8 最終工程とデビューのお話
Vtuber勧誘シーン丸ごと修正しました。
「アカウント、制限されちゃいまして」
私が3徹してフィーが2徹して仕上げた動画が公表された翌日、本社に呼び出されて朱音さんから言われたのは3期生のTwitterアカウントが規制されたとの事。どうにもテイザー動画が跳ねに跳ねたらしくその勢いのまま3期生のTwitterアカウントにフォロワーが殺到した結果、スパム業者判定的なものを受けて一時制限を受けたらしい。
「今申請を通してるので近々解除されると思うんですが、アシュリーさんとリーチェさんのアカウントの方は大丈夫でしたか?」
「大丈夫ですよ、フォロワーとアップした動画たちが跳ねまくっただけですね」
YouTubeに挙げた方は再生数がどんどん伸びて行ってるし、キャラ紹介配信の要望コメントが結構沸いてる。
「現状の進み具合としましては3期生の皆さんには初期案、として頂いた絵をもとに名前を決めていただいてTwitterアカウントとYouTubeチャンネルの開設ですね。2D作成は頂いた絵が初期案との事だったので着手はしてません」
「わかりました。3期生の皆からの修正要望とかありましたか? あったらそれ含めて手直ししたいんですけど」
「絶賛の声と1人の泣き声だけでしたよ」
「泣き声……ああ」
人目には出せないような泣き顔でぎゃんぎゃん泣いてるのを容易に想像できる子が一人思い至った。そこまで喜んでもらえたなら絵師冥利に尽きる。
「はい、3期生からの修正要望はなかったので手直しの方お願いします……言っておいてなんですけど、もう十分に完成しているように見えるんですけど」
「あくまでも名前決めとアカウント用に最低限で仕上げた絵ですし。手直し自体はすぐにできるんで今日ここでやって行きます」
「それなら作業用のPCがありますのでそちら使いますか?」
「これ使うんで大丈夫です」
「わかりました、また後で様子見に来ますね」
今日持ってきてるのは前持ってきたiPadじゃなくてProの方だから楽々作業ができる。朱音さんが別件で会議室から出て行って残った私はとりあえずiPadを起動して絵の修正に入る。
凛ちゃんのアバター、猫人の火猫りんね。さつきちゃんのアバター魔女のアルマリア。エリサちゃんのアバター、雪女の白雪氷花。ありさちゃんのアバター、天女の姫神あまね。紅葉のアバター、カグヤ姫の月城カグヤ。海里のアバター、人魚の汐見マリン。
全員から聞き出したアバターの要望と、ありさちゃんの家に泊まった時に見聞きして話して掴んだクセや所作から絵に落とし込める情報を抜き取って描き上げた3期生としての体。9割ほど描き込んで一旦の完成にしているこの絵、朱音さはこれ以上どこを修正するのかって言ってたけど体や髪、服に装飾品は問題ないこっちは文句なしの完成。この中で唯一未完成なのは目。今からやるのは完全に命を吹き込め切れてない目に命を宿す作業。
「さて、やりますか」
「あ、終わりました?」
「いつからいたんですか」
「ちょっと前からですかね。集中してたので描いてるところ見学してました」
加筆修正が終わって顔をあげれば目の間に朱音さんがいた。いつからいたんだろ、全く気付かなかったんだけど。
「2D制作班控えてますからデータ送ってもらえればすぐにでも取り掛かりますよ」
「じゃあ送っときますね……ん、後はお任せで」
「はい、ありがとうございます。それと制限を受けていたアカウントようやく復旧しましたよ、3期生の皆さんも色々ツイートしてるみたいです」
復旧したらしい3期生のアカウントをスマホを起動してみてみれば確かに復旧してて、何やら色々とツイートしてる。時間帯的に授業を受けているであろう学生組もツイートしてる……アカバレしてもしらないよ?
「それと合わせましてデビュー日が決まり次第リツイートキャンペーンということでサイン付き原画イラストのプレゼント企画、段階ごとに配布する形でアイコンを数種類作成していただこうかと。絵も上げていただいたので2D完成の目途が立ち次第納期の方もお知らせしますね」
「わかりました。原画は色紙でアイコンはデジ絵でいいですかね」
「はい、お願いします。それとですね……Vtuberになってみませんか?」
「Vtuberに、ですか」
「今クリエイターの方がVtuberになってゲーム配信やアバターを表示させながら絵を描いたりというのが増えてまして。ぶいちゅーぶ0期生という形でどうかな、と」
「配信なら気が向いたらやってますけど、完全に作業垂れ流し配信で他のライバーがやってるみたいに喋りながらとかやったことないですよ、私」
作業風景見たいとかメイキング見たいとかのコメントが溜まってきたり気晴らしで作業風景垂れ流し配信ならしてる。たまに喋るけど他のVtuberのようにコメント呼んで雑談はさんで、なんて器用な事したことがない。いざ描くってなったら一点集中だし。
「いわゆるお絵かき配信なら垂れ流しでもいいと思います、くるみさんとかはしょっちゅうやってますし。喋ったりとか雑談系は短い枠でやったりとかで全混ぜでする必要はないですよ。2期生の皆さんも最初の頃は区分けで配信してましたから」
「んー、仮にやるとしてもアバター問題もありますけど、既にTwitterとかYouTubeのカウントありますけどその辺どうするんです?」
「Twitterに関してはそのまま流用が問題なければ使っていただいてもいいと思います、YouTubeのアカウントは……いやらしい話になりますけど、収益化は通ってますよね?」
「まあ、一応」
「だったらそのままTwitter同様流用でいいかと……収益化通ってるならわざわざ別垢を用意する必要性が薄いですし」
まあ収益化はVtuberの収入源の一つでもあるし、一種のステータスの役割もあるだろうから無名の新人でもないなら作る必要性はそこまでないか。
アカウント問題は一旦、解決……かな? だとしてもVtuberをやるうえで最も大事なものが残ってる。
「まあ、アカウント関連に関してはそれでいいとしてもアバターはどうするんです?」
「3期生に注力して余力を裂きたくない、とかでしたら外注という形でもいいんですがどうしましょうか、絵に関してのこだわりの強さはこの短期間の付き合いでも十二分に伝わってますので、ご自身でデザインするというのでも全然大丈夫ですよ」
うーん、アカウント問題はほぼ解決でアバターに関してもどっちでも好きにしていい感じで来たか……うーん。
「突然の提案ですし今週末あたりまでに答えを貰えれば」
「わかりました」
「業務連絡はこのくらいですね。この後はどうされますか?」
「描く内容は決まってるので家帰って作業しようかと」
「わかりました、色紙の方は書き損じ分も考えて帰りがけに多めにお渡ししますね」
仕事の追加発注はともかく、Vtuberかあ。
抵抗感はないっちゃないけど、どうしよっかなー。




