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第26話:旭が昇ろうとした日

 由紀さんを助け出した私達は急いで階段を上がり、一階へと戻ってきた。相変わらずそこかしこが金ぴかで、そこに居るだけで目が悪くなってしまいそうだった。

「木船、旭はどこに居るんだ?」

「私も全部は把握出来てないけど、居るとしたら一番上の階かなやっぱり」

「い、急ぎましょう……!」

 そう言って私達が上の階へと続く階段を見つけて上ろうとした瞬間、突然足元が大きく波打ち、建物全体が揺れ始めた。

「ちょいちょい……地震? 今までこんな事この街じゃ無かったよね?」

 ウエキさんの問いに対して自身の手を見ながらコトヒラさんが答える。

「……私達とこの建物とを結ぶ縁がかなり脆弱になってる。この状態がこのまま続けばまずい」

「そういうのって金刀比羅ちゃんの専門じゃないの?」

「……その筈。多分あいつに縁を切るだけの力は無いと思う。だけど、いくらその力が無くても、脆弱になった縁は何かの衝撃で切れる可能性もある。あいつが直接やらなくてもね」

 ふらつく私を由紀さんが支える。

「大丈夫。私が居る限りは問題は無いよ。ほら、行こう」

「そ、そうですね。由紀さんが居れば、きっと……」

 そうだ、由紀さんが持ってる『奇跡』の能力なら大丈夫の筈だ。少なくとも状況が最悪になる事は無い筈……。それに今ここで立ち止まったら、きっと進めなくなる……きっと後悔する。

 私達はこけない様に気を付けながら、少しずつ階段を上っていった。階段はかなりの長さがあり、外から見た以上の高さがこの建物にはある様だった。



 上り始めてからどれ位経っただろうか。最早足が棒になってしまいそうな程の長い時間を掛けて、ようやく私達は最上階に上り詰めた。最上階は大きな一つの部屋になっており、全面襖で囲まれ、足元は畳になっていた。その様はまるで城の最上階の様であったが、下の階と同じ様に具合が悪くなりそうな金色に塗られていた。

 そんな部屋の真ん中にあの人が座っていた。私達が止めようとしている、全ての元凶となった人だった。

「やあ、来たんだねぇ」

「アサヒさん……」

「三瀬川ちゃんも来たんだねぇ……」

 コトヒラさんが前に出る。

「旭、説明してもらうぞ。どういうつもりだ?」

「どうって、何がぁ?」

「とぼけるな。お前は私に、ここに居る木船とこの街との縁を切らせた。私の力は人々を救うための力だ」

「あっはは……やだなぁ金刀比羅さん……私はちゃぁんと皆のために使ったよぉ?」

「何……?」

 旭さんはゆっくりと立ち上がる。

「ここに居る皆を外に出す……そのためなんだからぁ」

 サキモリさんが口を開く。

「お前なら分かるだろう。それをしたらどうなるか位……」

「勿論だよ、跡部君。現世への流出……でしょぉ?」

 アサヒさんはこれっぽっちも悪く思っていないかの様な顔で笑う。

「あ、あの! 大変な事になっちゃうんですよ!? 人間や妖怪……その他の人達も巻き込んで、いっぱい死んじゃう人が出ちゃうんですよ……!?」

「確かにねぇ……でも、大人しく負けを認める腰抜けよりかはずっといいでしょう?」

「な、何を言って……」

 私が困惑していると、後ろからドタドタと誰かが駆け上がってくる音が響く。

「ああ……お待ちかねの子が来たよ」

 そう言われて振り向くと、そこに居たのはユカリちゃんだった。一人だけではなく、ハラエさんやミズキさん、ヨシコさん、そしてナオコさんまで居た。

「サエ……」

「ユカリ、ちゃん……」

 私の中で複雑な気持ちが生まれる。会えて嬉しいという反面、まだどこかおかしいままなのではないかという疑惑もあり、素直に再会を喜べなかった。

 すると、ユカリちゃんは一人こちらへと近付くと、私を優しく抱き締めた。その抱き締め方は私を縛り付ける様な歪さでは無く、以前の様な優しいものだった。

「ごめん……ごめんね、サエ……」

「ユカリちゃん……?」

「私が……怖い思い、させて……不安、だったよね……」

「ううん、大丈夫だよ。もうユカリちゃんも大丈夫なんだよね?」

「ん……大丈夫」

 何があったのかは分からないものの、どうやらすっかり元通りになっているらしかった。

 アサヒさんはハラエさん達に話し掛ける。

「久し振り、でいいのかなぁ?」

「旭さん……」

「そんなに怖い顔しないでよ天津罪さん。あなたなら分かる筈だよぉ?」

「何がですか……」

「……私達が生きた国、大日本帝国はあの時戦争に負けた。まだ戦えたにも関わらず、たかが爆弾如きで負けを認めた。国の頭とも言おう者が、負けを認めた。あなたになら分かる筈だよねぇ? 戦場で戦ってたあなたならさぁ……」

 ハラエさんは首を横に振る。

「分かりません……あれは、英断だったと思います」

「何で?」

「あれ以上戦争を続けていれば、更に多くの犠牲者が出ていた筈です。最も守らなくてはならないものは、人の命です」

「ふぅん……じゃあ天願さん、あなたなら分かるでしょう? 一度は私に同調してくれたあなたならさぁ?」

「いいえ、申し訳御座いませんが旭さんの意見にはもう同調出来ません」

「……裏切ったんだ?」

「いいえ、納得をしただけです」

 アサヒさんの表情に怒りの様なものが見え始める。

「納得? 納得出来るの? あなたは腰抜けの上官のせいで命を落としかけた。あの時死んでてもおかしくなかった。それなのに?」

「確かに……あの時のあの方は、戦犯と呼ばれてもおかしくない事をしました。我々を囮に使ったにも関わらず、逃げ出し、全てを無駄にしました。今でも恨んでいないと言えば嘘になります。ですが、それとこれとは無関係です。戦争を再び起こす理由にはなりません」

「……じゃあ水瀬さん……あなたはどうよ?」

「こわいの、もうやだ」

 その言葉を聞き終えたアサヒさんは優しげだった表情から一変して怒りに満ちた表情へと変わった。

「非国民共が……」

「旭さん、もう諦めて。私が居る以上、あなたの目的は達成される事は無い」

「かもね……でも試す価値はある。もう時間は十分だし……」

 アサヒさんがそう言うと、部屋が若干明るくなった様に感じられた。

「……もしかして……」

「もう知ってるんでしょ三瀬川ちゃん? もう間もなくこの街は夜明けを迎えるの。新たな時代を迎えるのぉ!」

 ドードーさんが言ってた事は当たってた……アサヒさんは完全にこの世界に居る人達を外の世界に連れ出す気だ……何とかしてここで止めないと……大変な事になってしまう……。

 瞬間、サキモリさんが凄まじいスピードでアサヒさん目掛けて飛び出していった。そして目の前まで接近すると、その顔目掛けて拳を思い切り打ち込んだ。

「……!」

「消えてね跡部君」

 サキモリさんが打ち込んだ筈の拳はまるで見えない壁に阻まれたかの様に空中で止まっており、その直後、サキモリさんの体は突然何かに弾き飛ばされる様にして飛んでいき、襖を突き破った。襖の向こう側はまだ床がある様で、幸い転落してはいなかったものの、気を失っている様だった。

「サキモリさんっ!」

「三瀬川ちゃんは下がってよ……あいつ、多分私ら全員殺す気だよ」

 ウエキさんは私を庇う様に私を後ろに引っ張る。それと同時にハラエさん、ミズキさん、ヨシコさん、ナオコさんが一斉に前に出ると由紀さんを中心にする様に並ぶ。

「久し振りだね、こうやって揃うのも」

「ごめんなさい由紀ちゃん……私がもっとちゃんとしてれば……」

「ううん、祓のせいじゃないよ。それにまたこうやって会えたんだから」

「うん……」

「はらえ、おなか、いたい?」

「瑞希さん、恐らく祓さんは嬉しくて泣いているのでは?」

「暢気してないで気を付けて。あいつは危険な奴なんだから」

 徐々に明るくなっていく部屋の中で、アサヒさんはナオコさんに語りかける。

「ねぇ伏木さん。どーして裏切っちゃうのかなぁ? 私に賛同してくれてたよねぇ?」

「私は……確かにあんたと同じだったよ。負けを認めた国が許せなくて、必ず今度は日本を勝たせるって……。でも気付いたんだ。私が欲しかったのは勝利じゃなくて、皆で笑って過ごせる世界だって」

「最後に笑うのは勝者だけだよぉ?」

「違う……大切な人が居てくれるかどうかだけ。私は、大切な人が居てくれるなら、笑いながら死ぬ事だって出来る」

 ナオコさんは自分の体にタオルの様な布を巻き始める。

「なら証明してもらおうかなぁ?」

「……見せてやる」

 次の瞬間、突如ナオコさんの姿は消え、その場にタオルが落ちた。そしていつの間にかアサヒさんを取り囲むかの様に複数のナオコさんが現れていた。

 それを見たハラエさんとヨシコさんは一斉に駆け出し、分身したナオコさんと共にアサヒさんに肉弾戦を仕掛けた。その動きはお互いを邪魔しない様に動いており、一切の無駄が無い様に見えた。しかしアサヒさんはそれを容易に避け、分身しているナオコさんの内二人に手を当てると、衝撃波の様なものを出し、吹き飛ばした。引き飛ばされた分身は空中で水の様に溶け、畳の上に飛び散った。

 コトヒラさんが口を開く。

「旭……あいつに攻撃が当たらないのは縁だ……」

「え、縁ですか?」

「ああ……さっき私達とこの建物を結ぶ縁が脆弱になってるって話したけど、あいつは私達全員との縁を脆弱にしてる……だから触れられない……」

 それじゃあ、どれだけ皆で頑張っても無意味って事……? 縁がちゃんと繋がってないから当たらないならどうすればいいの……?

「金刀比羅ちゃん……縁結びとかは出来ないの?」

「前にも言ったけど管轄外……私は切る事しか出来ない。もしここであの縁が切れたら、あいつに逃げられる事になる。永遠に……」

 そうか……アサヒさんにとってはこの状況がベストなんだ。このまま時間稼ぎをして黎明を待ってもいいし、戦いのドサクサで縁が切れれば完全に逃げる事も出来る。あの人にとって不利な状況は何一つ無いんだ……。

 ハラエさん達は休む事無く攻撃を続けていたものの、少しずつ動きが乱れ、疲れが見え始めていた。

「そろそろ死んでもらおうかな?」

 そう言ってアサヒさんがハラエさんとヨシコさんの腕を掴んだ瞬間、由紀さんが駆け出した。普通なら攻撃を止めるのに間に合わない筈の距離であるにも関わらず、『奇跡』の力故にかアサヒさんが行動を起こす前に近寄っていた。

「っ!」

「私を忘れてない?」

 由紀さんがアサヒさんの腰元に組み付くと、その両腕からハラエさんとヨシコさんは解放された。更に由紀さんはそのままアサヒさんを押しながら襖を突き破り、外にある足場の欄干から落下していった。それを見たミズキさんは突如走り出し、後を追う様に飛び降りた。

「由紀さん! ミズキさん!」

「大丈夫だよサエ。由紀が意味も無く飛び降りる訳無い。それに瑞希が後を追ったって事は……」

 そうか……ミズキさんは水中で自在に動ける人だ。という事は、あの下には池か何かがあるって事……!

「い、急ごうユカリちゃん!」

「待ってサエ。そこの人……コトヒラさん、だっけ?」

「何?」」

「今ここでこの建物との縁を切ったら、どうなるの?」

「……二度とここには入れなくなる」

「この下にある筈の水場には?」

「そこは問題無いとは思う。この建物とはまた別物だからな」

「ん……そっか」

 ユカリちゃんは私と手を繋ぐ。

「それじゃあやって」

「何を言って……」

「由紀の事だから大丈夫だとは思うけど、完全に大丈夫だって確信は持てない。あの旭って奴は、何をしてくるか分からないし」

 ウエキさんがユカリちゃんとコトヒラさんの前に割って入る。

「ちょっと! 君さぁ、自分が何言ってるか分かってるの!?」

「分かってるよ」

「三瀬川ちゃんを危険に晒す気!?」

「これ以上あいつを放っておく方が危険だよ。それに、サエの能力ならあいつに完全にトドメを刺せるんだ」

「こんな小さい子を……人殺しにさせる気?」

 ウエキさんが心配してくれてるのは嬉しい……だけど、ユカリちゃんが言ってる事が、きっと一番正しい事なんだと思う。あの人が人の縁や、その他の事を脆弱にする力を持ってるとしたら、由紀さんでも危ないかもしれない。私の力なら……アサヒさんの能力を完全に止める事が出来るかもしれない。

「ウエキさん」

「三瀬川ちゃん、言う事聞く必要無いよ」

「私、行きます」

「え……?」

「きっと、これは私の役目なんです。私がやらなきゃ駄目なんです」

「そんな事無いってば! 何なら私が!」

「ウエキさん。私はこの街で色んな人と出会いました。怖い事もあったし、楽しい事もありました。変わった能力みたいなものも手に入れて、ちょっぴり不安になりました。誰も殺したりしたくないって。でも、きっとこれは運命だったんです。意味があるから手に入れたんです。お願いです……私に行かせて下さい」

「い、いやっ、でも……!」

 ウエキさんは私を止めるために何か言おうとして口を開いたが、その瞬間、コトヒラさんが鋏を取り出し何かを切るような動作をした。それと同時に私達の体は畳をすり抜けるかの様に沈み始める。

「金刀比羅ちゃん……!?」

「行ってきて。私にはこうする事しか出来ない……」

「ありがとうございます……!」

「悪いね」

 足が膝まで沈んだ所で、突然ガクンと体全体が沈み、私達二人は天井や床をすり抜けながらどんどん落下していった。今まで時間を掛けて上ってきた階が一瞬にして視界から通り過ぎていく。その最中、ユカリちゃんは自分の体が下になる様にして私を抱き締める。

「サエ。動いちゃ駄目だよ」

「うん……」

 その言葉を聞いて目を閉じてからしばらくすると骨や筋肉が砕け散る様な音と共に私の体に衝撃が伝わった。顔には液体が飛び散った様な感覚があり、私の心を不安にさせる。

 大丈夫……大丈夫……ユカリちゃんを信じよう……!

 そう心の中で唱えていると、私の頬に小さな手が触れる。恐る恐る目を開けてみると、そこには全く無傷のユカリちゃんが居た。

「ちゃんと動かなかったね」

「うん……きっとこうするって思ってたから」

「ん……これしか思い浮かばなかったんだけどね」

「痛くない?」

「ん、大丈夫だよ。飛び降りは初めてじゃないし、生き返ってからは死ぬ前の痛みとかは感じないしさ。今回だけは私を改造した神代の奴らに感謝かな」

 私はユカリちゃんの手を引きながら立ち上がる。

「行こう、ユカリちゃん」

「ん、決着つけに行こう」

 私達は湯屋の玄関から外に出ると、由紀さん達が居るであろう水場を探しに向かった。

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