短編
ボクのなまえはサンスケ。
トイ・プードルのサンスケ。
ニンゲンのおとうさんといっしょに、ふたりでくらしている。
サンスケっていうなまえも、おとうさんがつけてくれた。
ボクは、おとうさんのことがだいすき。
おとうさんは、ボクがいいこでいると、おおきなてでいっぱいなでてくれる。
おいしいごはんも、やまもりくれる。
おさんぽにも、つれていってくれる。だけどおとうさんはげんきがなくて、すぐにいえにかえっちゃう。
おとうさんは、いえにいるとき、セキをいっぱいする。
ボクがおきてから、よるねむるまで、ずっとフトンのなかにいるときがある。
それでも、ちゃんとボクにみずとごはんをたべさせてくれる。
あるひ、おとうさんは、ボクをつれてそとにでた。
おおきなおみせについた。ここは、おねえさんがボクをオフロにいれて、きれいにしてくれるところ。
きょうも、ボクはそこにあずけられた。おとうさんは、いつもとはちがって、とてもかなしいかおをしていた。さいごにボクをなでてくれたときも、いつもとちょっとちがっていた。
ボクはそのひ、オフロにいれてもらえなかった。
おとうさんも、むかえにこない。よるになっても、むかえにこない。
つぎのひも、そのつぎのひも、おとうさんはむかえにこない。
ボクはかなしくなって、おおきなこえで、おとうさんをよんでみた。でも、やってくるのはおねえさんだけで、そのおねえさんもかなしそうなかおでボクをみる。
おとうさんは、いつになったら、ボクをむかえにきてくれるのかな。おとうさんのにおいのするタオルにくるまって、ねむった。
おとうさんをまっていると、あるひおねえさんにかかえられて、そとにでた。
そとには、しらないおとこのひとが、さんにんたっていた。
おねえさんは、ボクをおとこのひとにわたして、おみせにもどっていった。おねえさんも、かなしそうなかおをしていた。
ボクは、せまいこやのなかにいれられて、おおきなクルマにのせられた。
なかは、まっくらだった。ボクは、せまくてくらいところが、だいキライなのに。はやくだして、と、なんどもこえをだした。
くらいクルマからだしてもらうと、おみせよりも、ずっとおおきないえがあった。いえのほうから、ボクとおんなじなきごえが、たくさんきこえてきた。
いえのなかは、ちいさなこやが、いっぱいならんでいる。しらないイヌが、ボクとおなじようにこやにいれられて、かなしいこえでないていた。
ボクも、ちいさなこやにいれられたまま、しらないイヌといっしょにならべられた。
どんなによんでも、おとうさんはむかえにこない。ふあんになって、いっぱいよんだ。まわりのみんなも、いっぱいよんでいる。
ねむくなったので、おひるねした。めがさめたら、おとうさんがボクをだっこしてくれていて、いっぱいなでてくれるんだ。そうおもってねむってみたけど、めをさましても、やっぱりおとうさんはいなかった。
なんどもねて、なんどもおきた。へやのなかが、さむくなったり、あつくなったりした。それでもおとうさんは、むかえにこなかった。
どのくらい、ねむったのかな。もう、おとうさんのかおを、おもいだせなくなっちゃった。だけど、おとうさんのこえは、ちゃんとおぼえてる。おとうさんのにおいも、ちゃんとおぼえてる。おとうさんのおおきなても、ぜったいわすれない。
なんだか、あるくのがたいへんになってきた。めもわるくなったし、いきもくるしくなってきた。
こわくなってきた。ボクが、ボクからいなくなってしまうきがして、とてもこわくなった。
でも、だいじょうぶ。ずっとまっていれば、いつかおとうさんに、いっぱいなでてもらえるから。
だから、ねよう。ねむって、またおきたら、こんどはぜったい、おとうさんがボクのまえにいるんだ。だいすきなおとうさんが、やさしいこえで、ボクをよんでくれるんだ。ボクにはちゃんとわかってる。こんどはぜったい、おとうさんがまっている。ボクはそっと、めをとじた。
めがさめると、もう、いつものこやにいなかった。なんだか、からだがかるい。そらにういているみたい。まわりはすごくきれいないろで、ボクのすきなおやつも、たくさんあった。
うしろから、よばれた。しっているこえ。なんどもきいて、なんどもおもいだした、あのやさしいこえ。ふりかえった。
おとうさんが、そこにいた。ボクははしって、おとうさんにとびついた。おとうさんも、ボクをぎゅっとだっこしてくれた。
おとうさんは、ないていた。ボクは、おとうさんのなみだをなめた。おとうさんは、なんどもボクのなまえをよびながら、ボクのあたまをなでてくれた。
おとうさんは、なんども「ごめんな」といっていた。そして、ボクのあたまをなでながら、「もう、どこにもいなくならないからな」といった。
おとうさんは、ボクをだっこして、いつまでもはなさなかった。