白銀の少年の嘆く塩の約束を
ドゥルースとの朝食をとった後は掃除。その後に洗濯。僕はドゥルースのお世話を全て任されていた。どうしてかは知らないけれど、このお家の人は皆、ドゥルースを避けている。そんな気がしていた。
だから、僕はお仕事をした。お仕事がしたかった。それがドゥルースのためになるのなら、苦しくなんてなかった。
「ねえ、ドゥー。僕は君のために何が出来るのかな?」
僕は、君に何が残せるのだろう。愛情? 記憶? 霊魂? 死骸? 心のおけない家族? 居心地の悪い家?
僕が、君にあげられる物なんて、ゴミくらいの価値しかない。
「僕が僕じゃなかったなら」
奴隷でなければ、エディスでなければ。、エドワードだったら。対等でいられる立場にいれば、僕は何かができた? 僕は何かをあげられた?
「ううん。出来ないね」
僕は、エディスだから。エドワード・ティーンスではなく、エディスだから。だって、僕は親にさえ捨てられる子だから。
世界に僕はいらない。君のためだけに僕は生きている。
「僕の命は君」
君が死ねば僕の心臓は止まってくれるのかな。ううん。僕は浅ましくて汚いから、止まらないかも。
そうしたら、僕はどうすればいいのだろう。
「僕の前から消えないで……」
「わ……っ!」
世界が横に、縦に揺れる。
「な、なに?」
強く揺さぶられ、地面に倒れる。そのままでエディスは瞳を瞬かせた。周りが暗いせいで、何も見えない。
「ド、ドゥー!」
もしかしたら、なにか。なにか。彼に起こっているかもしれない。そう思う心がエディスの体を走らせた。
真っ暗な奴隷道を。
「エディー! エディー!!」
「ッ。ドゥー!」
光が、呼んでる。
「会いたかった!」
光を抱きしめる。光に抱きしめられる。
「大丈夫だった!?」
「僕は大丈夫。ドゥーは大丈夫?」
「俺は強いから」
多分、笑ったのだろう。雰囲気が優しく和らいだ。
「エディー、一つだけ約束を、して?」
「うん。なあに?」
奥に、奥にへと促されていく。家の外へ出る方へと、肩を抱いて連れて行かれる。
「エディー、生きて」
「え?」
ぎゅうっと、肩をつかまれる。
「何があっても、生きて」
光が差し込む。屋敷からの出口。奴隷からの脱出。
「お願いだから、誰を犠牲にしても、這いずってでもいいから、生きて」
額に口付けを落とされる。
「……ドゥーも? ドゥルースも、生きてくれる?」
ああ、愛しい君よ。
「うん。勿論」
この命は君のものだというのに。
「じゃあ、生きる。ドゥルースが生きるなら、僕も生きる」
どうして。どうして、こんなに残酷な事を言ってくれるの?
「ドゥー、愛してる」
彼を抱きしめる。小さな腕で、精一杯抱きしめる。
お願い。もうちょっとだけでいいから傍にいて。大好きなの。本当に…大好き、なの。
「……ぎゅ、って」
ぽつりと呟くと、力いっぱい抱きしめてくれる。
「エディー。もし、いつかもう一度出会えたとしたら。俺とずっと一緒にいてくれない?」
「うん、いいよ。僕をさらっていって」
にこっと微笑むと口付けをされる。長いようで短いそれが済んだ後。
「約束。後ろを振り向かないで。いいね?」
「うんっ!」
機械に僕を預けて、夕焼けは行ってしまった。
「……ごめんなさい」
愛していなければ、約束を守れたのに
「僕は、君のために生きるって決めたんだ」