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転生

「はぁ…なんか俺が本気でハマれるようなラノベないかなぁ…。最初は弱い主人公が、苦しみながらも成長して前に進むような物語。」

一日の授業が終わり、宇治は家と最寄り駅をつないだ道を歩きながら就いた空を見上げ一人息をこぼしていた。

 二本の長い歩道の間に大きな車道があり、銀杏の木がきれいに並んでいるのが美しい道。秋になると人通りが少ない時間帯にその風景を写真にとらえようとする人も出て一定数いる。

 宇治はそんな景色には目もくれずただ地面を見ながら歩き続けていた。するとふと、道端で毛繕いをしている一匹の猫が視界に映る。その猫は首輪もなく、しかし野良とは思えないほどの純白で整った短い毛並み。

 結局、その猫を横切るまで目を離せずに歩き続ける。いいものを見た、程度の認識ではあるが少量の幸福感が心を濡らした。

通り過ぎた猫から目を離し、一つ手前の信号を確認するため前を向く。これまた幸いにも、信号表示は青だった。

「学校では散々だったけど、その分今はついてるな。」

 信号が変わらないうちに渡りきるため、小走りをしようとカバンを肩に深くかけ準備をする。前から自転車でスマホ片手にふらふらしながら走って来る高校生らしき人がいた。

(危ないなぁ…。だれか前にいたらどうすんだよ。)

 後ろを振り返ると、歩行者はみんな自転車を警戒してその直線上には近寄っていない。歩行者は。

空けられた道には、先の猫が未だ夢中で毛繕いをしている。人の気配が前になければ、あの自転車はそのまま直進するだろう。

もし猫にあの高校生が気付かなければ、もし猫があの自転車に気づかず轢かれてしまったら。最悪、当たりどころが悪ければ死んでしまうだろうか。

 宇治は自転車がこちらへ来る前に猫を移動させるため、急いで踵を返す。

「あっやべっっ!!」

急いで進行方法を変えたため、脚がもつれて宇治の身体は勢いよく飛び出した。

いい年をしてコケることなんて早々ないため、慌てて次の脚を出すも勢いはただ増すばかり。先には道を照らすための小型街灯があるが、あまりの勢いに進路を変えることも難しい。

そして街灯にぶつかる直前、宇治にはその瞬間が何フレームにも見えた。自分に驚きどこかへ走り去る猫、徐々に近づく鉄塊。


ーーーゴンっーーー


とても鈍い音が宇治の身体に響く。頭の奥を強い鉄の味が染め、もう手足は動かない。

(なんで…なんで…こんな目に…。)

周囲の雑音が段々と小さくなり、暖かな感覚が自分を包みこんだ。


ーーーふぇ~、君、なかなか悲しい死に方だったね。ーーー


 静寂な世界に吹き渡る声がひとつ。だが声をかけられようが、宇治はもう薄い意識の中返答することはできない。


ーーー可哀そうにねえ。猫を助けるために行動したのに、その結果自分が死んでしまうなんてね。---


………………………………………。


ーーー可哀そうな君には、君たちで言うところの異世界転生? っていうやつをしてあげるよ。ーーー


………………………………。


ーーーまあチート能力は定番だけど、僕も君と同じ考えでさ。簡単にうまくいってもつまらないもんねえ。ーーー


………………………。


ーーーその世界のパワーバランスもあるし、魔物達もポッとでのチートに楽々滅ぼされてもかわいそうだもんね。---


………………。


ーーーみんなの前で死ぬのはあんまりよくないけど…。個人的には好感の持てる死に方だし、君には異世界を満喫してほしいんだ。---


………。


ーーーまあとりあえず、異世界生活楽しんでね! 君のことをずっと見てるカラさ。ーーー


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