白銀の少年の嘆く兄弟の願いを
なんにでも、上には上がいるものだ。そうエディスはしみじみと思った。
「知っているとは思いますが、一応名乗ってあげましょう。シトラス・ブラッドです。少しの間だけですから、宜しくしてやってもい」
「あたしはシルク・ティーンス! よろしくな!!」
格好をつけているのか、照れているのか、どっちなのか分からない微妙な顔をしてシルクに手を突き出したシトラスは固まった。ピシッという音がして、石になってしまったのではないかと思う程に。
「ほ、ほほぉーう? それは、また。大それた苗字ですね」
「そうか? 短くて言いやすいぞ!」
「言いやすいとか、言いにくいという問題ではないのだがね」
「まっ、とにかくよろしくなあっ!!」
シルクの勢いに押されているシトラスは助けを求めるようにエディスを見た。だが、エディスは首を傾げ、
「本物だぞ」
とトンチンカンなことを返すだけだった。
「君は世を知らなさすぎるようだな。こんなにガサツな話し方をする女が我が国の姫様なはずがあるものか」
「だから、ソイツは本物だって」
「あのねえ、君。ふざけるのも」
「あーっ、うっせえなあ!」
エディスは読んでいた資料をミシアの机の上に置くと、椅子から立ち上がった。
「ミシア、ちょっと出てくる」
「んー」
すでに書類をさばきにかかっていたミシアは軽く片手を上げるだけで、部下の退出を許す。
「シトラス、シルクも一緒に来い」
二人に呼びかけると、シルクは明るく手を上げて応えたが、シトラスは眉を寄せた。
「どこに連れて行くつもりなんだね」
「お前の兄ちゃんとこ」
「兄様!?」
足早に廊下を通り過ぎていくエディスの腕を、走って追いかけたシトラスが掴む。
「待ってください。僕を、誰の所に連れて行くんですか!?」
「だから、お前の兄……」
振り返ったエディスは言葉を紡ぐことができなくなった。シトラスが、あまりにも必死な形相で自分の腕を掴んでいたから。 「兄は生きているんですか」
「生きて、って……え?」
一体、この同室者はなにを言っているのか、とエディスは目を丸くさせた。
「兄は四年前に姿を消しました。それで、僕は軍にいると聞いて……」
「ああ、いる。生きてる」
腕を掴んでいる手を握り返し、しっかり目を合わせる。
「大丈夫だ」
「そうですか。……本当に、囚われているとは……」
物騒で疑いを持ちそうになる言葉に、エディスはどういうことだ、と片眉を下げる。
「そうか、そうだったんですね! ならば、早く行こうではないか、我が兄様の元へと!」
「これは……」
いきなり走り出したシトラスについていきながら、エディスはやってしまったと己の行動を悔いた。
「兄様はどこにいるのだ!?」
「……軍兵器開発部」
「それはどこだ?」
活き活きとした目に弱いエディスは、シトラスの手を引っ張り返す。
「こっちだ」
「そうか!」
まるで子どもだな、とエディスはふっと笑った。
「楽しみか?」
自分も長らくハイデに会っていない。だから、シトラスの兄に会いたいという気持ちがよく分かる。
「はい!」
シトラスの満面の笑みから、家族を心から愛しているという気持ちが伝わってくる。自分はこんな風に笑えるだろうか。今度の休みはハイデに会いに行こうかなどとエディスは考えた。




