「適当なことは言ってまーせーんー。この前だって、当たってルーシー様に会うことができたんですからね」
「……………どうせ偶然だろ」
「信じないというのなら、べつぅーに構いませんよ。私のルーシー様に対する思いは相当強いですし、私の心とルーシー様の心が繋がっているんです。エドガー様と違ってね。だから、私は直感ですぐに見つけることができるんですよ!」
「……………お前なぁ、さっきも『ルーシー様があっちにいるわ!』なんて言いながら、いなかったじゃないか。ルーシーがいる場所なんてこれっぽっちも分かっていないんだろ? どうせお前のルーシーへの思いも俺のに比べて大したことないんだろ」
「んなぁっ! そんなわけないじゃないですか! 私のルーシー様に対する思いの方が何千倍、いや、何万倍も————」
「あーあ、2人ともしゃべってないで、姉さんを探して、この辺でさっきの光が見えたはずなんだから」
「はいはーい」
この声って……………。
「話は戻るけど、さっきの光の魔法って、もしかしてルーシー様を誘拐した犯人だったりしてね……………って、あれっ? あなた、カイルじゃない。なんでそんなところにいるの?」
見上げると、リリー、キーラン、そして、エドガーがこちらを覗いていた。
僕らがいた場所は地下だったようだ。どうりで窓がないわけだ。
「もしかして、さっき放ったのってカイル?」
「いや、違う。ルーシーだよ」
「えっ!? 姉さんがやったの!? てか、姉さんがそこにいるの!?」
ルーシーに気づいたキーランがこちらに下りてくる。続いて、リリーとエドガーの2人も下りてきた。
「あの人、誰なんです? まさか、ルーシー様を攫った犯人?」
「張本人ではないけど、犯人の仲間だと思う」
「……………ねぇ、そこの人。姉さんから離れてくれない?」
キーランも見ず知らずの人がルーシーに触れているのが嫌と感じたのか、少年を睨んでいた。
ラザフォード家の騎士団も駆けつけ、少年の逃げ道はなくなった。
しかし、白いローブを着た少年は逃げる様子も慌てる様子もない。
顔は見えないが、ただただルーシーを心配しているようだった。
こいつ……………………本当に何者だ。
すると、エドガーが声を掛けた。警戒してか、彼は剣を構えている。
「お前…………何者だ」
少年は答えない。
「ルーシーから離れろ」
それでも少年は答えない。
一時すると、少年は立ち上がり、周囲を確認。
そして、彼はキーランに目を止めると、彼に真っすぐに指をさす。
「お前を恨む」
そう言い残して、少年は塵のように消えていった。
★★★★★★★★
私、ルーシーは自宅で目が覚めた。
起きると、足元には疲れ果てて眠ってしまっていたキーラン、リリーがいて。
少し離れた椅子には眠るエドガーとカイルがいた。
これはどういうこと?
何があったんだっけ?
1人困惑していると、イザベラが意識を失ってからのことを説明してくれた。
3日間、ずっと眠っていたこと。
私とカイルは誘拐されていたこと。
誘拐した者はまだ捕らえられていないこと。
イザベラが分かりやすく説明してくれたが、それでも頭が追いつかないぐらいの情報があった。
3日前、街に行ったのは覚えているけど、カイルに会ったっけ?
全く覚えてないや。
聞かされた情報を整理していると、私はあることに気づく。
「ねぇ、イザベラ」
「はい。なんでしょう?」
「なんで私、話せるようになってるの?」
ここ数日はずっと声が出せなかった。
だが、今は何もなかったように話せる。
しかし、イザベラは困ったような顔を浮かべた。
「それは…………私には分かりません」
「え?」
分からない?
「もしかして、イザベラが薬を探して、飲ませてくれたとか?」
「していません」
「話せなかったのは呪いのせいで、それをイザベラが解いてくれたとか?」
「解いていません」
「今言ったことをイザベラじゃなくて、他の人が——」
「誰もしていません」
「じゃあ、なんで治ったの?」
と尋ねると、イザベラはにこりと笑う。
「誰も何もしていませんよ。医師の方に見ていただくことはありましたが、それ以外は特段何もしておりません」
「それじゃ、私の喉は勝手に治ったっていうの?」
「そうとしか言いようがありませんね」
イザベラはそう言って、私の服を用意し、他の作業に移る。
私の努力はなんだったのよ……。
思わず、出るため息。
そうして、3日間の眠りの末、目覚めた私。
当然お腹が空いて仕方なかったので、早速食事をすることに。
せっかくだから、みんなで朝食にしようかなと思っていたけど、カイルたちはスヤスヤと眠っていたので、そっとさせておく。
そりゃあ、疲れるし、友人がずっと目を覚まさなかったら、心配にはなるわよね。
イザベラ曰く、彼らはずっと私の看病をしていてくれたらしい。
キーランは何があろうと、私から離れずにいて。
一日目には心配のあまりリリーがわんわん泣いて。
一国の王子であるエドガーは珍しくわがままを言って、ここにいたようだ。
エドガーに関しては、帰るべきでしょ、とは思ったけど。
それもこれも私のことを心配して、やってくれたことのようだったから、何も言わないことにした。
そんなイザベラからの説明を聞きながら、食べていると、
「姉さん!」
キーランに突然抱き着かれた。
リリーもエドガーも起きたのか、食堂にやってきていた。
「何抱き着いているんですか! キーラン! ずるいですよ!」
「……………………まぁ、別にいいじゃないか。姉弟なんだから」
「はぁ!? エドガー、何言ってるんですか!? あの人は私たちと同じ………」
と2人が言いあっている後ろから、カイルも現れた。
「元気になったんだね、ルーシー」
「ええ。おかげさまで」
私とともに誘拐されていたカイルだが、彼も元気そう。
それもそうか。
私と違って、カイルは見つかった時には起きてたっていうし。
……………なら、なんで私は意識を失っていたんだろう?
もしかして、誘拐犯が怖すぎて失神したとか?
それだとしたら…………は、恥ずかしい。
というか、情けない。
私の方がカイルよりも精神年齢はずっと上なのに。
誘拐された時のことを思い出そうとするが、何1つ思いだせない。
だが、胸の奥で引っかかるものを感じる。
誰かに大切なことを言われていたような気がして、それで————。
私は何度も何度も思い返したが、その“大切なこと”も全て思い出せなかった。
★★★★★★★★
そこは真っ白な空間。
もの1つなく、白い世界がずっと続いていくだけ。
そんな世界で、彼は女と対峙していた。
「私、言ったはずなんだけどー」
寝転がっているその女は退屈そうに、少年を見ていた。
白いローブを着ているせいか、女からは少年が世界と同化しているように見える。
「いや、言ってない」
「いいえ、言った。私は確かに言ったの」
女が指を鳴らすと、白い世界から空の上へと移った。
足元には、ムーンセイバー王国の街が広がっている。
「私の気分次第ではあなたの邪魔をするって、ちゃんと言ったわよ。だから——」
「今回、邪魔したって言うのか」
「ええ。それが私の仕事だと思うもの」
少年は思わず拳を作っていたが、ぐっとこらえる。
「…………あんたの気分次第で僕らは殺されるって言うのか」
「私は殺さないわよーん。そんなことしたって意味がないもの。私の願いが破綻するもの」
「ハッ、あんたみたいなやつにも願い事があるのかよ」
「神様みーんな、願い事があるわよ? そのためにこうしているんだもの。まぁ? 私はまだマシな願い事を持つ神様だとは思うけど」
女はフフフと笑みを浮かべる。
「さっきも言ったけど、私の仕事は邪魔することだと思うから。だから、せいぜい頑張って」




