序章
〈アーツ〉。
それはヒトの魂が結晶化し体外で具現化したもの。
それは持ち主の性格、思考などを言葉や表情よりも雄弁に語り相手をどんなモノより傷つけることができる。
それは各個人で全く別のモノであり同じものはこの世に存在しない。
それは武器を形どったり日常に普通に使う道具であったりする。
そしてこの物語は子供達が〈アーツ〉の正しい使い方を学ぶ学校を舞台にした物語である。
「まったく…。何てところに入学したんだよ…。」
と正面入り口で入学2年目にして今更ボヤく学生が居た。篠目ユウイチ。普通の少年である。
体育館裏では爆発音が朝っぱらから爆発音が響き渡り五月蝿いことこの上ない。
ここは都内某所にある高校だ。〈アーツ〉を持つ者は日本中にある県に1、2校ずつ程に必ず通わなければならないと政策により決まっている。しかし県に少ない代わりに学力が著しく低くても〈アーツ〉さえあれば入れるということで世間では余程のバカでも入れるという悪評ぶりである。
〈アーツ〉持ちは確かにこの世界に存在しているが全人口と比べてみれば実際は全人口の3割程しかいないのが現実である。
かくいうユウイチもその3割の内の1人だ。本人にとっては鬱陶しいだけだろうが。
ユウイチはため息をつきながら目的のクラスまで正面入り口から歩く。
この学校に入ってからトラブル続きなのもあるだろうが足どりは驚く程悪い。
正面入り口からクラスまで普通なら5分程の道程を10分程かけて歩いた。
今は約8時15分である。遅刻になるまでの時間は他の学校と大差なく8時半30分までである。
ユウイチはクラスのドアの前に立ち意を決してドアを開けた。そのユウイチの額に凄まじい衝撃が走った。額を擦りながらユウイチは「またか…。」と呆れた。
目の前では屈託なく笑う1人の少女が居た。
斉木ルミ。残念ながら幼馴染であり天敵である。ルミの〈アーツ〉はバトンである。
〈アーツ〉1つ1つには能力が備わっている。それらは持ち主の性格や深層心理を反映している場合が多い。
ルミの…彼女の〈アーツ〉の能力は対象となる2点に接触しそれを強制的にくっつけるという能力だ。ただし今ユウイチの額に衝撃を与えたのは能力を使ったわけではなくただ単に殴っただけである。