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幕間

 キネル・オイストはデロリラの神聖教団教会にある『最奥の間』と呼ばれる隠された一室に座っていた。ミル達と夕食を食べて教会に戻った際にこの部屋に来るよう呼び出されたのだ。目の前には遠距離を相手の顔を見ながら会話が出来る水晶を使った魔導具が置かれている。


『こんばんは、キネル。報告書には全て目を通しましたよ。任務の遂行本当にお疲れ様でした』


 水晶に一人の女性の像が映り、優しく柔らかい声で話しかけてきた。


「エフィール様、この度は謁見ありがとうございます。あのようなものにまで目を通して頂けるとは感謝しかございません」


 キネルは水晶に向かって深々と頭を下げる。

 神聖教団には頂点に立つような指導者はいない。唯一の神が頂点であり、その言葉を代弁する者は不要だからだ。ただし教団としての意思決定をする必要は勿論ある為、功績を上げて引退した元幹部5人の魔女が『五賢者』として最終決定をする権利を持つ事になる。

 だが、それとは別に神聖教団の歴史には不定期に『聖女』と呼ばれる人物が現れる。明確な定義は無く、その存在に疑問を抱いてはいけない暗黙の了解のようなものが教団内にあった。『聖女』の発する言葉は絶対であり、『五賢者』すらそれを覆す事は出来ない。『聖女』の存在は教団内でも『聖女』に呼び出された者しか知らず、『聖女』が何者でありどこにいるのかは呼び出された者も知らない。『最奥の間』での遠距離の謁見だけが会話をする手段となっている。

 今キネルと水晶越しに会話しているエフィール・ソサリアがその『聖女』である。見た目は20代の美しい女性だが、実際の年齢は分からない。キネルと同じ金髪だが、キネルのように緩やかなウェーブでは無く、真っ直ぐに伸ばした髪が神々しささえ感じさせる。その大きな水色の瞳と優しい笑顔、美しい声は見る者に彼女が『聖女』である事を実感させる。


『キネル、そんなに畏まらなくていいのですよ。わたくしも貴方も神聖教団の教徒の一人でしかないのですから。

それで、わざわざ呼び出させてもらったのには理由があります。報告書のような堅苦しい文書では無く、貴方自身にここ数日の出来事をどう思ったか、素直な感想を聞いてみたかったからです』


 聖女の言葉に圧は無く、親しい友人に話しかけるようである。それでも、画面越しからでも伝わる神聖さみたいなものがキネルを緊張させた。

 キネルが初めて聖女エフィールと謁見したのは1週間前の事だ。『変態魔女』と『天才魔女』と呼ばれる2人の魔女がこの町に向かっているので接触する準備をして欲しいと依頼された。次は3日前で、間もなく到着する事とナルが接触した際の経緯を説明され、2人の旅に同行するよう依頼されたのだ。


(隠している事がバレないように、いつも通り、冷静に…)


 キネルは何とか心を落ち着かせて言葉を選んでから口を開く。


「わたくし自身の感想がお役に立つかは分かりませんが、素直な気持ちでお話しいたします。聞き苦しい点があるかもしれませんが、お許し下さい。

変態魔女ミルエールと天才魔女イルリネ、両者とも噂通りの凄い才能の魔女だと思いました。2人の力を合わせれば魔女十人分というのも納得いたします。特にミルエールの方は魔技で色んな事を見通せる為、油断ならない魔女だと思います。

ですが、2人個人としばらく一緒にいたところ、2人ともまだ普通の少女であり、考え方は真面目で、幼いとも感じました。幼さ故の危うさもまだ残りますが、基本的に善性であり、相互依存しているところもありますので、神聖教団の脅威になる事は無いと思います。

後は悪魔を召喚した魔導具は報告書の通り、とても危険な物で、早急にその出所と類似のものが無いかの調査が必要だと思います。ですが、わたくしがもっと危険だと感じたのは『魔法少女』を名乗ったマリという魔女です。見た目こそ幼い少女でしたが、その魔術の練度は熟練の魔女の風格すらあると思います。彼女は彼女の正義を持っているようで、神聖教団の脅威となる可能性が高いです」


「キネル、率直な意見をありがとう。大変参考になりましたよ。

マリという魔女ですが、神聖教団は既に彼女の存在を認識しておりました。脅威になる可能性はあるかもしれませんが、キネルが心配する必要はありませんよ。

ミルエールさんとイルリネさんとはうまく接触出来たようですね。あなたなら彼女らと打ち解け、共に旅が出来ると確信しておりますよ」


 キネルは何とかボロを出さずに発言出来たと安堵した。魔導具越しに魔法の効果は無い筈なのに、聖女の綺麗な瞳に見つめられると嘘が見抜かれる気がして来るのだ。勿論キネルは『嘘』は言っていない。


「それで、明日の朝にはデロリラを発つ事になります。『最奥の間』がある町は少ないですし、報告は定期的に書簡でお伝えする事になると思いますが宜しいでしょうか?」


『連絡は怪しまれますので必要ありませんよ』


「え?」


 キネルは本気で驚いてしまう。旅の同行の理由は2人の監視だと思ったからだ。


「失礼致しました。必要無いという事は、何が起こったとしても、神聖教団にすら報告する必要は無いという事でしょうか?」


『ええ、それでいいですよ。貴方達の旅の情報は教徒や信者達から随時入って来ると思いますので。キネルは貴方の思うように振る舞い、2人の旅の手助けをして下さい。

ああ、一つだけ報告して頂きたい事がありました。もし2人が『回帰教団』に手を貸すようならその事は報告して下さい。それ以外は大丈夫ですよ』


 キネルは改めてエフィールを恐ろしいと感じた。聖女の魔技は全ての情報を手に入れる『千里眼』ではないかという噂をキネルは聞いた事があった。それぐらい聖女は教団内の些細な情報も知っているし、教徒個人個人の細かい情報も把握していた。また、聖女の指示はすぐに教団内に拡散され、依頼をフォローする体制が整うのをキネルは実感している。


(わたくしの考えなど既に見通されているのかもしれませんね。それでも、わたくしは自分の信じた道を進みます)


「分かりました、ご配慮ありがとうございます」


『今日はわざわざありがとうね。キネル、貴方の旅の無事を祈っています』


「ありがとうございました。エフィール様こそ息災なくお過ごし下さい」


 キネルが深々と礼をし、魔導具が切れるのを待つ。魔導具が切れたので、キネルは軽く息を吐いた。キネルは神聖教団とミル達2人にそれぞれ隠し事をしている状態である。神聖教団には指輪やセブンウィッチの秘宝の事は黙っているし、2人には旅の同行まで教団の指示である事を隠している。それぞれそこまで話す必要が無いので嘘とはバレていないが、内心の思いが出ないように気を付けていた。


(でも報告が不要になって2人と旅をするのは楽になりました。聖女様はそこまで考えているのでしょうか。やっぱりあの方が一番恐ろしい……)


 神聖教団への信仰は確かなものだし、聖女を疑っている訳でも無い。それでもキネルは神聖教団の隠された深い部分に不気味さを感じてしまう。だから、なるべく自分の為の旅として捉えようとしていた。


(セブンウィッチの秘宝さえ手に入れば全てが良くなるんです。その為だったら何だってやってやる覚悟はあります!)


 キネルは決意を胸に『最奥の間』を出ていくのだった。

第2章はここで終わりです。

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