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2.パーティー

リリデアナはルーシャに手を引かれ、王宮の庭に来ていた。

テラス席に座り、息を吐く。


(カイルには後で謝っとこう)


ご機嫌斜めのヘレンをその場に置いてきたリリデアナは少し罪悪感を感じていた。

いくらルーシャが自分を助けてくれたからといって、ヘレンを置いてきていい訳がない。

かといって、パートナーと離れることは出来ず。

ヘレンのエスコートをしているカイルにとって、ヘレンへの対応は大変だろう。


「ルーシャ、ありがとうございます。私、これで助かりました」


「本当?ごめんね、いつも何も出来なくて」


ルーシャの返答にリリデアナは首を緩く振る。

何もしないで傍観に徹している父よりかはマシなのだ。


「いいえ、いいんです」


悲しげに、リリデアナは目を伏せた。

その姿がいじらしくて、ルーシャはリリデアナの頭を優しく撫でた。

リリデアナは目を見張ったが、すぐに顔を緩ませた。


──……私、初めてこんなことされた。


自分の初めてを奪ったルーシャが少し憎かったが、リリデアナはそれを出さないようにした。

髪の毛は侍女以外に触らせたことはなく、リリデアナの髪はいつも綺麗に纏められていて、誰も触ろうとするものはいなかった。


しかし、今日は違った。アイラがヘレンより、リリデアナが目立つことを恐れて髪を下ろさせただけにしたのだ。

リリデアナの髪をセットすることが好きな侍女達は落ち込んだが、アイラにそれを悟られると後々面倒だから、感情を押し殺した。

その代わり、ヘレンの髪をセットすることになったのだけれど。


「さて、あっちも落ち着いた頃だろうし、戻ろうか?」


いつのまにか終わっていた心地よい時間。

また頭を撫でてほしい。そんな願いがリリデアナに芽生えた瞬間だった。

懐かしかったこの感覚は実の母にもらったものだった。


「そうですね」


再びいつもの微笑を作り、リリデアナは差し出されたルーシャの手を取った。


「リリデアナ……」


二人がホールへ戻ると、そこにはご機嫌斜めのヘレンと憔悴しきっているカイルがいた。

どうやら、王太子殿下(アルベルト)とダンスが出来ないのが気に入らないらしい。


「何で、何でよ…」


ヘレンがブツブツ呟いていたとき、こちらへ近づいてくる美丈夫の姿があった。

それがアルベルトであるということに理解するのに数秒。


サラサラと、アルベルトが歩く度、彼の髪の毛がそれに呼応するように揺れる。


(何でこっちにいらしてるんだろう…?)


そんな疑問を抱え、リリデアナはアルベルトの動向を見ていた。


「リリデアナじょ──」


「殿下!」


アルベルトの言葉に被せながらヘレンが言った。

最悪、不敬罪にもあたるヘレンの行動をアルベルトは笑って流してくれた。


「リリデアナ嬢、僕は王太子のアルベルトだ」


「存じ上げております殿下。私、クラウディオ侯爵家長女のリリデアナです。先程の妹の失態、申し訳ありませんでした」


深々と綺麗な礼をするリリデアナ。そんな彼女を誰が元庶民だと思うのだろう。


「いいや大丈夫。君の妹の噂は耳にしているからね」


「そ、そうですか…」


『噂』、それが何を指しているかは分からない。

社交の場なんて出たとしても壁の花、もしくはダンスを踊るだけ。

たまに他の令嬢、令息とも会話の駆け引きをしたりしている。

けれども、リリデアナはヘレンの噂など耳にしたことはなかった。


美人のヘレン。そういうことしか耳に入ってこなかったから。


「久しぶり、アルベルト」


ルーシャの目はアルベルトを捕らえていた。


「ルーシャ。久しぶり」


友人の久しぶりの再会。そういう風に周りからは見えるだろう。

しかし、ルーシャからのアルベルトへ向けられる冷たい目は誰も気づかなかった。


「殿下ぁ…!」


ヘレンが叫ぶ。

今のヘレンの顔は発情期の雌。


(あ、でも動物に例えることも烏滸がましいね)


リリデアナはヘレンに向かって心の中で毒を吐いた。

心の中で位許してほしい。いつもの微笑は保っているのだから。


「……君は?」


アルベルトがヘレンに紹介を求めた。

この事に、リリデアナ、ヘレンは驚いた。

可愛いと噂されるヘレンの名前をしらないとは。しかも、侯爵家の令嬢の名前を。


──わざと?


リリデアナはそう考えた。

何故なら、聡い、文武両道のアルベルトが侯爵家の令嬢の名前を覚えていないわけがない。


ヘレンはその事が分からなかったのか、笑顔で名前を言った。


「ヘレンです」


この自己紹介にリリデアナは頭が痛くなった。

いくら、異母姉(あね)の自分が家名を名乗ったからといって、異母妹(いもうと)のヘレンが名乗らないというのは不敬にあたる。


「殿下、発言することをお許しください」


「え、あ全然いいよ…?」


「有り難く存じ上げます」


元庶民のリリデアナがここまで成長出来たのは、祖母のお陰だろう。

両親やヘレンは嫌っていたけど。


「誠に、妹が申し訳ありません。家名を名乗らないのは、不敬にあたると存じております。ですが、妹はまだ社交界デビューを済ませたばかり。

それに加えて、見目麗しい殿下を前に驚いてマナーを忘れてしまっているのかもしれません。

言い訳になるとは分かっておりますが、何卒、妹の失態に目を瞑って頂けませんでしょうか」


「ちょっと、お姉様…!今度こそお母様に言いつけますよ!?」


見下している異母姉に庇われる気分はどういうものなのだろう。

ヘレンは耐えきれなくなって、母に言いつけることに決めたのだ。


「ヘレン嬢?ほら、僕と踊ってくれませんか。その代わり、リリデアナ嬢のことを夫人に言うのは、やめてあげて」


何故か、アルベルトがリリデアナを庇ってくれたのだ。

リリデアナは混乱していたが、微笑を保つように努力して、焦りを悟らせないようにした。


「まぁ、殿下!お優しいんですね。良いですよ」


ヘレンは能天気のようで、すぐにアルベルトに騙された。


──発情期の雌にはこれが一番いいんだ。


そう思い、リリデアナはフッと薄く笑った。

それはいつも浮かべている微笑ではなくて、心の底から他人を嘲笑うような笑み。

この笑みは、誰も知らなかった。リリデアナ本人も、無意識にしたもので、気づかなかったのだ。


「それではカイル。私殿下と踊ってくるね」


「はい、いってらっしゃい」


いつもは温厚そうな顔をしているカイルだが、ヘレンには嫌悪感を抱いていた。

我儘自己中、自分が一番可愛いと思っている女。ヘレンに対してのカイルの思いはここまで来ていた。

だから、ヘレンが自らどこかに行ってくれるのは大歓迎だった。


「は~。殿下がいらしてくれてよかったですね」


ヘレンとアルベルトが行ってから、カイルが安堵の息を吐いた。


「私はリリデアナのエスコートがよかったのに…。

そうですよ。ルーシャがヘレンのエスコートをして下さいよ。ヘレンのお気に入りでしょう?」


「え…。いや僕は、前からリリデアナのエスコート役だし…」


リリデアナのエスコート役を降りたくないという、気持ちがルーシャを襲う。

そんなルーシャの気持ちとは裏腹に、リリデアナは斜め上のことを言ってきた。


「ルーシャ、婚約者とかいるんですか?いたら私のエスコート役を降りてください」


「うん…。え?……え!?」


「え?ルーシャって婚約者いたんですか?」


追い討ちをかけるようにカイルがルーシャに問う。

ルーシャは鈍器で頭を殴られたかのように頭が痛くなった。


「いない、いないよ!?僕、リリデアナのエスコート降りないから!」


焦って焦って焦りまくったルーシャは、本心を明かした。

リリデアナはキョトンとしていたが、柔らかく笑った。


「無理しなくていいんですよルーシャ。それと、好きな方ができたら教えてくださいね」


「う、うん…」


ルーシャは乾いた笑みを浮かべ、呆けていた。

そんなルーシャを他所にリリデアナとカイルはルーシャの好きな人を当てるゲームをしていた。


「やはり、アリスティア様じゃないでしょうか」


「いや、テレシア嬢かもしれませんよ」


「待って!本当に、僕好きな人いないから!」


意識を取り戻したルーシャが反論する。

カイルはその反応でルーシャが嘘を吐いているのと彼の好きな人が誰かは分かったが、あえて言わなかった。

自分と同じ人だったら怖かったから。


「リリデアナ、本当にいないからね?……ねぇ、もしかしてリリデアナは僕にエスコートしてもらうの嫌?」


「え?い、いえ。嫌ではないですよ?」


「ふぅん…?」


──突然何を言い出すんだルーシャは。


リリデアナのルーシャに対する不信感が高まったのは言うまでもない。

そして、その事で微笑が崩れていたのだが、リリデアナは気にする余裕がなかった。







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