白銀の少年の嘆く褒め言葉の願いを
「……ごめん、シルベリア」
「俺に謝ってどうする」
自分の横に椅子を置いて座ったシュウが床を見ながら言った言葉にシルベリアはため息をつく。
「俺はこういう、どうしようもなく手のかかるところが好きだ。けど、他の奴はそうじゃないんだぞ」
「だから、悪かったって」
「思ってないだろ」
シルベリアに指摘されたシュウはふてくされたように横を向いた。
「あの時のエディスってさ」
「コイツだろうなあ」
なにを分かり切ったこと言ってんだ、と呆れた調子で言うと、シュウはだよなあ、と呟く。
「謝ってもらったのか?」
「誰に」
「だから、ソイツに」
シルベリアはシュウを見、それからもう一度先程よりも深いため息をついた。
「なんで謝らなきゃならないんだ」
「だって、ソイツのせいだろ」
「回りまわったらそうなるかもしれないな。だが、俺はコイツはほぼ関係ないと思うぞ」
「関係ないってことはないだろ」
納得がいかない様子のシュウにシルベリアは苦笑する。
「コイツは、俺以上に巻き込まれてるんだろう。よく考えてみろよ。エディスって女の子の名前だろ」
初めて会った日にコイツはなんていった? と問いかけると、シュウはああ、と呟いた。
「父親が愛した女の身代わりか」
「それも、身代わりの女の身代わりだろ?」
辛いな、と声に出したシュウに、シルベリアは頷く。
「だから恨むな、受け入れろとは俺は言わない。……言えない。けれど、コイツは悪くないはずなんだ。許すとか、そんなことをこっちが言うこと自体がおかしいんだ」
白い包帯が巻かれたエディスの腕を見る。
「分かってる、お前はなにも悪くない。そう言える大人にならなくちゃいけないんだけどな」
そんな風にお前が無理をする必要なんかないだろ、とシュウは伝えたかった。だが、言ってしまってはいけないのではないかというシルベリアの雰囲気がシュウを止まらせた。
「まあ、もう謝るか謝らないかはお前の好きにしたらいいさ」
そう言って椅子から立ち上がったシルベリアにシュウは顔を上げる。
「どっか行くのか?」
「馬鹿。ミシア准将に謝りに行くんだよ」
「……ごめん」
だが、からかうような口調で怒られ、また下を向いた。シルベリアはそんな様子のシュウを見下ろし、眉を下げて微笑む。
「俺のためにお前が怒ってくれたのは嬉しかったよ」
頭に手を置いて撫でてからシルベリアは病室から出ていく。シュウはシルベリアが出ていった戸とエディスを見比べたが、そのまま無言で病室を出ていった。
起きたエディスを待っていたのは、シルクとシトラスだった。エディスはまず左手の調子を確かめ、仕事に不都合があるかどうかを確かめる。
「大丈夫か?」
「切れただけだから、三日も通えば治るだろ」
不安そうな顔をしている二人にエディスは頷いて見せた。すると、二人ははっと息を吐き、微笑み合う。自分が寝ている間に仲良くなった様子の二人に、エディスも思わず微笑む。だが、すぐに左手をベッドについて起き上がった。
「あっ! こら、ダメだぞ!」
すぐにシルクが寝かせようとするが、エディスは首を横に振り、シーツの中から足を出し、床につく。
「仕事残ってる」
「終わらせたから!」
「いいから休んでください!」
二人にベッドに押し付けられそうになったエディスは慌てて手を振った。
「それなら部屋で休むよ」
「あ……はい」
ベッドから立ち上がり、戸に向かっていく。シトラスが執務室から取ってきたエディスの荷物を持ち、シルクはエディスの隣を歩く。
「痕、残らないといいな」
「え?」
「顔」
気遣わしげな顔をするシルクがエディスに手を伸ばし、頬に触れた。貼りつけられたガーゼ越しに指の感触がする。
「……別に、残ったっていい」
「へ」
ぽかんと口を開けたシルクが足を止めてエディスを見る。エディスはしまったと思ったがもう遅く、続きとなる言葉を言うしかなかった。
「嫌いなんだ、この顔」
眉間に皺を作った苦笑で言うエディスをシルクは不思議そうに見る。
「なんで?」
咎めるでもなく、嫌そうでもなく、怒ったわけでもなく、ただ疑問に思ったから口にしただけ。シルクはそんな訊き方をしてきた。
「格好良いのに」
今度はエディスがぽかんと目を丸める番になった。
「……格好良い? こんな顔が?」
「うん」
「女っぽいとかじゃなくて?」
「うん!」
腰に手を当てて自信満々に大口を開けて笑うシルクに、エディスは驚かされた。格好良いなんて今まで言われたこともない。こんな、エディスさんと全く同じな女の顔をくっつけているというのに。
「目尻が上がってるだろ。その目、すんごい好きなんだ。最初見てくれた時、うわっ! て思った!!」
「……っそ」
手をぎゅっと握ってから大きく腕を開いてみせたシルクに、エディスは手で口を押えた。
「そーかよ」
「うんっ!」
かーっと耳まで熱くなってくる。褒められるのは慣れてない。ましてや、こんなに純粋に真正面から言われることには。
「顔も含めて、私はエディスの全部が好きだぞ!」
「……そうか」
あまりの恥ずかしさにエディスはシルクとは逆の方向に顔を向けた。すると今度はシトラスと目が合ってしまう。
「あなた、人間みたいな顔できるんですね」
ビックリしました、と感心したように言われたエディスは、なんだそれと心の中で呟いた。
「昨日は怒った時くらいしか表情筋が動きませんでしたから。そっちの方がいいんじゃないですかね」
「お前もそっちの方が自然でいいと思うぞ」
気になっていたことを言い返すと、シトラスはぼわっと顔を真っ赤にさせる。
「こっ、これはだな! 我が一族の……!」
そして、拳を強く握ってまくしたてようとする。
「いーじゃん、そんなの」
「そうそう。身分とかどーでもいいじゃん」
エディスの言葉にのっかるようにしてシルクが続けた。シトラスは悩むように呻いた後、
「……そうですね」
ふっと普通に、緊張することなく微笑んだ。




