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4.マジカルスイーツと同室の夜

 ミルはルリと共に箒に乗って曇り空の中を飛行していた。


(失敗した。館の調査を継続した事も、悪魔の魔力にあてられ気を失った事も、ナルの存在をルリに隠した事も。もっと上手く出来た筈なのに……)


 ハリアル屋敷の一件から3日が経っていた。あれからあたしの頭の中では何度も後悔の念が過っている。デロリラの町の方角へ向かってはいるが、ルリもヘレナも元気が無く、会話の頻度も減った。あたし自身も気持ちの切り替えがうまく出来ていない。適当にデュエルをこなしつつ町を移動してきたが特殊な魔女との出会いもなく、気まずい空気だけが続いていた。


(まだ最初の目的地のデロリラの町にすら着いて無いのに、こんな調子でやっていけるのか?)


 セブンウィッチの秘宝も目的だけど、それとは別にルリの楽しみを探してあげるのも目的のつもりだった。でも、これじゃあルリに辛い思いをさせるだけだ。もしヘレナを失うなんて事になったら旅は終わっていただろう。あたしは自分で思っているより自信過剰だったと思い知らされた。


(弱気じゃ駄目だ。なんか気分転換をしないと)


「ルリ、次の町はなんて名前だっけ?」


「――え?あ、町ね。もうすぐピラトの町が見えてくる筈」


(ピラト、ピラト、聞いた事があるな、なんだっけ)


 ルリから聞いた名前に聞き覚えがあり、何かいい話題にならないかと記憶力の無い頭をフル回転させる。


(そうだ!)


「ピラトは若者に人気のお洒落な町だって。中でもマジカルスイーツっていう、変わったスイーツが流行ってるって聞いたよ」


「そうなんだ。私はそういう情報はあんまり知らないから。ちょっと楽しみかも」


 ルリが無理矢理笑い顔を作っているのが分かる。町でルリが少しでも元気になってくれればいいと思いつつあたし達は町へ向かった。


********


「凄い。キラキラしてる」


「そうだな、あたしも初めて来たけどこんなだったんだ」


 ピラトの町に入ったあたし達は町の様子に目を奪われていた。基本的には整理された綺麗な街並みなのだが、町のあちこちに魔導具のライトが付いていて、煌びやかに町を彩っていた。そして何より活気があった。あたし達と同年代か、それより若い少女が多い。王都も活気はあるのだが、それとは別の熱量みたいなものがこの町からは感じられた。

 学生時代にユウに誘われて行こうという話も有ったのだが、丁度無駄遣いして金欠だったので行けなかった事を思い出す。もっと早くこの町に来ていればと少し後悔した。


「どうする?まずは宿屋に行く?」


「ああ、どうだろう。折角だから買い物してからにして、荷物を運ぶのに箒は持っていこう」


 箒はキャリーモードにすれば買った物を運ぶのに便利になる。旅に出る前は人と会う事が減っていたのでお洒落に気を使う事から大分離れていた。それでもお店に行けばそれなりに流行とかは感じられる筈。ルリに着せてみたい服もあるだろうし、まずはショッピングしたい気分になっていた。


「買い物って、魔導具とかじゃないよね?」


「勿論、買うのは服に決まってるだろ。ルリだって普段着を買っておいて損は無いと思うぞ」


「あんまりこういう所来た事ないから……」


「気を使うようなことは何も無いよ。店を見て回って、気に入った服を試着してみればいいだけだから」


 気乗りしないルリの手を引っ張ってあたしは歩き出す。自分自身こんな気持ちは久しぶりだった。


 服屋のある通りは特に人通りが多く、若い子で賑わっていた。各店がショウウィンドウに自慢の服を飾り魔法で派手に照らしている。あたしはこういう場所は慣れているけどルリは珍しいようでキョロキョロと周りを見回していた。


(やっぱり活気のある町はいい)


 人々の感情の魔力が明るいとこっちも元気になってくる。勿論負の感情を持っている人も中にはいる。だけど全体の流れに紛れるとそうしたものも弱くなり、目立たなくなるのだ。だからあたしはこういう人が集まる場所は好きだった。

 いくつか店を覗き込み、あたし達より若い子が着そうな可愛い服の店にあたしはルリの手を引いて入っていった。


「これなんかどう?」


「え?派手過ぎない?」


 あたしはルリにピンクのフリル付きの服をあえて持ってくる。小柄で桃色の髪のルリはもっと可愛らしい服を着てもいいと常に思っていた。勿論もう少し大人しめの服も似合うと思うけど、あえて派手な服を着る事は気分を切り替えるのにちょうどいいと思ったのだ。


「とりあえず試着だけしてみてよ」


「そこまで言うなら……」


 ルリはおずおずと服を持って試着室へ向かう。待ってる間、周りを見ると若い女の子が多くて学園生活の頃を思い出した。いい事ばかりでは無かったけど、あの頃にはその時だけの楽しさがあったんだなとしみじみと思った。


(あたしもこういう服が似合う方がよかったなあ)


 周囲の可愛らしい服を見て思う。自分の見た目や体型に不満は無いけど、可愛い服が似合わないのだけは残念でならなかった。なのであたしはその想いを可愛い子に服を着せる事で満たしていた。


「どう?やっぱり派手過ぎない?スカートも短いし……」


(やっぱりルリは可愛いな!)


 試着室から出て来たルリはピンクの服を着て恥ずかしそうにしている。スカート丈が短く、いつもあまり見られないルリの脚が見えて幸せだった。抱きしめたくなるぐらい可愛いけれど、何とか我慢する。


「可愛いよ。でも、確かに派手過ぎたかな。これなんかどう?」


「これ?うん、こっちの方が落ち着いてていいかな。ちょっと着替えてみる」


 ルリはあたしが準備していた赤と紫色の服を持って再び試着室に戻った。実は最初からこっちが本命だったのだ。先にこっちの服を着てしまうと派手だと思って拒否されるかもしれない。けれど、もっと派手なピンクの服を着てからだと相対的に落ち着いて見え、受け容れる可能性が高くなるのだ。このテクニックは昔仲の良かった服屋の店員から教えてもらったもので、昔はこの手法で色んな服を可愛い子達に着せたものだ。ルリにはとても言えないけれど。


「どう?似合う?」


「うん、イメージ通り、ルリにぴったりだ。ちょっと髪を弄ってもいい?」


「え、うん、いいけど」


 あたしはルリの許可を得て髪に触らせてもらう。おでこ全開のルリの髪も好きだけど、折角の綺麗な髪なのだから、もうちょっと弄りたい。ルリのおでこの良さは残しつつ、いつもは上げている髪を自然な形で櫛で流し、髪留めで止める。ローブ姿のルリが可愛く無いわけじゃないけど、服と髪型でよりあたし好みの姿になっていた。


「ほら、可愛い」


「そう、かな」


 照れながらも姿見の前のルリは満更でもないみたいだ。今までお洒落してこなかったのだからこれからはルリにもっと色々楽しんでもらいたい。


「折角だからそれを買って、今日はその恰好で回ろうよ」


「でも、値札見たら結構いい値段だったよ。これからも旅を続けるならあんまり無駄遣いは」


「でも旅を始めてから所持金は結構増えただろ。貯金だって結構あるし、これ位は大丈夫だよ。そうだ、あたしが店員に交渉してくる」


「ちょっと……」


 ルリが何か言う前にあたしは店員の方へと向かう。デュエルをしつつ旅をしていて、基本的に勝っているので所持金は結構増えていた。ルリにとっては高い買い物かもしれないけど、あたしにしてみればこの店は安い方だと思っていた。あとは値引きして貰える手段も知っている。


「すみません、あの子が着ている服を買おうと思うんですが、もう少し値段安くなりませんか?」


「はい、ありがとうございます。申し訳ございませんが、あの商品はお値引き出来ません」


「そうですか。ところで相談なんですが……」


 あたしは小声で店員の耳元に提案を伝える。これも仲の良かった店員から教えてもらった手法だ。


「そういう事でしたら、お値段から3割引きするという事でいかがでしょうか」


「ちょっと友人に確認してきます」


 交渉がうまく行ったのでルリの方へと戻る。


「ルリ、その服3割引きして貰えるって。それならお得だろ?」


「そうなの?うーん、だったら買っちゃおうかな」


 ルリも割引して貰えるという事で乗り気になって服を買い、その服を着たまま店を出た。


「あと、これはあたしからプレゼント。その服に合うと思って」


 あたしはルリの服の上に青色の宝石の嵌ったブローチを取り付ける。これもあたしの見立て通り服とルリによく似合っていた。


「いいの?高そうじゃない?」


「いいって、気にしないで」


 値引きして貰えたカラクリがこのブローチだった。ルリにはとても言えないが、これはルリの買った服より一桁高い。服屋にはこうした高価なアクセサリーを置いてる店があり、高めの値段設定で売れれば利益が大きい。だけどあまり売れず、店の装飾と化してる事の方が多い。それを買ってくれるのは上客であり、交渉すれば割引のサービスをして貰えたりするのだ。


(まあ、あたしの財布に打撃はあるけど、ルリが喜んでるからよしとしよう)


「ミルは服買わないの?」


「ああ、あたしはもう決めてるから」


 ミルの服が決まったので、あたしは元来た道を戻り、ウィンドウショッピングでチェックしていた店へと入る。この町の中でも一番セクシーな服を売っている店だと思う。中は派手な服装に身を包んだ、色気漂う女性が多かった。あたし個人はこういう人達は好みじゃないけど、あたしに似合う服がこういった服だというのは理解していた。


「すみません、あんな感じの服で、あたしに合いそうな服をいくつか持って来て貰ってもいいですか?」


「はい、かしこまりました」


 あたしは真っ直ぐに店員の所に行き、飾ってある中でもセクシーさが控え目な服を指差して店員にお願いする。


「ミルは自分で選ばないの?」


「うん、あたしがいいと思う服は基本的にあたしに似合わないんだ」


 今まで試してみた結果、店員に選んでもらうのが一番いいという結論になっていた。ユウと一緒の時はユウに選んでもらったりもした。さすがにルリは慣れてないから、選んでもらうのは難しいかなと思っている。


「こちらなどどうでしょうか。どうぞご試着してみて下さい」


「ありがとうございます。着てみるから、ルリがいいと思ったのを聞かせて欲しい」


「分かった」


 あたしは早速店員が持ってきたいくつかの服を試着してみる。着替えて姿見の前に来ると、やっぱり可愛く無いなと思ってしまう。まあ、他人からしてみたら贅沢な悩みなんだろうけど。


「ルリ、どれがよかった?」


「うーん、私は3番目の黒と赤の服が一番落ち着いてていいと思った。けど、私はセンスが無いから、ミルが気に入ったのでいいんじゃない?」


「そんな事無いよ。それじゃあ、それを着て、あと折角だから緑色の服も買っておこう」


 あたしはルリが選んでくれた服を着ていき、それとは別にもう一着服を買っていった。店員的にはもっと派手な服を売りたかったみたいだけど、ルリと並んで歩くならこの服がベストだと思った。


「じゃあ、服も買ったし、スイーツを食べに行こうか」


「そうだね、少し疲れたし」


 買い物慣れしてないルリは疲れてしまったようだ。あたしは少しはしゃぎ過ぎたかなと反省する。カフェや屋台のある飲食店通りへ行くと更に人混みが出来ていた。そして目当てのマジカルスイーツを売ってる店は行列が出来ている。


「荷物もあるし、ルリはここで荷物番してもらってもいい?スイーツはあたしが買って来るから」


「いいの?」


「ああ、ショッピングに付き合ってもらったからね」


 有無を言わさず屋外にあるカフェのテーブルにルリを座らせ、あたしは行列へと向かった。とはいえ、さすがに長時間の行列は疲れる。気を散らす為に周りの子の会話に耳を傾けると、思わぬ情報が聞こえてきた。


「今デロリラの町にフォイラス様が来てるって知ってる?」


「フォイラスって確かデュエリストで、負け知らずの人だよね。嘘?見に行く?」


「そう、その人。2,3日で別の町に移動しちゃうみたいだから、行くなら早くしないと」


(フォイラス?聞いた事は無いけど、強力な魔女かもしれない。後でルリに聞いてみよう)


 魔女と思われる少女達が話していたのは目的地であるデロリラにフォイラスなる魔女が居る噂だった。これが本当ならデロリラの町に急いだ方がいいかもしれない。

 他人の雑談を適当に聞いているうちに行列は順番まで回って来ていた。味が何種類かあるが、何となく美味しそうなのを二つ注文する。


「お待たせ―」


「ありがとう、あんな行列なのに任せちゃってごめんね」


「あたしは並ぶの慣れてるから大丈夫だよ。それより早く食べてみよう。赤いのがストロベリー味で、青いのがブルーベリー味。あたしはどっちでもいいから選んで」


「そう?じゃあストロベリー味で」


 ルリが待っていたテーブルに着くと、買ってきたスイーツを配る。人気のスイーツというからには美味しいのだろう。見た目はマジカルスイーツの名を表すように入ってる容器の周りを魔法で七色に光らせていた。そしてそれに呼応するようにスイーツ自体も原色のアイスに光るチップのようなものが載っていて色が変わっていく。チップは食べられる素材なんだろうけど、少し口に入れるのに躊躇してしまう。ルリもじっくりと見ていたが、スプーンでスイーツを口に運んでいた。あたしも遅れまいと一口すくって口に運ぶ。


(甘い!味は……微妙?)


 もう一口すくって食べてみたが、感想は変わらない。甘さがメインで酸味も少なく、単調な味わいだ。ただ、食べていくうちにアイスの色が変わっているのに気付く。ルリの顔を見るとあたしと同じく微妙な顔をしていた。なんでこんな物が流行ってるのだろうかと周りを見ると、他の若い魔女達は食べる前に撮影魔法でマジカルスイーツを撮り、それを連絡魔法などで友人に送っていた。


(ああ、見た目が綺麗だから、それを友人に拡散してるんだな。魔導学園は魔法学校の中でも厳格だったからああいう魔法の使い方は禁止されてたっけ)


 人気の噂も理由が分かればとても下らないものだった。まあ、王都の物やドラゴンのスイーツなどの絶品を食べて無ければそこまで微妙に感じなかったかもしれないが。そんな事を思いつつルリの顔を見ると、なぜか笑っていた。


「ふふふっ」


「どうした、何かおかしかったか?」


「ごめん、あんまりにもスイーツが美味しくなくて。これって、魔法で見栄えだけいいから評判になったって事だよね」


「そうみたいだな、ごめん、噂だけで買ってきて」


「ううん、それも含めて楽しかったからいいの。私だったらわざわざ行列に並んでこんな派手なスイーツ買いに行く事なんて無かっただろうし」


 二人してそんなおかしな状況を笑いあった。不味くてもこうして笑顔になれたのなら、ここに来て正解だったと思う。


「そういえば並んでる時にちょっと耳に挟んだんだけど、フォイラスって魔女は知ってる?」


「ハンターのフォイラス・ヨスマリの事?確か一人で魔獣狩りをしてた凄いハンターだって聞いた事あるよ」


「ハンター?あたしが聞いたのはデュエリストだったけど、まあ凄腕ならいいか。そのフォイラスが今デロリラの町にいるらしいって。どうする、探してる魔女かどうか確かめに行く?」


「フォイラスの魔技は『追従の炎』だって有名よ。デュエリストなら前にミルがどこかで見た炎の魔技と一致してるかもしれないし、確かめる価値はありそう」


「炎の魔技か。昔デュエルスペースで見たのかなあ。それで、フォイラスは数日しかいないみたいに聞いたし、確かめに行くなら早い方がいいな」


「ここからデロリラなら飛ばせば半日で着くと思う。今夜はここに泊って明日の朝早く発つのはどうかな?」


「そうしよう」


 噂に聞いた情報が有用そうであたしは少しだけ嬉しくなった。その後しばらく談笑していると、スイーツも別に頼んだ飲み物も空になっていた。


「そこで荷物を預けられるみたいだし、この後はぶらっと町を回ってみないか?」


「――うん、そうだね。たまには遊ぶのもいいかな」


 あたし達は箒を店に預け、ピラトの町を散策する事にする。いつものローブと違う服装なのであたし達も町に馴染み、普通の若い女の子の気分を味わう。


「あそこ魔導書の専門店だ。寄ってもいい?」


「勿論」


 ルリは見た目は変わっても中身は変わってなく、そんなところが愛おしい。魔導書専門の書店は町に合わせて洒落ていて、中にいる魔女も若い魔女が多かった。あたし達は魔導書が飾ってある棚の間を見て回る。


「この魔法の魔導書初めて見た。こんな場所にあるなんて」


「他にも変わった魔導書が多いな。折角だから何冊か買ってくか」


「うーん、魔導書は荷物になるし、無駄遣いもしたくないし……」


 ルリは本気で悩んでいるようだ。手にしているのは補助系の魔法の魔導書のようで、あたしはあまり興味を惹かれない。しかし、あたしと違ってルリはしっかりしているというか、悪く言えば貧乏くさい。お金はまた稼げばいいという考えのあたしとこういう所も正反対だ。


「だったらそれ、あたしがプレゼントしようか。習得し終わったら売ればいいし」


「それはダメ!ブローチを買ってもらったし、さっきはスイーツにも並んでもらったし。買うなら自分のお金で買う。でも、なあ……」


「魔導具のカバンの空き容量はまだあるんじゃないのか?それにルリ自身の保存空間も」


 魔女は魔法で自分の周囲に物を隠して保存する事が出来る。そのスペースは魔女の技量に比例して、あたしの場合なら1メートル四方ぐらいの広さだ。魔女はそこに大事な物や読みかけの魔導書などを仕舞っておいたりする。ただ、出し入れには魔力と時間がかかるので戦闘中に使用するのは難しい。例の指輪も今はそこに仕舞ってあり、異空間にあるので指輪の存在は誰にも気付かれない。


「そうだけど、それこそ今後使うかもしれないし、余裕はあった方がいいし」


「売りたくないなら習得後自宅に郵送してもいいんだし、何ならあたしの保存空間を使ったっていいぞ。もしかしたら今後の旅に役立つ魔法になるかもしれないんだし、あたしは買っておいた方がいいと思うな」


「――うん、分かった。買うことに決めた」


 あたしのダメ押しでようやくルリは魔導書を買う決心をしたようだ。ルリが魔導書を買っている間にあたしも置いてある魔導書を眺めてみたが、興味を惹くものは無かった。この店には変わった魔導書が多いけど、あたしの場合は自分でアレンジが出来るかが重要だったりするので、店の傾向と合わなかったみたいだ。なのであたしは何も買わずに店を出る。


「♪~」


 店を出て通りを歩くルリはそれまでに比べてずっと上機嫌だった。服やスイーツより魔導書が嬉しい辺りがとてもルリらしい。まあ、あたしも気に入った魔導具を買った後は同じになるけれど。服も好きだが、結局重要なのは中身だ。料理やスイーツも食べてる時は幸せだけど、食べ終わったら終わり。でも魔導具は使わないとしても持ってるだけで気持ちが上がる。ただし身に付けるとなると話は別なんだけど。


「あ、ミル、魔導具屋だって。寄ってかない?」


 そんな事を思っていたらちょうどルリが魔導具屋を見つけていた。断る理由はないので二人で店に入る。町同様にお洒落な魔導具屋で、実際に店内は魔導具でカラフルに彩られている。実用性より装飾系の魔導具が多い店だった。旅の途中で無ければ色々購入していただろう。


「あ、これ」


「うん、あの魔導具のランプに似てる」


 あたしが手にしたのは魔導具のランプだけど、その周囲に回転する枠が付いていて、ランプを点けると影絵のように周囲に絵が映し出される物だ。それはルリとあたしが接近する切っ掛けになった一つの思い出に繋がる。


********


「へえ、こんな店あったんだ」


 魔導学園に入学して半年ほど経った頃、あたしは友人にルリが放課後働いてる魔導具屋を見つけたと聞いて、早速友人に案内してもらったのだった。


「いらっしゃいませ。

――ってミルエールさん?からかいに来たのなら仕事の邪魔になるので帰ってもらえませんか?」


「いや、ちゃんと客として来たんだから問題ないだろ」


「それなら別にいいですが、下手に触って売り物を壊さないで下さいね」


 店員姿のルリは嫌そうな顔でそう言って店の奥へと引っ込んでしまう。ルリにとってあたしはしつこく絡んでくるクラスメイトで、バイトの邪魔をされたくなかったのだろう。働いてるルリの姿も気になるが、それより純粋に店に並んでいる魔導具に興味があった。狭く、古臭い店ではあるが、置いてある魔導具の質は良く、欲しくなる物が沢山あった。

 あたしは狭い棚の間を気になる物を見つけては手に取って見ていた。そんな魔導具の中に一際気になる物があった。


「これ、綺麗だな……。

ねえ、店員さん」


「何ですか?」


 呼ばれたのでルリは渋々現れる。あたしは気になった魔導具のランプを手に取る。


「これ、動かしてみてもいいかな?」


「別に構いませんが」


 ルリは心配なのかその場から動かずにいる。許可が取れたのであたしは魔導具のランプのスイッチを入れる。するとランプに青色の灯りがつき、周囲の模様が彫られた枠が回転を始めた。そして魔導具屋の壁に様々な模様が浮かび上がり、幻想的な風景が広がった。あたしもルリもその様子を黙って見ていた。しばらくして、あたしは堪能したのでスイッチを切る。


「やっぱり綺麗だった」


「どうしてそれを手に取ったんですか?目立つところに置いてあった訳でも無いのに」


「あたしは綺麗なものが分かるんだ。ルリだってこれが綺麗だって思ったんだろ」


「それは、そうですけど……」


 ルリは何とも言えない表情で言葉を濁す。


 あの日から少しだけルリがあたしの言葉に耳を傾けるようになった気がした。


********


「懐かしいな。そういえばあのランプは結局ルリが買ったのか?」


「ううん。あれは店に残ってる。気に入った人が買ってくれればいいかなって」


 結局あたしもルリと似た気持ちであのランプを買わなかった。いつか2人でもう一度あのランプを見に行ければと思う。

 それから2人で魔導具を見て回った。荷物になるので何も買わなかったけど、こうして見て回るのはデートみたいで楽しかった。


「ねえ、今度は私がミルにプレゼントしてもいい?」


「え、急にどうして?」


「このブローチを買ってもらったし、理由ならあるでしょ。

今日一日のお礼。でも、身に着ける魔導具は苦手なんだよね。うーん、服は分からないし、どうしよう……」


 ルリが立ち止まって悩み始める。正直ルリからプレゼント貰えるのは嬉しいけど、何もくれなくても十分ルリからお返しして貰っている気分だった。


「そうだ、ブランクのアクセサリーなら付けてても大丈夫じゃない?」


「ああ、魔力が殆ど無い物なら問題無いかな」


「じゃあそれで。私に選ばせて」


 ルリが魔導具屋の一角にあるアクセサリーのコーナーへ向かう。魔導具のアクセサリーは何かしらの魔法が発動するように埋め込まれているが、そこに好きな魔法を埋め込める、ブランク(空)のアクセサリーも売っている。ミルにプレゼントしたブローチは魔導具では無いけど、高価な石を使っているので、その中に魔力が存在し、何かしらの能力が向上される。一方ブランクの石は安価なものが多く、殆ど魔力が無い。ブランクのアクセサリーは専門の店で魔法を埋め込んでもらうか、能力のある魔女なら自分で埋め込み、魔導具として使えるようになる。


「これなんかどうかな?」


 しばらくあれこれ見ていたルリが選んだのは薄い赤色の宝石の嵌ったブランクのネックレスだった。その色がルリの瞳の色に似ていて、あたしは見た瞬間に気に入った。


「うん、いいと思う。本当に貰っていいのか?」


「安いかもしれないけど、今までのお礼。ちょっと動かないで」


 ルリは銀色のチェーンを外すとあたしの背後に周り何かしようとぴょんぴょん跳ねる。ルリの行動の意図を理解し、あたしはしゃがんでルリより小さくなり後ろ髪をかき上げる。ルリはネックレスを私の首にかけ、うなじの後ろでチェーンを止める。


「もう動いていいよ。うん、似合ってる、と思う」


「そうだね、ありがとう」


 鏡で見ると開いた胸元に赤い石が輝き、着ている赤と黒の服とも合っていた。ルリもセンスはいいのかもしれない。ルリが会計を済ませ、あたしはそのままネックレスを付けていく事にした。

 その後も2人で町を回っていると、いつの間にか日が落ち、レストランで食事を済ませた後は完全に夜になっていた。


「綺麗……」


「この町の真価は夜にあったんだな」


 町を彩る魔導具のランプは夜になってより鮮やかに煌めき、街行く少女達もその様子をウットリ眺めながら歩いていた。あたし達も軽く手を握り、その中を歩いて回る。

 そうして夜の散歩を楽しんだのだが、いつの間にか夜が更けて来た事に気付き、急いで荷物を引き取ってから宿屋街へと向かう。


「すみませんねえ、残りの空き部屋は1室だけなんですよ。一応ダブルサイズのベッドなのでお2人でお泊り出来ますけど、どうします?」


 受付の中年の魔女が困った顔で答える。魔女専用の宿に着いた時には空き室が一室だけの状態だった。今まで二部屋使っていたので、ここに泊るのは無理だろう。


「ごめん、あたしが宿を後回しにしたから。他の宿屋を回ってみようか」


「あの、値段は安くなるんですよね?」


「ええ、通常の2人分の価格よりサービスしますよ」


「じゃあその部屋でお願いします」


 あたしはルリが嫌がらずに同室に泊る事を選択した事に驚く。ルリが手続きをし、鍵を受け取ると部屋へと向かい始めた。ルリの感情の魔力は薄く、特に怒ってはいないようだ。


「ルリ、良かったのか?あんなに嫌がってたのに」


「1室しかないんだったらしょうがないよ。遅くなったのは二人の責任だし。それにお金を結構使ったから宿代が安くなるに越した事はないでしょ」


「ルリがいいんならいいけど」


 部屋に着くとそれなりに広い部屋だけど、確かにベッドは大きめのが一つだけだった。扉を閉めるとヘレナが姿を現す。


「ヘレナ、今日は2人で楽しんじゃってごめんな」


『……』


「ヘレナも見ていて楽しかったって。私と意識は共有してるし、ヘレナは嬉しそうだよ」


 いきなり二人きりだけだと気まずかったかもしれないので、ヘレナが居てくれて助かった。


「疲れただろうし、先に入浴してきていいぞ。あたしは荷物整理してるから」


「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうね」


 ルリは着替えとタオルを持って浴場へと向かった。あたしは部屋にある椅子に腰かけ、買ってきた服とかを整理する。


(いい気分転換になったなあ。ルリと同じ部屋に泊れたのもラッキーだし)


 そう思いつつ、あたし自身ハリアル屋敷の一件以降、気が張っていた事を実感した。


(ちゃんと謝らないとな)


 そんな事を考えていたら、いつの間にかルリが入浴から戻って来ていた。


「いいお湯だったよ。今なら人が少ないし、ミルも入ってきなよ」


「うん、分かった」


 前髪を下ろした寝間着姿のルリはとても新鮮だった。眺めていたいところだけど、そうもいかない。あたしも着替えとタオルを持って浴場へと向かう。普段は下着姿で寝ていたので、念の為寝間着も持って来ていてよかったと思うのだった。

 浴場でよく身体を洗い、完全にリラックスしてあたしは部屋に戻ってきた。部屋の灯りは明るさを下げ、薄暗くなっている。ルリは疲れたのか既にベッドの左側に横たわっていた。ヘレナも寝たのか、部屋に姿は見えない。


「失礼するよ」


 あたしはルリを起こさないようにゆっくりベッドの右側から掛け布団を捲り、ベッドに入り込む。大きさ的には十分だし、ルリが小さいので2人の間には人一人分位のスペースが空いていた。枕は二つあったのであたしは右側の枕に頭を置き、右を向いてルリに背を向ける形で横たわる。


(寝ちゃったかな)


 背中からほのかにルリの体温を感じる気がする。寝息は聞こえず、まだルリは起きているようだった。謝るなら今なのだが、なかなか言葉が出ない。


「ミル」


 背後から呼びかけられ、あたしは一瞬ビクッとする。


「何?」


「ごめんなさい」


「え!?」


 突然のルリの謝罪に頭が混乱する。こっちが謝ろうと思っていたのに出鼻をくじかれた気分だ。


「なんでルリが謝るんだよ」


「だって、私が調子に乗って謎解きをしようとしなければ、あんな事にならなかったって。私を庇ってミルが気絶して、結局その後もミルに助けられてばかりで……」


 やっぱりルリは自分が悪いとずっと気にしていたのだ。悪いのはむしろあたしの方だったのに。調子に乗ったのはあたしだし、結局守れなくて助けられたのもあたしだ。そこははっきりしないといけない。あたしは寝返ってルリの方を向く。


「ルリ、こっちを向いて」


「え?うん、分かった」


 ルリが寝返ると思ったより目の前に顔が来た。でも、ここで目を背けてはいけない。


「謝るのはこっちだ。ごめん、本当に。

怪しい屋敷だと途中で分かったのに隠したのがいけなかった。あたしなら何とかなると自信過剰だったんだ。結果としてルリを危険な目に合わせ、あたしが助けられた。だから、本当に悪いのはあたしの方だ」


「うん、分かった。

おあいこね。私も悪かったし、ミルも悪かった。お互いに謝った。だから、あおいこ。それでいいよね?」


「そうだな、それでいい」


 お互い言い合いしてもしょうがない事は分かっていた。二人して見つめ合い、微笑む。あたしはルリ一人で抱え込むんじゃ無ければそれで充分だと思った。


「なあ、このまま旅を続けるのでいいのか?」


「それってハリアル屋敷の地下の事だよね。確かにあんな危ない目に合うのも、悲しい事件に合うのも嫌だとは思ってる。でも、それを恐れてたら何も出来なくなる気がする。

ここ数日色々考えたの。魔族の事、魔女の事。あのナルって魔女の事も。私には何が正しくて何が間違ってるかがまだ分からない。だからこそ旅を続けたいと思った」


「そっか、ルリは強いんだな」


 あたしはどこかでルリを守るべき存在だと考え過ぎていたんだと思う。でも、ルリはそうじゃ無かった。もしかしたらあたしより強いのかもしれない。


「そうでも無いよ。ただ、無知なのが嫌なだけ。私が強いんだとしたら、それはミルが居たから」


「――でもあたし、情けなくないか?」


「そこはうぬぼれるところでしょ。ミルらしくもない。

大丈夫、ミルはずっと私の先を行ってて、私に力をくれてるよ」


 ルリの言葉は本当に嬉しくて、その優しいまなざしは本当に愛しかった。あたしはもっと強くなりたいと思った。ルリを守るんじゃなく、支える存在になりたいと。


「分かった、もう弱音は吐かない。ルリに負けない、強い魔女であり続けるから」


「じゃあ私はいつかミルに追い付いて、追い越してみせる。

だから、旅を続けよう、一緒に」


「そうだな、これからもよろしく」


 あたしは頭を上げ、ルリのおでこに優しくおでこをくっ付けた。ルリに触れるだけで力を貰える気がする。いつまでもこうしていたいが、名残惜しみつつゆっくり頭を離す。


「じゃあ、明日の朝には出発ね。目指すはデロリラの町。

おやすみなさい、ミル」


「おやすみ、ルリ」


 再び二人で反対を向いて横たわる。背中にルリを感じる事であたしは安心して深い眠りへと落ちていくのだった。


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