白銀の少年の嘆く時計の願いを
「執事にも締め出されたことなんかないのに」
「そりゃ、ソイツはお前の親父に雇われてるからな」
エディスが冷たく返すと、シトラスは静かに顔を枕に押し付けた。
「そんなことでへこんでたらこの先やっていけねえぞ」
兄とはずいぶん違うな、と思いながらエディスは昨日貰った資料をめくった。そんな様子のエディスをシトラスは横目で見て、ため息をつく。
「あなたが異常すぎるだけでは?」
「……まあ、そうかもしれないけどな」
ペンを机に置き、椅子の背もたれに腕を置いたエディスは、シトラスの方を向いた。
「家や名前にばっかこだわってたら、お前自身に価値がなくなっちまうぞ」
「あなたは、」
シトラスは顔を上げ、エディスの目を覗き込むようにして見た。海でもなく、空でもない、深い色をした目の色だと感じた。しいて言い表すのならば、電気を消して見た、夜空のような深い青。月の光に薄く溶かされた、淡く柔らかな青に近い色だ。
「あなたは、僕自身を見てくれるんですか?」
エディスはぱちくりと瞬きをした。数秒見つめ合った後、シトラスの顔がかーっと赤くなっていく。そして、日に焼けてもいない、傷もない美しい手で顔を覆う。
「す、すまない。変なことを言った。忘れ」
「見るよ」
だが、エディスの言葉に手をそろそろと離した。
「見てるよ、シトラス」
シトラスを安心させるように微笑むエディスに、シトラスは思わず頷いてしまう。
「お前はお前らしく生きれば、それでいい」
「……はい」
「よく見なくても目覚まし時計の数が多い!!」
翌朝、けたたましく鳴るアラームの音に起こされたシトラスは、開口一番そう吠えた。ベッドから飛び出し、まだ深く布団の中に潜っているエディスの頭があるだろう箇所を強く叩く。
だが、なんの反応も返ってこない。盛り上がっているところをぼすぼすと連打すると、ようやく頭だけが出てきた。
「おはようございます」
しかし、目は閉じられていた。シトラスは頬を張ってやろうかと思い手を上げたが、
「なんだか、叩くに叩けない顔ですね……」
ため息をついて手を下してしまう。
「最初見た時も思いましたが、容姿だけは天使みたいですね」
そう言ったシトラスは、首を傾げた。
「どこかで見たような気もするんですよねえ、この人」
思い出せませんけど、とシトラスは近くにあった目覚まし時計を手につかんで、エディスの腹辺りに向かって投げた。
「目覚ましをコレクションするのはやめていただこうか!」
「そっちこそ、人の時計を武器にすんのはやめろよな!」
走りながら叫ぶ少年たちに、廊下を歩いていた人たちは皆足を止めて見た。
「起きないあなたが悪い!」
「アラームを止めたお前が悪い!」
「止めるに決まってますよ! 近所迷惑でしょうが!」
騒がしさに顔を出したミシアは首の後ろから髪の先をガシガシと掻く。
「エッディース!」
その後ろから飛び出してきたシルクが両手を大きく振ってエディスに呼びかけた。その声の大きさにエディスたちは口喧嘩を止め、ミシアは両耳を手でふさぐ。
「凄いな、お前のところ保育所みたいだな」
ミシアの背中の方向からやってきていたビスナルクが驚きから言葉を口に出した。
「保育所どころか動物園みたいだ」
呆れ果てたミシアは振り向き、ビスナルクにそう言った。聞いたビスナルクは大口を開けて明るく笑い放った。




