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5.ニコラスの回想

リリデアナが旧図書室にいたころ、ニコラスは放心状態だった。


──あれは痛いな…。


ニコラスもといニックはリリデアナと小さい頃に出会っていた。







◆◆◆







「ほら、ニコラス見てごらん。ここが別荘だよ」


ニコラスは父に連れられ、王都から離れた森へと来ていた。

その近くには庶民街という庶民が住む住宅や、商店があった。


「父上、俺、森を散策してきます」


この雄大な森に足を踏み入れたかったニコラスは父に許可を貰い、森へと向かった。


森にはたくさんの自然があった。

底まで見える澄んだ湖。目を瞑れば聴こえる虫の()

もっと、もっとと歩を進めていけば、白いワンピースを身に纏った少女が目に入った。


白銀の髪に水色と金色のオッドアイ。華奢で色白な足と腕。

まさに妖精のような少女だった。


「あ、あの……!」


「はい?」


ニコラスが思いきって声をかければ、ふわりとワンピースを翻しながら振り向いた。


「お、俺…、ニコ…ニックといいます。君は?」


ニコラスというのには少し抵抗があった。もしかしたら、別荘に来ている貴族令息だとばれるかもしれない。ニコラスは自分を、そうやって認識してほしくなかった。


「私、リリデアナです」


まだ十歳にも満たないと思われる彼女は、あどけなく笑った。

八歳にしては長身のニコラスから見ると彼女は年下に見えた。


「リリデアナ、俺と遊ばない?」


「いいですよ。なにしますか」


ボードゲームしかしらないニコラスは、この自然の中でどんな遊びをしようか悩んだ。

その時、リリデアナから提案が出た。


「あの、みんながしてるお姫様ごっこしてみたいです…。だめですか?」


胸の前で手を重ね、上目遣いで懇願するリリデアナにニコラスは言葉を詰まらせた。

先程まで大人びていた印象だった彼女。しかし、子供らしい遊びを提案してくることや動作に惹かれてしまったのだ。


「いいよ。じゃあ俺は王子様?騎士様?」


「えっと…。王子様をしてください」


ボボボッと顔を真っ赤にさせながらリリデアナは言った。


「!……う、うん」


こうして、『お姫様ごっこ』が始まった。


「リ、リリデアナ姫。今日は一段と美しいですね」


いつもは社交辞令のこの言葉だが、リリデアナには本音で言っていた。


「ありがとうございますニック様。その…ニック様もカッコいいです…」


林檎のように真っ赤に染まった頬にニコラスはかぶりつきたくなった。

その欲望が行動に出て、ニコラスはリリデアナを自分のもとへ強引に引っ張った。


「ニック様?」


驚いたリリデアナが離れようとするが、ニコラスは抱きしめる力を更に強めた。


「リリデアナ、君は可愛いね。会ったばかりだというのに俺をこんなにも翻弄させて」


ニコラスは彼女の耳元でそれを囁いた。


「ひゃ…。ニ、ニック…。やめてください……」


子供とは思えない気障な言葉とニコラスの無駄にいい声でリリデアナは腰を抜かした。

こんな言葉、リリデアナは一度も言われたことがなかったのだ。


腕の中でさっきよりも顔を赤くしているリリデアナ。

ニコラスはもっといじめたくなったが、彼女が可哀想だと思い、離そうとはしなかったが囁くことをやめた。


「ねぇ、リリデアナ…。俺と友達になってくれない?俺、ここには初めてで、知り合いがいないんだ」


「そうなんですか?……お友達、なります」


少し考えた後、リリデアナは答えた。

その答えにニコラスは踊りたくなったが気持ちが悪いのでやめておいた。


「じゃ、じゃあ。私のこと、リリって呼んでください」


「リリ…?」


ニコラスはリリデアナの突然の要求に驚きながらも応えた。

その事に、彼女は破顔して、ニコラスに自ら背中に手を回した。


「へへっ。ニック、ありがとうございます。私、愛称で呼ばれて見たかったんです。友達も欲しかったんです。友達と抱き合ったりしたかったんです」


グリグリとニコラスの胸に頭を擦り付けるリリデアナ。白銀の髪がサラサラと揺れ、リリデアナの甘い香りがニコラスの鼻を擽った。


「そうなんだ。リリは本当に可愛いね」


ニコラスは彼女の髪を整えながら言った。


──でも、男友達にそれは駄目だよ、リリ。


そう言いたいのをグッと堪えながら。





◆◆◆






「忘れてたなんて…」


あれから七年も経っているのだ。

忘れていたこと位でリリデアナを責めることは出来ない。心は少し痛んだが。


しかし、今まで彼女の事を庶民だと思っていたのだが、そうではなかったようだ。

侯爵家の令嬢。伯爵家の令息であるニコラスにとっては身分差があった。


「あれ?ニコラス?何をしているんですか?」


リリデアナの従弟であるというカイルがこちらへ来た。

ニコラスは、リリデアナと小さい頃に会っていたことをカイルに言っていた。カイルがここまで執着心の強い男だとは思っていなかったが。


「なぁ、リリデアナ嬢って元々、クラウディオ侯爵家の令嬢だったのか?」


ニコラスが問うと、カイルは顔をしかめた。

温厚そうなカイルがこんな顔をするのは初めて見た。


「リリデアナの前でその話はしないでください。じゃないと、お前の首を切り落とすぞ」


冷徹で、虫けらを見るようなカイルの視線がおぞましかった。


「わ、わかってるよ。だから、教えてくれ」


「チッ…。しょうがないですね」


ポツリポツリと、カイルはリリデアナの家庭環境や過去の事を話してくれた。

どれもが、ニコラスにとって衝撃的だった。


「あ、もしかしてあの金髪…」


金髪、とはニコラスから見たヘレンの事だった。妙にニコラスにベタベタしてきて鬱陶しかったので覚えていた。

姉妹なのに何故あそこまで似なかったのだろうというニコラスの疑問はこれで解けたのだ。


「あいつは、私が一番憎んでいる相手です。私が折角彼女の誕生日にリリデアナに贈った唯一無二の髪飾りをつけたんですよ?しかも、奪い取ってまで。他にも、デートをしているときに邪魔してきたり。

あ~あ、早くあいつのエスコート役、降りたいですね。……っと、紳士が淑女の悪口を言うものではありませんね。リリデアナに叱られてしまいます」


どうやら、カイルの世界はリリデアナを中心に回っているらしい。

恐らくリリデアナが愚痴を溢してしまったら、元凶を抹殺してしまうだろう。


「なるほどな。リリ……デアナ嬢とカイル、ルーシャ様は血が繋がっていないから恋愛対象として見れるんだな」


「いや、血が繋がっていても、恋愛対象として見てたと思いますね」


「あっそ…」


蕩けるような顔をするカイル。

ニコラスは苦笑しながら、溜め息を吐いた。


「じゃあ私はこれで。リリデアナと一緒に帰る約束をしているんです」


「はいはい。邪魔して悪かった。でも、俺もデートしたいよ」


「そうですか。出来るといいですね。まぁ、その時は貴方の首を切り落とすか、食事に毒を混ぜてあげますよ」


再び、カイルからの言葉の刃が飛んでくる。

ニコラスは慣れたが、他の令嬢、令息がこれを聞いたら卒倒しかねないだろう。


カイルの去り行く背中を見ながらニコラスはそう思った。

ニコラスが気障すぎてナルシストに見えるかもしれませんが、そこはイケメンだから許されるのフィルターをかけてください。

遅くなりましたが、ブックマーク登録、評価、ありがとうございます。

そして、カイルは従弟です。カイルの方がリリデアナより年下なので従兄ではありませんでした。

そこも修正したので、よろしくお願いします。

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