白銀の少年の嘆く親子の願いを
つるりと磨き上げられたグラスを棚に仕舞ったエディスはにっこりと笑う。フィンティア家を離れてから、こんなに高そうなグラスのお世話をさせてもらえることなんて一度もなかった。紅茶やケーキを楽しむためのカップや皿以外も拭きまわったエディスは、懐かしさに頬を緩めてしまう。
「あ、でも――」
勝手に触りまくってまずかったかな、と唇に指の腹を当てて考え込んでいると、ミシアとシトラスが上がってきた。ほかほかと湯気を立てていて、血色が良い。十分温まったということが一目で分かる。
「あったまったか?」
だが、一応言うべきだろう言葉を口に出して近寄る。ミシアはああ、とにっこり笑う。そして、広いキッチンを見渡す。
「あ、ご、ごめん! その、つい」
慌てて謝るエディスに、ミシアは小さく頭を振った。
「ありがとう。いいからお前も入ってこいよ」
「分かった」
頷き、持って来たバッグの中から着替えとタオルを取り出し、風呂場まで向かった。
急いで入ったエディスは、風呂場を洗ってから浴室を出た。タオルで体を拭い、ある程度まで髪を乾かしてから、脱衣カゴを持ち上げる。 「ミシアー、洗濯場ってどこだー?」
キッチンで水を飲んでいたミシアに声をかけると、ミシアは苦笑した。
「洗濯なんて放っといてもいいんだぞ」
「そういうわけにもいかないだろ。明日早めに出るんじゃないのか?」
休みとはいえなにが起こるか分からないんだし、時間のある内にしておきたいというエディスに、ミシアはガラスコップを真紅に置き、歩き出す。
風呂場の二つ隣の戸を開けると、洗濯機が置いてある、他と比べると少し狭めのスペースがあった。ミシアはその中に入り、奥の木戸を親指で差す。
「ここ開けると外に出れる」
「分かった。干すのは明日の朝やっとく」
そう言うと、洗濯機のフタを開け、中に水を入れていく。洗い物の色を判別しながら、先に洗う薄い色のものを入れる。その様子を見守っているミシアに顔を向け、
「なあ、ネットってあるか?」
と訊ねた。
「ネット? あー、確か置いてたな」
洗濯機の隣に設置されている棚の中を開け、そこから青色のネットを取り出してエディスに渡す。
「ありがと」
エディスは受け取り、そこに靴下やハンカチを集めて入れていく。しゃがんで作業をしているエディスのつむじを見下ろしているミシアは眉を寄せ、くしゃんと笑んだ。
「なあ、エディス」
そして、自分もしゃがみ、エディスの肩を丸く抱く。
「お前、養子にならないか?」
「え……」
振り向き見たミシアの顔は、自分を温かく包みこむような優しさに満ちていた。父親の顔とは、こういうものなのだろうか。
「あ……俺。その、」
けれど、これが父親としての顔なのかどうかは想像でしかない。エディスにとっての父親の顔は、まだ真っ白なお面のままだ。
言いよどむエディスをミシアは抱きしめる。強く抱き締められたエディスはそっと手を背中に当てようとしたが、結局止めてそのまま下にだらりと垂らす。
ミシアはエディスの躊躇いを感じ取ったのか、ふっと息をもらすと、
「冗談だ」
と零した。
「冗談だ! ほら、続きやってしまうぞ!」
ばんと強く肩を叩くと、ミシアは立ち上がる。エディスも立ち上がり、ネットを洗濯機の中に放り込んだ。
「……ごめん」
ありがとう、とは言えないエディスに、ミシアは眉を寄せる。
「いいんだよ」




