9.カルシア公爵家での夜会 2
セチルが去った後、リリデアナはフラフラと歩いていた。
同年代の男性からあそこまでの求愛を受けたのは初めてだった。
「リリデアナ嬢、大丈夫ですか?」
白ワインを差し出され、リリデアナはそれを受け取った。
「ニコラス様…。ありがとうございます…」
引きつりながらも微笑を作るリリデアナ。
すると、ニコラスは器用に片眉を上げたのだった。
「先日は、申し訳ありませんでした」
「いいえ、気にしておりません」
先日の出来事が甦ってくる。
全く気にしていないといえば嘘になるが、ニコラスにそんなことを言えるはずもなかった。
リリデアナは一口、白ワインを飲んだ。
濃厚なマスカットの味が広がる。酒に弱いリリデアナは頬を少し赤らめた。
先程のセチルのことを追い払おうと、その後も白ワインをぐびぐびと飲んでいった。
「もしや、お酒弱いのですか?」
ニコラスにそう問われるも、リリデアナは首を傾げるだけだった。
本人には酒に弱いという自覚がないのだ。
「弱くなんかありません。……カイルいませんか?」
足元がだんだんふらついてきた。
ヘレンかアリスティアを呼べば良いのだろうが、二人はダンス中。
ルーシャも挨拶回りで忙しそうだった。ここで頼れるのは従弟のカイルだけだ。
「ちょっと待ってて下さい」
ニコラスは駆け足でどこかへと行ってしまった。
夜風に当たり、酔いを冷まそうとカルシア公爵家の庭へと出た。
冷たい風がリリデアナの頬を掠める。
「リリデアナ!!」
血相を変えたカイルがリリデアナのもとへと走ってくる。
その横にはニコラスもいた。
「ん~。カイルぅ…。ぎゅーしてください~」
「は?」
突然のリリデアナの変わりように、カイルもニコラスも理解が追い付かなかった。
淑女の鑑ともいえるリリデアナはこのようなこと、一度も言わなかった。
「ねぇ、ぎゅー。駄目ですか?」
カイルは辺りを見回した。
幸い、辺りには誰もいない。
これを見られたらリリデアナにとって一生の恥となるだろう。
「リリデアナ、部屋で休みましょう。ルーシャに言って、用意してもらいましたから」
カイルはリリデアナの華奢な体を抱き抱え、部屋へと運んだ。
「ニコラス様も~?」
「リリデアナ嬢…!?」
部屋に着いてからもリリデアナの甘えは止まらず、むしろ増す一方だった。
今まで溜めてきたリリデアナの誰かに甘えたいという思いが酒によって爆発したのだ。
「リリデアナ、ニコラスは駄目です」
「や~っ!じゃあ、カイルがぎゅーしてくらさい。かぞくとぎゅーするのあたりまえれすよね?」
リリデアナは呂律が回らなくなってきた。
うるうると大きな瞳に涙をいっぱいためている。
「~っ!!リリデアナ、本当はこんなことしたくないんですが…」
カイルは、手を振り上げ、リリデアナの首へと落とした。
すると、リリデアナは気を失ったのだった。