電車ものがたり
交通手段には様々なものがあります。本作品は"電車"をテーマに、自然多き片田舎の電車事情を自身の体験も含めつつ書いてみました。
山、畑、河川……諸々自然の多き(多すぎると言っても過言ではない)この地において、徒歩以外の主たる交通手段は何か──「自動車」である。次いで「自動2輪」「自転車」「公共交通機関」の順でこの地では移動手段の優先順位は変わる。
安全安心の公共機関である電車が、世界で1番時刻表通りに到着する素晴らしい移動手段であるはずの電車が、なぜ自然多き(多すぎる)この地において優先順位が下がるのか。
答えは簡単である。「本数が少ない」のである。私がこの原稿を執筆している某県では、本線は1時間に1本。乗り遅れたら更に1時間待ちを覚悟しなければならない。ローカル線に至ってはもっと悲惨である。本数が少ないのに加え、車両数も本線の場合多くて3~4両。ローカル線は当然、もっと少ない。
補足的に書くと、駅から駅までの距離が長いため、最寄駅から家や職場へ移動する際、徒歩では時間と体力がかかりすぎる。そのため2次的移動手段(自転車、バイク、自動車、バス等)を確保しなければならない。
要するに、安全安心の電車を使ったとして、結果的に自動車を使った方が早いし楽、という結論に至ってしまう。
私が高校生の頃の通学事情はというと、家から最寄駅まで自転車で移動し、そこから電車に乗り(乗り遅れたら完全に遅刻である)、学校からの最寄駅まで電車に揺られ、到着した駅から学校までは月極め駐輪場に停めた自転車で移動する。電車、自転車2台、徒歩、3つの方法を使って、やっと通学が可能になっていた。帰る時はこの逆である。通学時間は述べ1時間半〜2時間。
このような背景もあるのだろうか、某県民は、忍耐強いと思う。例えば車窓から見える景色。見渡す限りの田んぼ、田んぼ、畑、家屋、畑、遠くに山、家屋、川、家屋、田んぼ……車窓からの眺めが良くて素敵!という感想は持ちたくても持てない。冬場は雪、雪、雪。雪景色が素敵!なんて思ったこともないし、降車した後が大変だ、傘持ってきてないし……と不安を募らせるくらいである。そんな現状だけれど、文句を言っている乗客に会ったことがないから、やっぱり忍耐強いと思う。
某指定都市に住んでいる知り合いとやり取りをしていて、こんな会話があった。「次の電車まで30分も待たなきゃいけない」と知り合い。「たったの30分じゃないか」と私。それはそうだ、その指定都市ではわざわざ時刻表を確認せずとも、ホームで待っていれば数分で次の電車が入ってくる。私が指定都市に赴いた際、そこでのローカル線も含めた電車のレスポンスの速さに感動し、車両数の多さにも感動し、ここでは自動車などいらぬ、そう思ったものである。そんな場所で長らく生活している知り合いからすれば、電車の待ち時間30分というのは、某テーマパークのアトラクションを"1人で"3時間待ちと同レベルの苦痛なのかもしれない。
さて、このように1時間に1本という限られた本数と車両数で、ローカル線ともなれば更に少ない本数と車両数のこの地で電車に乗る際、何に気を付けなければならないか。答えは明白である。"乗り遅れてはいけない"ことである。それがぶらり旅なら乗り遅れも一興だろうが、通勤、通学ともなればその時間の1本を逃してしまえば遅刻あるのみ。世の中、遅刻には厳しいのである。遅刻を防ぐためには、全力で早め行動を励行するしかない。車両数が少ないところに通勤、通学の時間帯は乗客が殺到するから、席取り合戦になってしまうことは明らかで、発車ぎりぎりに乗ったが最後、終点まで立ちっぱなしなんてこともありえる。揺れる車内で90分立ちっぱなしは、正直きつい。
そして、この素晴らしき自然豊かなこの土地には「ワンマンカー」という乗車形態がある。読んで字のごとく、運転士と車掌を1人の職員がこなしている。そのワンマンカーに乗車、降車するためには、指定された乗車口から乗らなければならず、降車する際は運転士側の扉しか開かないため、扉近くでスタンバイする必要がある。このシステムを理解していないと、降車ボタンを押しても扉が開かないという悲惨すぎる事態が発生してしまう。これまた高校生の頃の話。部活が押しに押して終電近い時間のワンマンカーに乗った際、悲劇は訪れた。ワンマンカーのシステムを把握していなかったので、当然ながら降車ボタンを押すも扉が開かない。あわてふためく私を嘲りの目で見る他の乗客たち。今思い出しただけでもぞっとする出来事である。1つ先の駅で逃げるように降車に成功するものの、最寄駅からは5km以上過ぎており、おりしも真冬。自然豊かな(豊かすぎる)この土地は豪雪地帯である。指定靴で真冬の家路に就くには条件が厳しすぎた。膝まで届こうかという積雪、凍った路面。こんな状況で徒歩帰宅の強行軍なんてしてしまっては、生命に関わってしまうかもしれない。小さなプライドより、命の方が大切だ。実家に電話をかけ、事情を話す。迎えに来てくれた父親にはひたすら平謝り……。これ以来、社会経験も踏んで、それなりに電車慣れはしているつもりの私だが、ワンマンは苦手である。苦手というか、不安である。
皆さんが住まわれている地域では、終電の時刻は何時だろうか?
私が居を構える某県では、終電の時刻は22時である。この終電の時間というのもこの地におけるユニークな特色があるので紹介したい。本線最南端の駅がA駅。最北端の駅がC駅で、その区間は本線が動き、それ以外の地域はローカル線が走るわけだが、当然ながら本線が最も遅くまで稼働している。その終了時刻が22時。最南端のA駅を終電で出発するとしよう。そうすると、A駅発の終電はなぜかA駅と終点C駅の中間地点であるB駅が終点となっていて、A駅発の終電ではC駅への移動が不可能なのである。A駅発の終電でC駅が目的地の場合、1本早い時刻の車両に乗らないと家路に就くことが出来ない。ダイヤを把握せずにA駅発の終電に乗車しても、B駅でその日の営業は終了してしまうから、2次的移動手段を確保していないとB駅からC駅までの約50Km、徒歩かタクシーか、自転車か、レンタカーか、送迎してくれる誰かがいてくれないと翌朝の始発まで足止めになってしまう。非常にリスキーな遊びが出来てしまうのが、自然豊かな(豊かすぎる)この地の電車事情のユニークな特色である。
私は一応自動車を所持はしているが、いかんせん運転が得意な方ではないので、特に厳寒期は安全安心の電車を利用したいと考えている。家から最寄駅までの足の確保、職場までの2次的移動手段の確保、悩むことには事欠かない自然豊かな(豊かすぎる)この地は、交通手段の1つとしての電車を取って考えただけでも思慮深くなれるのである。
おわり。
それでも私は安全安心の電車を愛しています。




