2話
何を考えたのかその女の子は俺の隣の台に座った。
おいおい、まさか俺から奪ったその針金使うんじゃねえだろうな!?
「ふっふふーん♪」
案の定その娘は一切の迷いなくクレジット投入口に針金を差し込んだ。
そして豪快に穿る。ガチャガチャガチャ…。
しかしなかなかゲームが開始されない。
それもそのはずこの技には相当のテクニックがいるのだ。
(俺もこの技マスターするまで相当な時間かかったからなぁ。簡単に成功させられても困るってもんだぜ。)
かくいう俺はすでにコンティニュー可能時間が終了していたため女の子の観察に専念していた。
「むっ…!」
ゲームが開始されないことに腹を立てのか、その娘は急に立ち上がると筐体を揺らし始めた。
施設中に筐体が揺れる音が鳴り響く。
(…おいバカ!ババァにばれたらどうすんだっ!)
やめてほしい旨をなんとなく身振り手振りで表現するが願い届かず伝わらない。それどころかむしろその娘の行動はエスカレートしていった。
-ドンッドンッドンッ-
ついに筐体をたたき出した。
(コイツ、まじでやべえ…。ババァに見つかってもまずいしとりあえずここから離れるか)
関係者だと思われても困るしな。そう思い立ち上がったところで遠くでこちらを見つめるババァと目が合った。
…とりあえず笑顔で会釈をし、できる限り高速の早歩きで出口へ向かう。が、4,5歩歩いたところで「おい」というドスのきいた声で動きを制止させられる。今年70の声の出し方じゃねえだろそれ…。
振り向くと何とも言えない形相のババァが顎でこちらに来いと促してきた。さては堅気の人間じゃねえなお前。
「…はい。いかが御用でしょうか急用があるので早急にここを離れたいのですが…」
「急用に向かうんじゃなくてここから離れたいんかいアンタ…」
「ンなことどうだっていいんだよ!ここからとっとと逃がしてくれ!」
「あの娘は知り合いかい?」
「全くもって微塵も完全に所見ですハイ」
「この店に来たのも初めてっぽいし、そこは信じるよ。で、今あの子が今何をやってるのかわかるかい?」
「…ゾンジエマセヌ」
ヤバイヤバイヤバイ。このままババァがあの子に事情聴取に行ったら、絶対俺の存在が出てくる。
なんせあの娘がやってる技は、俺の見様見真似だし。そもそも使ってる針金俺のだし。
「こ、こ、ここは俺が注意してきてやるよ。ほ、ほら恵ちゃん今年で70でしょ?そんなお年を召された方に仕事なんてさせられないよ!縁側と熱いお茶が似合うぜ恵ちゃん!」
「何言ってんだい。熱いお茶なんてババ臭い飲み物飲むわけないだろう。今の私のフェイバリットはジンジャーエールだよ。ありゃタバコと合うからねえ」
「選択の理由が不純すぎんだろ」
-ドッドッドッドッ!ドッ!!ドッ!!!-
話をしている間に女の子の所業はさらにエスカレートしていた。壊れんぞあの台。
「ハァ…。アンタ行ってクレジットいっぱいまで増やしてきてあげな」
「ンー?キョウハオカネソンナモッテキテナイカラムリカナー?」
「何言ってんだい。今日だってこそこそ針金でやってただろう?」
「え゛っ!気づいておられたのですか…」
「気づくも何も3年前にそこの台で練習してた時から知ってるよ。言っとくけどほかの店でやるんじゃないよ」
「…それはこの店では合法という解釈でよろしいのですか?」
「金落とす客が並んでたらぶっ飛ばすからね。あくまで人が誰もいないときにだけにしな」
「まじっすか!!恵ちゃんマジ女神!!ジンジャエールとディスコがよく似合うぜ!!」
「いいから早くいってきな。筐体壊されたらさすがにシャレになんないからね」
そう言って恵ちゃんはバックヤードに戻っていった。去り際まで男らしいな、惚れさせる気か。
合法と分かったことですし目の前の仕事かたずけてから目いっぱい遊ぶとしますか。