突風に立ち向かう侍
小説は創作であり登場人物の行いはフィクションである。
ろーんろーんと風が唸りをあげている。
石が燕のようにひるがえりながら飛んでくる。
一人の男が風の中に立っている。
その手には太刀が握られている。
半ば折れ赤さびた太刀だ。
かぜに羽織が吹きちぎられ、髻は怒髪天を衝く。
渦巻くかぜが赤いものを飛ばしてくる。
男はそれをはっしと掴み顔に付けた。
それは血の色をした赤い天狗の面だ。
走り出した。
男は風に引きちぎられるのもかまわず走り出した。
みるまに走る速度は風に比肩するほどにたっし、きがつくと男は馬を駆っている。
風に吹き散らされるもかまわず男は叫ぶ。
さけぶ声が徐々に力を増していきついに風をつきやぶった。
「夜明けは近いーーーーー」
確かにそう響いた。
その日遠い日に潰えたはずの天狗の残り火に火が付いた。
一人の侍の絶望と怒りが突風にむかう。
創作とは悪意の発露。