表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

1.変態魔女の疑問

 早朝のデロリラの町の門の外でミルエール・ナンシは悶々としていた。


(やっぱりお酒のせいだったのかな)


 昨晩ルリにキス(頬にだけど)をされたのだが、その後は宿で寝るまで特に会話も出来なかった。そして、今朝起きてからのルリはいつも通り普通に会話をしてきて、まるで昨日の事が無かったみたいだった。


「おはようございます、ミルさん、ルリさん」


「おはよう、ネルさん。そうだ、まだ紹介してなかったけど、こちら私の使い魔のヘレナ。ゴーストだとやっぱり神聖教団の人からすると好ましくなかったりする?」


「いえ、そんな事はございません。ゴーストにも良い霊と悪い霊がおり、良い霊の未練を解消し浄化するのも神聖教団の修道女の役目です。使い魔となった霊は主人と心を通わせた証であり、好ましい関係だとわたくしは考えております。

初めまして、ヘレナさん。わたくしはキネル・オイストと申します。これからよろしくお願いしますね」


『……』


「ヘレナもこれからよろしくと言ってます」


 ヘレナの事はナルの件があったのでルリが少し心配していたが、ネルはあっさりと受け入れてくれた。神聖教団の中でもやっぱりナルだけが異常なんだろう。待ち合わせ場所にネルが来てしまったので、あたしは昨日の事を頭の隅に追いやる。


「それで、目的地はヤルダとして、次はどこの町に向かうんだ?」


「その件ですが、最短のルートからは少し外れてしまいますけれど、北東のドミロの町の教会に少し不穏な情報が流れており、寄って確認しておきたいです。ここからでしたら半日で着きますし、あの町には大きなデュエルスペースもあるので魔女を探すのにも適していると思いますが、いかがでしょうか?」


「私はそれでいいと思う」


「あたしも異論は無いな。ネルにはこれから世話になるんだから、少しはネルの役にも立っておきたいし」


「ありがとうございます。お二人をなるべく巻き込まないようにはしたいと思っております」


 とりあえずネルの発案で北東のドミロの町へと進路を取るのだった。


********


 箒での飛行中はどうしても暇なので昨日の事が蘇ってしまう。ルリは箒を自動運転にして魔導書に目を通している。少し先導するネルは真面目に周囲を警戒していた。


(あんまりストレートに聞くのもおかしいよな)


 あたしは無い頭を使って、何とか会話の糸口を探す。


「ルリ、昨日の夜は町灯りが綺麗だったよな」


「うん、そうだね。またあの店で料理を食べたいよね」


 なんかずれた回答な気もしないでもない。あんまり見るのも良くないけど、ルリの感情の魔力を見ると変化はそれほどなかった。やっぱりあたしを意識してないのだろうか。

 軽いスキンシップで友人の頬にキスをしてくる子はいる。でも、今までの行動を見てもルリはそういうタイプじゃない。もしあたしがしようとしたら全力で拒否してくるだろう(というか以前拒否された)。照れ隠ししてるのか、それとも昨日のはあたしへの感謝というだけで、別段好意でも無かったのか。


(昨日の夜はルリの感情の魔力に高まりを感じたんだけどなあ)


 魔力の色で感情はある程度読めるのだが、万能では無い。嬉しいとか、楽しいとか、好きとか、微妙に色が異なり、かつ人によって同じ色ではない。嫌っているような感情の色をあたしに出していた子から告白された事もある。殺意や憎悪みたいな分かり易い感情は確実に区別出来るが、それ以外は人によって混ざり合ったり、あたしの予想と違ったりするのだ。まあ、それが分かるのならあたしはもっと生き易かったのだろうけど。


「そうだ、今後のデュエルはどうする?ネルが言ったみたいに相手の魔技が見れたらわざと負けるようにするか?」


 昨日の話題を引きずるのもどうかと思ったので、あたしは話題を変える。


「今更変えても遅い気もする。別の町でのデュエル結果を気にする人もいるみたいだし、デュエリストを倒した人が突然弱くなったらそれはそれで疑われるんじゃないかな。町ごとに偽名を変えるのもなんか嫌だし、わざと負けるのは相手に失礼な気がする」


「そうかなあ。魔法の研究の為に手を抜いて色んな魔女とデュエルしている魔女もいるし、そもそもお遊びなんだから何でもいいとは思うんだよなあ。まあ、あたしもわざと負けるのは好きじゃないけど。ネルはどう思う?」


 前を飛ぶネルが話を聞いているかは分からないけど、一応聞いてみる。


「あ、はい。デュエルの事ですよね。お二人はいくつかの町で勝利していますし、多少有名なほうが強力な魔女から寄って来ると思います。ルリさんの言う通り今から変えても変に思われますので、今まで通りでいいのではとわたくしも思います」


 ネルもきっちりこちらの会話を聞いていたようだ。別にこそこそ会話していたわけでは無いけど、昨日の話も聞かれてたと思うと、深追いしなくてよかったとホッとする。

 その後はネルも含めて雑談しつつ、ドミロの町を目指したのだった。


********


「それでは、わたくしは教会で状況を確認してきます。お二人はいつも通りデュエルスペースでデュエルをしていて下さい」


「はい、また後で」


「何かあれば魔法で連絡してくれ」


 昼過ぎにドミロの町に着き、昼食を済ませてからネルと別れた。荷物とヘレナは既に宿に置いてきている。ドミロの町はやや古い作りの町で、今まで通った大きな町ほど活気は無かった。


「ルリ、今日はあたしがデュエルをやるよ」


「いいけど、どうして?」


「もしネルの方でなんかあった時、ルリの魔力が減ってるとマズいだろ」


 そうは言ったが、本心はデュエルでモヤモヤした気分を吹き飛ばしたいからだった。


「この間みたいな事は滅多に無いと思うし、大丈夫だと思うけどね」


「前回もルリがデュエリストの相手したんだし、たまには観戦に回ってもいいんじゃないかな」


「そうだね、見るのも勉強になるし今日はそうする」


 あたし達は受付を済ませ、デュエルスペースに入る。ネルが言っていた通り、デロリラほどは大きく無いが、他の町よりは大きなデュエルスペースがあり、そこそこ活気があった。とりあえず酒場で少し観戦し、今日一番戦績がいい魔女を見つける事にする。


「あのオイリスって魔女にデュエルを申し込んでみる」


「大丈夫?手加減出来る?」


「心配しなくても相手が魔技を使うまでは倒さないよ」


 最初は相手が魔技を使う前に倒す事がたまにあったけど、最近は魔技を使うまで我慢出来るようになってきた。あたしとしては相手が強い程我慢するのが楽だったりする。


「あの、すみません」


「はい、何かご用でしょうか?」


 酒場で休憩しているオイリスという魔女に声をかける。友人と一緒にいるようだ。2人とも豪華な刺繍の入ったローブを着ていて、どこかのお嬢様なのが何となく分かった。オイリスは薄い青い髪を後ろで束ね、キリっとした金色の眼をしている。美人顔で、スラっとしていて、残念ながらあたしの好みでは無かった。


「デュエルを見て、そこそこ腕が立つようだなって。もし自信があるなら、あたしともデュエルしてみないか?」


「ちょっと、いきなり失礼じゃありませんか、貴方」


「ニナ、大丈夫ですわ。貴方、ここでは見かけた事ありませんよね。旅のお方ですの?」


「まあそんなもんだ。それでどうするんだ?やるのか、やらないのか?」


「面白いお方ですのね。いいですわ、受けて立ちましょう」


 挑発気味に話しかけたところ、うまくのってくれた。デュエリストでは無いだろうけど、ここでは有名な魔女なのだろう。周囲の魔女が注目してるのが分かる。


「ただお金を賭けるのではつまらないですわよね。そうですわ、お互いに身に着けている物を指定して賭けるのではどうです?」


「別にそれでいいぞ」


 あたしはオイリスの服装を見回し、少し高価で魔力も大きい左手に付けた魔導具のブレスレットがいいかなと考える。あたしは魔導具を身に着けて無いので、術具である指輪を指定されるだろうと予想する。


「じゃあ、あたしはそのブレスレットでいいか?」


「はい。私はそのネックレスでいいでしょうか?」


「え?」


 ネックレスはルリにプレゼントして貰った魔力の無いブランクの赤い宝石のものだ。魔女が見れば価値がそれほどないと分かる物なので賭けの対象になるだなんて思ってもいなかった。


「あたしはいいけど、これでいいのか?見ての通り魔導具とかじゃないぞ」


「はい。貴方にとても似合っていたので、気に入ってるのではと思いまして」


 図星だった。ルリに貰ってからはほぼ毎日身に着けていた。負けるつもりはそもそもなかったけど、更に負ける訳にはいかなくなった。立会人を酒場の中で探し、空いてるデュエルスペースへと移動する。ルールはいつも通り何でもありだ。


「それではオイリス対リルのデュエルを始めます。

試合開始!」


 立会人の合図でデュエルが始まる。リルはデュエル用の偽名で今回も使っている。

 あたしもここ数日間で学んだ事があった。だから、最初は移動せず立ち止まり、速度の速くない光弾を相手目掛けて放つ。


「!」


 オイリスは後方に移動しながら、その弾をシールドで防いだ。

 デュエルにおける魔女の最初の行動で持っている魔技の系統が大まかに分かるようになった。あたしが最初立ち尽くし、攻撃をしてきた場合、それをチャンスだと思って攻撃を防ぐより先に反撃してくるのは攻撃型の魔技の持ち主が多かった。普通に直接攻撃に使える魔技か、自信の攻撃能力を強化したり、相手の防御能力を弱めたりする魔技の使い手が取る行動だ。

 一方、最初の攻撃も反撃する前に防いだり相殺したりする魔女は防御型の魔技の持ち主が多かった。シールドや回避力が上がる魔技や、幻覚やトラップなどの仕掛けタイプの魔技の使い手が防御を主体にする防御型だ。

 あたしは最初の行動でオイリスを防御型の魔技の持ち主だと判断して、こちらは攻めの姿勢で相手に魔技を使わせる事にする。相手に左右から迫る炎の魔法を放ち、時間差で正面に光の刃を放った。腕の立つ魔女ならこれ位防げるが、防御型の魔技を使いたくなる筈だ。


(!?消えた?)


 攻撃を放った瞬間オイリスの姿が目前から消える。魔技を使ったのだろうが、こちらの放った魔法で相手の魔技の魔力がよく見えなかった。放った魔法はオイリスが居た場所を通過してフィールド端のシールドに当たって消滅する。あたしの魔技『真性の瞳』なら幻影や幻覚、透明化は多分見抜ける筈。となると。


(瞬間転移の魔技か?防御型じゃなかった!)


 あたしは的の周囲にシールドを張り、全身を集中して魔力反応を探す。


「流石ですわね!」


 後方のシールドが消滅したので、あたしは全力で逆方向である正面に移動する。すると後方にはオイリスが現れていて、こちらに2撃目、3撃目の魔法が飛んできた。あたしはそれを何とか魔法で迎撃する。


(魔技の魔力は見られた。あとは勝てばいい!)


 と思ってもオイリスは再び姿を消してしまう。普通の転移の魔法なら転移先にゲートが必要だが、オイリスの魔技はそれを必要としないようだ。転移先を決めているのか、転移中に転移先を決定出来るのか。それが分からないと対応が取り辛い。

 でも、それならこちらにもやり方がある。あたしは小さな浮遊する魔法を自分の周りに次々に飛ばしていく。近くに現れれば魔法にぶつかり、相手はダメージを負うかうまくすれば的に当たる。魔法に当たれば攻撃が出来ないか、出来ても初動が遅れる筈だ。もし遠方に姿を現したなら、普通にそこを攻撃すればいい。


(いや、相手は普通の魔女じゃない!)


 デュエルをこなしてるならそういう対策を取られた事もある筈。その対策を彼女が織り込み済みで無いわけが無い。勝つにはその先を読まなければ。あたしは胸の上のネックレスを感じ、絶対に負けられないと気合を入れる。


(ルリなら相手の特性を読んで即座に対応する筈だ。ルリならどう考える?)


「そこだ!」


 あたしは自分の目の前の少し上の何も無い空間に魔法の刃を突き刺す。それと同時にオイリスが目前に姿を現し、魔力の刃はオイリスの斜め上にある的の魔法の玉を貫いていた。


「リルの勝利!」


 立会人が叫び、デュエルが終了した。


「どうして転移先が分かったのですの?」


「魔女は自分の目の前に魔法があると気になるから、近くに展開したつもりでも目の前は横や後ろより多めにスペースが出来る。そして目の前に転移されると少なからず驚いて隙が出来る。そう思ったからだよ」


「そこまで読まれたのでしたら完敗ですわ。このブレスレットは近接での目くらましの効果がありましたのに使う暇もありませんでした。お約束通りお渡しします。また新しい戦法を考えないとですね」


「いや、十分強かったよ。下手したら最初の1撃で負けてたかもしれなかったしな」


「お世辞でも嬉しいですわ。それでは、またいつかお相手して下さいね」


 オイリスは頭を下げて去っていった。正直ルリからもらったネックレスが賭けの対象じゃなければ負けていたと思う。ルリに助けられたようなものだ。


「違ったみたいね。でも、凄い魔女だったよね」


「久しぶりにヒヤッとしたよ。ルリ、じゃなかったルミの魔技だったら余裕で対応出来ただろうけど」


 偽名で呼ぶのを忘れていて、すぐに言い換える。


「私だったら魔技を温存した状態で先にやられてたかもしれないよ。まだまだデュエルで学ぶ事もあるね」


「そうだな」


「リルさん、ルミさん!」


 二人で話していると偽名で声をかけられ、見るとこっちにネルが走って近付いて来ていた。


「どうかしたのか?」


「はい、急いで話したい事があるので、ここを抜けて貰ってもいいですか?」


「分かった」


 ネルに言われて外に出て、路地裏の人気のない場所まで移動した。


「デュエルの途中で呼び出してしまい、申し訳ございません」


「いや、戦いたい相手とはもうデュエル出来たし問題無いよ。で、わざわざ呼び出したって事は、何かあったのか?」


「はい。この町の北にチスノという小さな町があるのですが、その周辺に魔族の群れが現れ、ドミロの町の教会の者がハンターと協力して対応にあたっておりました。

ですが、その群れとは別の魔族の群れがチスノの町に迫っており、すぐに対応出来る魔女がいないと教会で聞いたのです」


「で、あたし達でその群れをどうにかしろって事か?」


 あたしはそう言いつつ、前回の悪魔との戦いを思い出す。人助けをする事に異論は無いが、教会の便利屋にはなりたくないと思ってしまう。


「今回は群れで移動している魔族ですので、前回のように悪魔が現れる事は無いと思います。あくまで町の防衛が出来ればいいので、魔族が町に寄ってこなければ今対応している魔女に引き継いで終わりになります。一刻を争う事態ですので、出来ればすぐにでも出発したいのですが」


「私は協力してあげていいと思う。この間のお金も多く貰ってるし、困ってる人がいるなら助けてあげたい」


「別にあたしも反対はしないよ。町でそういう噂を聞いたら駆けつけてたと思うし」


「では、ご協力いただけるのですね」


「急ぐんだろ?どうすればいい?」


 言いたい事が無い訳ではないが、それは後回しでいい。あたしにだって時間が経てば状況が悪化する事ぐらいは分かる。


「チスノの町の転移ゲートはまだ使える筈です。準備が宜しければすぐにでもこの町の転移ゲートに向かいたいのですが」


「あたしはこの装備で大丈夫だ。ルリはどうする?」


「私も何かあるかもと思って、魔導具をある程度持って来てるから大丈夫だよ」


「では、向かいましょう」


 ネルに連れられて町の入り口付近にある転移ゲートへ向かい、そこからチスノの町の転移ゲートへ飛ぶ。荷物は少ないし、距離もそれ程無い為、魔力の消費は少なくて済んだ。


「誰も居ませんね。町の様子がおかしいようです」


 チスノの町の転移ゲートがある建物に転移出来たのだが、建物の中には誰もいなかった。町の転移ゲートの周りには必ず衛兵が居て、通常は正式な魔女かの確認をするようになっている。あたしは気になって周囲を確認すると、建物の壁越しに不快な魔力を多数見つけた。


「町に既に魔族が入り込んでるぞ。すぐに外に出よう」


 転移ゲートのある建物を出ると、最初に目に入ったのは辺りを歩き回るオークやゴブリンなどの魔族だった。少し先には大きな魔力も感じる。


「ルリとネルは近場の魔族を排除してくれ。あたしは状況を確認する」


 あたしは言いながら魔法で空に舞い上がる。そうしてすぐに町の状況が分かってきた。

 魔族が入り込んでから既に数分以上経っているようで、魔族に追われて逃げている人が何人かいるのが分かる。町の中央にある倉庫のような大きめの建物に多くの住民が避難したようで、その扉の外に立つ一人の魔女が魔族の相手をしている。その避難場所へ大型の魔獣、ヘルハウンドが向かっているのも見えた。ヘルハウンドは炎を吐くので、周囲の建物が燃えていく。あれが魔族の群れのボスなのだろう。よく見るとまだ建物の中に隠れている住民もいて、火災が広がるのもまずい。


「少し遅かったみたいだ。避難場所に多くの人が避難して魔女一人で守ってるけど、ヘルハウンドが迫ってる。他にも各所で逃げてる人と逃げ遅れて隠れてる人がいる。ヘルハウンドが吐いた炎で火災も広がってる。うまく手分けして対応しないと」


 あたしは降下しながら状況を伝える。ルリとネルは周囲の魔族を排除し終えていた。


「ヘルハウンド相手だと私かミルのどちらか1人が相手をしないとだね。そうなると残り1人が火災を防ぎつつ逃げてる人を出来るだけ助けて、ネルは避難場所の魔女を助けに行くのが一番被害が少ないと思う」


「魔力が見えるあたしが火を消しつつ戦うのがいいだろう。ルリはなるべくヘルハウンドを引き付けて時間稼ぎをしてくれ」


「ちょっと待って下さい。ミルさんがいくら凄い魔女だと言っても、今の割り振りでは逃げ惑う人や隠れてる人が少なからず犠牲になってしまいますよね?」


「手は尽くすけど、ここから近場を中心に、逃げ遅れた人が多い方から回ってくしかないだろ。火災が広がればもっと多くの被害者が出る。分かってると思うけど、全ての人を助けるなんてのは無理だ」


 ネルの言いたい事は分かるが、3人じゃ出来る事は限られてくる。そして、ここで議論している時間は被害を増やすだけだ。


「それでも、無理を承知でお願いしたいです。

わたくしの魔技は魔石を使えばこの町全体に効果を及ぼす事が出来ます。ヘルハウンド以外の魔族はそれでしばらく戦意を失うでしょう。ヘルハウンドもしばらくわたくしが引き受けます。

それでしたらお二人で手分けして、火災を抑えつつ避難出来ていない人を救えないでしょうか?」


 ネルが魔石をこちらに見せ、必死に提案してきた。それでうまく行くのなら、その方がいいのはあたしにも分かる。魔石は魔力が詰まった石で、魔法や魔技の効果を一時的に上げる事が出来るが、とても高価な消耗品だ。ネルがそれを使うというのは、そこまでして守りたいという気持ちがあるからだろう。


「ルリ、それでうまく行くと思うか?」


「中級以下の魔族にネルさんの魔技が効くのはこの間分かったから、他の住民が刺激しなければそこは大丈夫だと思う。問題はヘルハウンドをネルさん一人で対処出来るかどうかだと」


「わたくし、攻撃魔法は苦手でも、魔獣の気を引くぐらいなら出来ます。倒す事は出来ませんが、住民の避難が終わった後に助けに来て頂ければ大丈夫です」


 ネルの真剣な眼差しを見て、あたしは彼女の決意を理解した。あたしの気持ちも固まる。


「やるぞ、ルリ。ネル、あんたの覚悟を見せてくれ」


「はい!」


 ネルは魔法で飛行し、町の中心へと移動を開始する。


「ルリは比較的人が少なくて火災が大きい東側を頼む。町の端まで確認したら、避難している建物へ行ってくれ」


「分かった」


 ルリと東西に分かれ、火の勢いを魔法で止めつつ、魔族の排除を始める。


「皆さん、争いは止めて下さい!!」


 そして町中に魔法で拡大されたネルの声が響いた。と同時に、ネルの魔技である『蠱惑の心』が発動した事を感じる。魔技の効果でネルに対する敵対心が薄れるのだが、魔族は先ほどの声と合わせ、町での破壊活動の手が止まったようだ。


(本当に町全体に効果が出るのか。やっぱり便利な魔技だな)


 あたしは立ち止まって呆然としているオークなどの魔族の急所を魔法で貫いて行く。逃げてる人は何が起こったか理解出来ず、立ち止まってしまう。


「魔族は今は大人しい。距離を取りつつ避難所まで逃げろ!」


「ありがとうございます」


 逃げ遅れた女性が避難所へと向かって行く。ヘルハウンドをネルがどうやって防いでいるかは分からないが、そこは彼女を信じるしかない。あたしは逃げ遅れた人や隠れてる人を助けつつ、魔族を排除していった。数は多いがオーガやジャイアントなどの巨体の魔族が少なかったのは運が良かった。


『東側は排除出来た。私は避難してる人達の方へ行くね』


『了解、こっちももうすぐ終わる』


 ルリから魔法の連絡が来て、ようやく何とかなりそうだと少し安心する。が、まだヘルハウンドが残っている。ネルからの連絡は無いが、無事なのだろうか。あたしは逃げ遅れた最後の人の周辺の魔族を排除してから、飛行して町の中央へと向かった。


「ネルっ!」


「救出は終わったのですね……」


 そこにはヘルハウンドの正面に立ち、炎に耐えるネルの姿があった。魔導具とシールドで攻撃や炎を防いではいたが、ローブは焦げ付き、手足に爪で受けたと思われる傷が付いているのが見える。綺麗なウェーブの金髪も所々焼け焦げている。あたしの眼に映るネルの魔力は弱っていて今にも消えそうに見えた。


「あとは任せろ!」


「はい……」


 あたしの姿を確認して安心したのか、ネルが崩れ落ちる。ヘルハウンドがネルに追い打ちをかけようとするが、そうはさせない。


「お前の相手はあたしだ!!」


 5メートルぐらいの漆黒の犬のようなヘルハウンドの頭に魔法の光球をぶつけ吐いてる炎ごと消し去る。ヘルハウンドは怒り、燃えるような赤い瞳で飛行するこちらを睨んだ。


「遅い!」


 ヘルハウンドの頭が切り離されて地面に落ちた。あたしはヘルハウンドが動く前に首を垂直に光の刃で斬り落としたのだ。


「ほら、ポーションだ」


「ありがとうございます」


 あたしは地面に下りると倒れているネルに持っていたポーションを渡す。回復魔法は苦手なので、ポーションで直した方が早いだろう。


「ネル!大丈夫?」


 避難場所の方も大丈夫だったのか、ルリもやって来た。


「はい、何とか。わたくし、自分の傷を癒すのは苦手なのですよね……」


 ネルはなんとか起き上がるが、魔力がまだ消えそうなほど弱いのが分かる。ネルの魔力の総量を考えても魔技とヘルハウンド戦だけでここまで減るわけが無い。


「無理したんだな。町全体を覆うには魔石だけじゃ足りなかったんだろ?」


「ミルさんにはやっぱり分かってしまいますか。まだまだわたくしも修行不足のようでして……」


 あたしの魔技は魔力を消費するものじゃないから分からないけど、他の魔力を消費する魔技は無理に魔力を使う事で威力を上げる事が出来る。だけど、それをするにはかなり己の身体に負担がかかると聞いた。あたしが見た魔石の魔力の量だとあの範囲の魔技は無理かなと思ったが、その通りだったようだ。


(他人に回復魔法を使う為にネルが無茶をするなら分かる。でも今回は何でここまでするんだ?)


 あたしは疑問をすぐに口にしていた。


「なんでそこまでやるんだ?たまたま近くを通りがかった、知らない町の人々だろ」


「わたくしも自分に出来ない事は致しません。いや、お二人が居なければ出来ない事でしたね。巻き込んでしまった事についてはお詫び致します。

ですが、妥協して後で後悔をしたくはないのです。あの時もっと出来た事があるのでは?という事にならないように全力で対応するのです」


「うん。私はネルさんの考えは凄いと思うけどな」


 それはその通りなのだろう。でも、そんな事ではいつか自身が壊れてしまわないだろうか。あたしの場合は出来る事はするけど、滅多な事じゃ無理はしない。全部に全力で当たっていては何かあった時に力が出せないのではないかと思ってしまう。


「皆さん、本当にありがとうございます」


 そんな事を考えていると、女性の声がした。町の人々がやってきてのだ。町の事後処理をしなければならなくなったので、話は途中で終わるのだった。


********


「ルリはネルの考え方をどう思った?」


 チスノの町の事後処理を教団の人々に引き継ぎ、ドミロの町に戻って来て、今は宿で後は寝るだけになっていた。ネルは教会で部屋を借りるそうでここにはいない。ルリは隣のベッドで仰向けに寝ていた。


「立派な考え方じゃないかな。神聖教団の魔女ならああいう考え方の人は多いと思うよ」


 ルリがこちらに顔を向けて答える。奉仕の精神や人助けの正しさは分かる。でも何か納得がいかない。ネルが他人を回復して快楽を得る性癖と人助けが一致していたから人並み以上の奉仕をしていると思っていたからだ。今日に関してはネルは一度も他人に回復魔法をかけていない。自身の褒美となる行為を他人任せにしたのなら、意味が無いと思う。


「だからといって一つの町の為に命を張り過ぎじゃないか?ルリは戦う時は必ず余力を残しておくだろ?それこそ想定外の事態にも備えてるだろうし」


「それはそうだけど、ネルさんのはそういうのじゃないんだと思う。頭じゃ無く気持ちで戦ってる、っていうのかな。何かを守りたい、何かを救いたい。それで力を得るタイプなんだと思う」


「戦う理由って奴か」


 誰かを助けたいと思った時、頭から余計な事が消える感覚は分かる。それこそルリを助けたいと思った時、あたしの身体は頭より先に動くからだ。ネルのその対象が1人では無く、自分以外のみんなだというのだろうか。まだ納得がいかない。


「私はネルさんの心には守りたい誰かが居るんじゃないかと思うんだ。実在の人物か、想像の人物かは分からないけど。で、その誰かを周りの人に当てはめ、救ってるんだと思う」


「そうだとしたら、それって凄く疲れないか」


「疲れると思うよ。でも、それが自分の生きる証にもなると思う」


 ルリにも似たような想いがあるのだろうか。あたしの頭は疲労で段々動かなくなる。


「もう寝ようか。おやすみ、ルリ」


「おやすみなさい」


 もし住民に犠牲が出ていたらどう思っただろうか。想定外の事が起きて自分の行為が悪い方に動いたなら。ネルはそんな思いをしても同じことを続けていくのだろうか。

 あたしは色んな事が頭に残りつつ眠りにつくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ