12.暗い日々
ヘレンが牢に入れられてから、アイラからのリリデアナに対しての態度はより一層酷いものとなった。
加えて、父親でもあるケビンも暴力を振るってくるものだからたまったものじゃない。
顔や腕などは殴られず、腹や背中など、ドレスを着たときには見えない場所を殴ってくる。
食事も一日に一食。リリデアナは日に日に痩せていった。
この家では一番楽しみにしていた食事を一回とされ、希望も薄れてきた。
学園では気丈に振る舞うリリデアナはとっくに限界を超えていた。
助けを求めたいが、その勇気が出ない。
頼りにしていたセチルも学園をずっと休んでいる。何度か、ルーシャやカイル、アリスティアに助けを求めようとしたが、大好きな彼らに迷惑をかけたくはなかった。
リリデアナを慕っていた使用人たちは一斉に解雇され、クラウディオ邸で働く者は今までの三分の一ほどとなってしまった。それも、アイラとケビンの息のかかった者だけだった。
「あんた、早くヘレンを返しなさい!馬鹿な女の癖に!!私の可愛いヘレンを取るなんて!
しかも、セチル殿下に言い寄ったそうじゃない?本当に馬鹿ね!」
鞭で、リリデアナの骨と皮だけになった背中を打つ。
手入れの行き届いたアイラの金髪が乱れていて、いつもの面影はどこにもなかった。
「お前には失望したよ。別に僕にとっては要らない子だし。
早くヘレンを返してくれれば」
ケビンの冷たい瞳が『お前のせいでヘレンはいなくなった』と言っている。
「……ヘレンは、私の母を侮辱しました。それだけは許せません。
それに、カイルやルーシャから頂いた大切な品も、少しずつなくなっていました。
それをヘレンが付けていることもありました。
私は…この家が大嫌いです」
真っ直ぐに二人を見つめて言った。
声が震えながらも、今、自分が思っていることだった。
大嫌い、それだけだった。
「あんた、いい加減にしなさい!返せ!!返せ!!私のヘレンを!!」
暗く、冷たい地下の空気は彼女の熱気と混ざり、気持ち悪かった。
アイラが言い終わると同時に、乾いた音が地下室に響く。
その後には罵声と鈍い音、リリデアナの呻き声。
今まで気を付けていた顔や腕もお構い無しに殴っていった。
「はぁっ…、はぁっ………。あんたなんか死ねばよかったのよ…!
消えれば!そうしたら、ヘレンもいなくならなかったわ。私だって…」
「……アイラ、戻ろう」
ケビンに言われ、アイラは舌打ちをした。
「あんた、五日間水だけで過ごしなさい。学食も禁止よ」
「はい…」
「しゃべるんじゃないよ家畜!」
アイラはリリデアナの腹を蹴って、部屋を出ていった。
リリデアナは一粒の滴を溢した。
 




