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3.友人

後半は、ルーシャ視点です。

王宮のパーティーから二年後。

リリデアナを取り巻く環境はさほど変わらなかった。

変わったのは、学園に入ったことだけ。


ヒュルス王国にあるヒューマスト学園は、十五歳から入ることが出来る。

そこから三年間、教養、マナーを身につける。

……といっても、大半の生徒は学園に入るまでに家庭教師を雇い、教養もマナーも身につけるから学園に入るのは社交性を身につけることが主な目的になっている。


リリデアナ、ルーシャ、アルベルトは二年生に。

ヘレン、カイルは一年生になる。


今日は、ヘレンとカイルが学園に入学する日だ。


「見て見てお母様!お父様!ドレス似合ってる?」


ヒューマスト学園は、制服はなく、自分の好きなドレスで通うことが出来る。

寮制でもないため基本自由。


ヘレンは、淡いオレンジ色のドレスを身に纏っている。

髪の毛も、緩く巻かれている。


一方、リリデアナは紫色のドレスで、髪は編み込んでいる。

侍女達が本気を出したらこうなるらしい。


「似合ってるわヘレン。とっても綺麗」


優しく、目を細めてアイラはヘレンを褒めた。

その後、リリデアナを一瞥したのだ。


「あんた、紫色のドレスを着るの?」


アイラがリリデアナの名前を呼ぶことはない。

あるとしたら、社交界の時だけ。それも、滅多にないのだが。


「はい」


「そう」


会話はそれだけで終わった。


───────────


「リリデアナ、ご機嫌よう」


「アリス、ご機嫌よう」


入学式が終わり、教室に入ればリリデアナの友人、アリスティアが話し掛けてきた。

リリデアナの家庭環境を知っている数少ない人物。

そして、ヘレンを苦手としている人物。


「あ~あ。あの憎たらしい雌が入ってきたわね」


「に、憎たらしい…?」


会って早々異母妹に毒を吐く友人にリリデアナは困惑した。


「嫌ね、リリデアナ。私愛らしいって言ったのよ?……うぇ、やっぱりそんな嘘言えないわ」


誤魔化そうと思ったアリスティアは気持ち悪くなって出来なかった。

ヘレンへの不満がそこまで溜まっているということだろう。


「ふふっ。正直だと思います」


口元に指先を当ててリリデアナは笑った。

その仕草に周りにいた人物は頬を染めた。

もちろん、アリスティアも。


「?……どうしたんですアリス。急に黙っちゃって…」


首を傾げるリリデアナ。その行動が更にアリスティアを悶絶させる。


「リリデアナ、私のところに嫁がない?」


「えっ…?」


アリスティアの本気の目にリリデアナは戸惑う。

ここ、ヒュルス王国では同性婚は認められていない。恋人は別だけど。


「その……、私アリスのこと大好きです。だから、嬉しいです。でも、同性で結婚は出来ませんから。ごめんなさい…」


なるべく、アリスティアを傷付けないよう、言葉に気を付ける。

本気か冗談かも分からないアリスティア。

それがリリデアナには怖かった。


「ふふっ。リリデアナ本当に可愛い!冗談よ。ただからかっただけよ」


「そうなんですね。びっくりしました」


今、自分に抱きついているアリスティアにも驚いているのだが、それも日常茶飯事なので気にしない。

アリスティアがリリデアナにいきなり抱きつくのはこれが初めてではないからだ。


「あら…?リリデアナって結構……柔らかいわね」


「や、柔らかい……?」


アリスティアに柔らかいと言われ、リリデアナはショックを受けた。

そして、自分の腹部に視線を送る。


──太ってるのかな。


低身長で、それなりに括れもあるリリデアナ。

コルセットも大体が小さいものだった。


しかし、アリスティアと比べたらどうだろう。アリスティアは所謂、美人で、スラッとしていた。

身長だって、リリデアナと比べたら十センチ程違う。

アリスティアと比べたら自分はまだ子供。リリデアナはそう思った。


「あ、えっ?そういう意味じゃないのよ!柔らかいっていうのは…。む─」


「「アリスティア!?」」


アリスティアが弁明しようと思った矢先、二つの男性の声がそれを遮った。

その声の主は……


「殿下……、ルーシャ…」


今にも舌打ちしそうな声音でアリスティアが言った。

笑顔は保っているようだけれど、目が笑っていない。


「アリスティア?今、リリデアナになに言おうとしてたの?」


「嫌ですわ。乙女の会話を盗み聞きするなんて」


ルーシャが問い詰めるも、アリスティアはしらをきるばかり。

諦めたルーシャは大きなため息を吐いた。


「リリデアナ、アリスティアに変なことされそうになったら真っ先に僕を頼るんだ。いいかい?」


「はい。ルーシャのことは一番の家族のように思っているので」


いつもの微笑ではなく、温かい日だまりのような笑顔を向けるリリデアナ。

この笑顔は気を許した人にしか見せないもので、ルーシャはその数少ない人物の一人だった。


「う、うーん…。家族…」


不満気にルーシャが呟く。


──嫌だったのかな…。へこむ。


自分の今の家族を家族と認めていないリリデアナはルーシャの事は家族だと思っていた。

父方の親戚も親切にしてくれていたからその人達も家族だとは思っている。

しかし、やはりルーシャ以上の家族はいないとリリデアナは感じていたのだ。


「嫌だったのなら、ごめんなさい」


「へっ!?嫌?嫌じゃないよ!!ただちょっと……」


ゴニョゴニョと言葉を濁すルーシャ。

アリスティアはそんなルーシャに向かってただ一言、『いじらしいわね』と呟いた。


「アリス、何か言いましたか?」


アリスティアが呟いたことに気付いたリリデアナ。

しかし、何を言ったかまでは分からなかったようだ。


「いいえ。何も言ってないわ。………さっきから廊下が騒がしいわね」


アリスティアの言葉でリリデアナ達は廊下に視線を向けた。

きゃあきゃあと沢山の令嬢が群がっていた。


その中には婚約者がいる令嬢も。

リリデアナ達は興味本意で人だかりの方へ近づいていった。


「リリデアナ…!」


「あれ?カイル?」


──何で一年生のカイルが二年生の棟へ来てるんだ?


ヒューマスト学園では、学年で棟が分かれている。

一年生は二階の東棟。二年生はその反対で二階の西棟。三年生は三階の東棟だった。

その他の特別教室は色々な所に設置されてある。


……のだが、一年生が二年生の棟へ来ることはあまりない。

先輩に話し掛けることが難しく、恐いらしい。


だから、一年生であるカイルが二年生の棟へ来ることは珍しかったのだ。


「カイル…?どうしたんですか?その方は…」


リリデアナはカイルにばかり気を向けていたが、もう一人いることに気付いた。

カイルより少し背の高い黒縁眼鏡の男。紫色の髪と瞳。

端正な顔立ち。令嬢達が騒ぐのも無理はない。


「彼は、ニコラス・クーベです。私の友人なんですよ」


カイルが『彼』を紹介すると、ニコラスはフワリと笑った。


「お久し振りです。リリデアナ嬢」


「お久し振り……?私、ニコラス様には初めてお会いしたのですが…」


『久しぶり』。しかし、リリデアナはニコラスに会った記憶がなかった。

小さい頃に…とはならない。クーベと言えば伯爵家で、庶民だったリリデアナが会えるはずがなかったのだ。


「え…あ、あぁ…。なるほど。そうでしたね。俺の記憶違いだったのかもしれません。すみませんでした」


「いえ。私にもあるんです。そういうこと。もしかしたら本当に会っているのかもしれませんし」





◇◇◇






──……何だよあの男。


ルーシャは、社交用の笑みを浮かべ、怒りに堪えていた。

怒りの矛先はリリデアナと仲良く話している長身の眼鏡野郎。


──それなりに進展してると思ったんだけどなぁ…。


あの家庭環境の中でリリデアナを救ってやれるのは自分だけ。

そんな思いが、優越感が。ルーシャをいつしか支配していた。

カイルもリリデアナと特に仲の良い人物だが、自分の方が上だという謎の自信。


気づいたら、リリデアナに向ける愛は思いの外大きくなっていたようだ。


小さい頃から抱いていたリリデアナに対しての感情。

ルーシャは毎日毎日、悶々としていた。


リリデアナが成長するに連れて、ルーシャの愛と不安は更に大きくなっていった。

華奢な体のライン。色白の肌。ぷっくりとした唇。大きな瞳を縁取る長い睫毛。

綺麗なオッドアイ。

なにもかもがリリデアナをより美しくさせていた。


そんなリリデアナはルーシャが一番恐れていることをした。

あの王太子殿下を手玉に取り、侯爵令嬢のアリスティアのこともタラシこんだのだ。

しかも、無自覚だから余計質が悪い。ルーシャはそのことに気が気じゃなかった。


ルーシャはカイルもリリデアナの事が好きだという事は分かっていた。

カイルが結ばれたいのはリリデアナだと。その為に、カイルは縁談話を次々と断っていたのだ。

リリデアナの誕生日のときは一番に挨拶をしにいって、プレゼントを渡す。

しかも、それは大体がオーダーメイド。

温厚そうな顔をして、執着心の強いカイル。

ルーシャにとっての一番のライバルは、カイルだった。








リリデアナ大大大好きなルーシャ達は、リリデアナについてだったら、何日でも何年でも語れます。

後々、そういうほのぼのも入れていきたいと思います。

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