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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の嘆く愛の願い

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白銀の少年の嘆く疑いの約束を

「ど、どうしたその傷……」

 軍には寄らず、戦場に直接来たエディスは、大きなシップを顔に貼った部下二人に目を見開いた。ぶすっとした顔の二人は、なんでもないです、とふてくされたような声で言う。

「喧嘩か?」

「そんなんじゃないですよ」

 エディスはぐるりと見渡してからため息を吐き、髪を乱した。

「で、他の奴らは来ないのか?」

「はい」

「けど、俺らはアンタについてくから」

 憎まれ口ばかり叩いていた部下の言葉に、エディスは目を丸くする。

「さっ、行きましょう!」

 いつもにこにこと笑っている部下に手を握られ、引っ張られた。それにエディスは止まろうと強く地を踏んだ。

「お、おいっ」

「なんです?」

 腕をぐっと引っ張り返すと、部下は不思議そうな顔でエディスを振り返る。

「そういうわけにはいかねえんだよ!」

「えっ、なんで!?」

「なんでって、任務は任務だ。俺が気にくわねえからって投げ出させるわけにゃあいかねえんだよ!」

 拳を握って言うと、二人ははあ、と気の抜けた声を出した。

「アンタ、喋ると意外と口悪いよな」

「うるせえ、坊ちゃんじゃねーんだから一々綺麗に喋ってられっか!」

「うーん、本当に口悪い」

 あははと笑った部下にエディスは眉間に皺を作る。すると、笑っている部下が手を伸ばして、皺を伸ばそうとする。

「ま、こういうトコも可愛いんだけど」

「お前な」

 皺をむいむいと楽しそうに伸ばす部下に、エディスはうーんと目を閉じる。この部下は、なんというか、やけに自分に懐いているのだ。大型犬が懐いてくるようで微笑ましくはあるのだが、自分のことを猫かなにかのように甘やかせようとしてくるところがある。それだけが困ったところだ、とまた手を引っ張ってくるのに、ため息を零した。

「勘弁してくれよー。これ絶対俺の責任ってことで始末書書かされんじゃねーか」

「まあまあ」

「あ、俺、書類仕事嫌いだから。ゼッテー手伝わねえぞ」

「おい」

 部下二人に声をかけられながら歩いていくエディスは、頭がいっぱいになってパンと破裂しそうだ、と一人ごちた。




 帰った三人を待ち受けていたのは、来なかった部下たちだった。

「お前達、どうした?」

 訝しげな顔をするエディスの前に、剣が突き出される。エディスは目を見開いて剣を持つ部下の顔を見た。

「この……魔物め。よくも今まで俺たちを騙していたな!!」

 そして、薄く微笑む。

「魔物?」

 手を後ろにやり、すっとんきょうな声を出す部下に向けて、ぱたぱたと振る。向こうに行け、という意味で振ったが、分かるかどうか。

「おい、少佐?」

「どこに行けばいいんだ」

 剣を冷めた目で見たエディスは、笑ったままそう言った。剣の主はその態度に眉を寄せ、舌打ちをする。

「魔物が!」

 剣を首に向かって振るのを見たエディスは、剣を腰から引き抜き、鞘の位置で受け止めた。

「罰するのはお前じゃないだろ? 早く案内しろ」

 無感情に言うと、男はぐっと歯を噛み締め、手をわななかせる。

「お、お前なんかっ」

「早くしろ!」

 怒鳴ると、周りから嘲笑う声が聞こえてきた。魔物のくせに、同族殺し、殺しが好きなのは魔物だからか、という囁きが至る所から聞こえてくる。

 エディスに睨み付けられた男は、もう一度舌打ちをすると、ついてこい! と声高に叫んだ。エディスはその背中についていく。

「しょ、少佐!?」

 自分についてきてしまった二人の部下が慌てて叫び、追ってこようとする気配がした。エディスは振り返らない。

「来るな、他に行け」

 振り返らず、それだけ言った。すると、どこからかピューッという口笛と笑いが巻き起こる。エディスは無表情のまま、真っ直ぐ前を歩いていく。

 その体に鞘がついたままの剣や木の棒、石が投げつけられた。エディスは一切口を開かず、戦闘科棟へと入っていった。

「エディス少佐……」

 二人の部下は門の前で消えてしまった自分たちの上司の名前を呟いた。


 カッと小気味良い音を立てて立ち止まる。ゴンゴンと強く扉を叩いた後で後ろに手を回し、大きく口を開いた。

「トリバーグ大将、ゼルレディア中将、目標の魔物を連れてまいりました!」

「よかろう、入らせろ!」

「はい!」

 頬を紅潮させた軍人はエディスにおい! と言って背を押す。エディスはため息を吐いた後、

「エディス少佐です。失礼します」

 と言って扉を開けて入っていった。

 中はつい数ヵ月にシトラスの件で呼び出された時と同じ内装、同じ顔がある。ただ、雰囲気は全く違っていた。

 長テーブルの前に腰かけている年老いた二人の男は、指を組んでエディスを見ている。ねっとりした視線に、気持ちが悪くなってしまいそうだった。

「とある人から訊いたのだが、君、本当に魔物なのかね?」

「はい、そうです」

 敬う態度は普段と変えず、自然に、そのままいつもの一人の軍人としてエディスは接していた。この二人は上官で、自分はその下の人間だ。

「私は、確かに数年前に癒しのヴァンパイアと会い、死を免れました。半ヴァンパイアであることは間違えありません。ですが、半分は人間でもあり、一人の軍人であることも」

「ああ、いいよ。そういうのは」

 だが、ここにいる人間の誰もがもう自分をそうだとは思わなくなってしまったようだ。言葉は通じない。言い訳は吠え声に聞こえているのだろう。

「君に最後にしてほしいことがあるんだ」

「勿論、階級は上げてあげるよ」

 階級など意味がなくなったというのに、とエディスは口を小さく開いたが結局閉じ、ここに来るまでにしたのと同じような笑みを口に浮かべる。

「はい、なんでしょうか?」

「実験、させてもらうよ」

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