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1.自分と異母妹。

クラウディオ侯爵家の令嬢であるリリデアナの家庭環境は最悪だった。

九歳で母親が亡くなり、そこから自分の父親だと名乗る侯爵に引き取られたのだ。

侯爵には、正妻と一人の娘がいた。

金のサラサラと靡く髪にアメジストをはめ込んだかのような紫色の瞳。

まるで絵本から出てきたお姫様のようだった。


そんな異母妹と義理母からリリデアナは虐げられていた。

義理母のアイラは元庶民であるリリデアナを認めようとはしなかった。

リリデアナが自分のいうことを聞こうとしなければ、手元にあった日傘で叩いたり、罵言雑言を浴びせたり。時には、冬に裸で外に閉め出されたりした。


母が母なら娘も娘なのだ。

庶民を見下す母に育てられてきた異母妹のヘレンはリリデアナを母以上に見下した。

ヘレンは、リリデアナの持っているものを欲しがった。

見下している者が持っているものを欲しがる心理は分からない。

だが、ヘレンはリリデアナから物を奪う時リリデアナがする負けを感じている顔が見たかった。

自分が優越感に浸れるから。


リリデアナには頼れる人物がいなかった。

昔、父に助けを求めたものの、父は『君は強い。自分で何とかしなさい』と言った。

これは、リリデアナが十歳の時に放たれた言葉だ。

父の愛情が向けられるのは、リリデアナではない。ヘレンと正妻のアイラにしか愛情は向けられないのだ。


リリデアナがクラウディオ侯爵家に引き取られて数年。

彼女は十四歳になっていた。

この年頃の令嬢は婚約を結ぶ為に婚約者を探す。その為の催し物が王宮で行われるパーティーだ。

リリデアナとヘレンはこのパーティーに出席することになっていた。


この国では社交界デビューは十三歳の時にするから、ヘレンも社交の場に出れるようになっていた。

パーティーではリリデアナのエスコートは心優しい再従兄にしてもらい、ファーストダンスの後は壁の花と化していた。


しかし、リリデアナの容姿は人目を引くもので周りはそれを許さなかった。

リリデアナは、腰まである白銀の髪に水色と金色のオッドアイだった。

それに加えて、端正な顔立ちをしていたリリデアナはダンスを申し込まれ、微笑をずっと浮かべていた。

地味な色合いのドレスもリリデアナが着れば、華やかに。

だから、リリデアナがどんなドレスを着ていっても変な顔はされなかった。


「お姉様!早く行きましょう!」


今日は王宮で開催されるパーティーがある日だ。

ヘレンは淡いピンクのドレスに身を包み、髪をハーフアップにしていた。

とても美しい。リリデアナはそうおもった。


ヘレンはリリデアナを見下しているものの、リリデアナを姉と認識している。

そっちの方が楽だと感じたらしい。

嫌な者の名前を呼ばなくて済むから。


リリデアナは、グイグイ引っ張られ、馬車に乗り込んだ。

今日は、リリデアナだけでなくヘレンもいるため、再従兄弟と従弟がエスコートに付いた。


「ルーシャ、まだ着かないのかな?」


リリデアナと同い年の再従兄弟─ルーシャはヘレンのお気に入りだ。

ルーシャは、茶色の髪に水色の瞳というこの国で一番多い容姿だった。

だが、顔立ちはとても綺麗で誰にでも分け隔てなく接するので小さい頃からルーシャはヘレンのお気に入りに認定されていた。


「うーん、もう少しかな。リリデアナもヘレンもドレスよく似合ってるよ」


太陽のような温かい笑顔でルーシャが言った。

しかし、ヘレンはルーシャがリリデアナの名前を先に言ったことで機嫌を悪くした。

機嫌を悪くしたと言っても、頬を膨らませるだけ。

そんな姿さえも愛らしい。


「何でお姉様の方が私より先に出たの?」


「えっ…?む、無意識だったんだけど…」


ルーシャは無意識にリリデアナの名前を先に出した─それだけで不平を言われるのは少し可哀想だった。

機嫌の悪いヘレンを前にして、何がヘレンの逆鱗に触れるか分からないリリデアナはずっと黙っていた。


「無意識…。そうだったんだぁ。あ、そうそう。ドレス褒めてくれてありがと」


仮面を張り替えたヘレンはルーシャに擦り寄った。


「いや、全然。……リリデアナも本当に、……綺麗だ…」


再びリリデアナに目を向けたルーシャは心の底からリリデアナを褒めた。

リリデアナに初めて会ったときから、ルーシャはリリデアナを尊敬していた。

にこやかな笑みを浮かべていたとしてもそれは社交用。

笑顔は人によって使い分けていたのだ。


「ありがとうございます。ルーシャもとても素敵です。

カイルもとっても…」


リリデアナに褒められ、笑顔を向けられた紳士二人は頬を染めた。

その事にヘレンは憤りを感じた。

見下している姉がお気に入りを褒めたら、自分のお気に入りが頬を染めた。

そして、自分はその中に入っていけないという疎外感がヘレンをより苛立たせた。


「ねぇルーシャ、この髪飾りどう?」


強引にヘレンは、宝石の埋め込まれた髪飾りをルーシャに見せた。

ルーシャは驚いたものの、平常心を保った。


「とても素敵だね。これは、アメジストかな?」


「そうだよ。私の瞳みたいでしょ」


ヘレンの瞳とアメジストを見比べると、確かに、とリリデアナは思った。

どちらも綺麗な紫色で見る者全員を魅了するほどの美しさを放っていた。


「うん」


ニコッとルーシャが社交用スマイルを浮かべる。

ヘレンは、その事に気づかない。


「カイル、まだ着かないんですかね…」


ヘレンを見ていられなくなったリリデアナは隣にいた従弟のカイルに話しかけた。


「ははっ。ヘレンと同じ質問ですね」


笑いながらカイルに指摘されリリデアナは気付いた。

ヘレンと同じ質問をして不愉快にさせてしまったのでは、と。


「すみません…」


「何で謝るんですか?」


「だって、ヘレンと同じ質問して、同類みたいで…。

ヘレンと同じことするなんて駄目なのに…」


リリデアナは胸の内を明かし、震えた。

ヘレンと同じことするということは自殺行為と同じこと。

アイラにも虐げられてしまう。


「大丈夫……って言っても頼りないですよね。何でも相談していいんですよ?

あ~あ、私もリリデアナのエスコートが良かったです」


「ふふっ。ヘレンに聞かれたら終わりですよ」


「大丈夫。ヘレンはルーシャに夢中ですから」


チラッと、ヘレンを見ると、ヘレンはルーシャの体をベタベタ触っていた。


(あれを見られたらお祖母様に怒られるよ)


そんな思いが頭を過る。


クラウディオ侯爵家の大奥は厳しい。

……が、リリデアナは祖母が好きだった。

庶民だったリリデアナにも差別することなく良くしてくれた。

自分が親族と仲良くなれたのは祖母のお陰だと言える。まぁ、家族とは仲良くなれなかったけれど。


リリデアナは自分で自分を嘲笑った。


──────────


王宮に着き、ヘレンの気分は上々だった。

見目麗しい再従兄弟と従弟を侍らせ、自分の自慢のドレスを見せびらかすことが出来るから。

リリデアナとは、彼女のほうが自分より目立ってしまうからあまり近くにいたくないのだけれど。


「ルーシャ、殿下にお会いできるかなぁ~」


リリデアナとルーシャと同い年のヒュルス王国王太子殿下であるアルベルトは麗しいことで有名だ。

オレンジのフワフワとした髪。切れ長の緑色の瞳。

それは、ペリドットによく例えられる。


ヘレンはそんな見目麗しいアルベルトに会いたくてソワソワしているのだ。


「さあ…?でもアルベルトは忙しいかもしれないね」


カルシア公爵家の令息であるルーシャはアルベルトとは幼馴染みだ。

剣の練習仲間でもある。


「むぅ…。そうなのかなぁ。あ、ルーシャのことも好きだからね!」


いきなり叫んだヘレンに周囲の目が向く。


「ヘレン、そう言うことをあまり叫ばない方がいいと思う」


見かねたリリデアナがヘレンを咎める。

このあと暴力コースだな、なんて思いながら。


その予感は的中し、ヘレンは眉を寄せた。綺麗な顔が台無しだ。


「お姉様、後でお母様に言いつけますから」


「うん…」


「ま、待ってヘレン。僕がリリデアナに注意しとくからアイラ叔母様には言わないであげて?」


ね?とルーシャが言った。


「ルーシャが言うなら…。しっかりお姉様を注意してくださいね」


「うん。だから僕たちは席を外すね」


自分の手首より大きい手で手首を掴まれる。リリデアナは内心驚きつつも大人しくルーシャに従った。


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