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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の嘆く愛の願い

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白銀の少年の嘆く詐欺の願い

 細い手が茎をそっと穏やかに摘まみ、持ち上げる。鼻先まで寄せ、香を嗅ぐ。店員はその様子を、作業の手を止めて見入っていた。

「……あ」

 自分が見られていることに気づいたのか、エディスは顔を上げた。一人の女性店員と目が合うと、照れたような笑みを浮かべる。

「いい匂いの花ですね」

「は、はい!」

 背を伸ばし、我も我もとエディスの元に女性店員が押しかけてきた。

「これの花束をいただけますか?」

「はい、すぐに!」

 香高い清廉な白い花は、少年そのままの姿のように見える。頬を紅潮させた女性は、満面の笑みで頷く。

「メリンアレットの学生さんですか?」

「メリンアレット? ……いえ」

 貴族の子どもがこぞって通う中央一の進学校の名前を出されたエディスは、顔に苦味を走らせた。

「どこかで見たことあるなーって思ったんですけど、」

 曖昧な笑みで相手が話す言葉を聞き流していたが、不意に不快な感じを覚えたエディスは、店の外に体を向けた。そのまま通りを凝視していると、店員も不思議がって外に目を向ける。

「あの……?」

 目をエディスに向けると、エディスは店の外へと一歩進んだ。

【護り神よ 我が後ろへ】

 そして、店の前にシールドを出し、店員を振り返る。

「危ないから、この中にいてください」

 微笑を浮かべてそう言われた店員が何度も頭を頷かせたのを見てから、走り出す。それを、胸の前で手を握ってみていた店員は、とあることを思い出していた。

「あの子……エディス大尉だわ」

「あっ! そうそう、あの子この前反軍のリーダーを倒して帰ってきた子だわ!」

「えー、あんなに綺麗な顔だったんだ。遠くって見えなかったから、分からなかったわー」

 エディスが去った後の花屋は、年不相応な微笑を浮かべる少年の話で盛り上がっていた。


「軍の者だ! 前を開けてくれ!」

 通りの良い声で叫びながら走るエディスは、近くに感じる魔物の気配に、眉をしかめる。黒い制服を着た者を一人も見かけないことから、軍が動いていないことだけが分かる。

 僅かに血の臭いがしてきたこともあり、エディスは舌打ちをした。

「待て、魔狼!」

 その時、少女の声と共に、目先の路地から黒い大きな犬のような生物がとび出してきた。思わず足を止めたエディスの目の前に、別のものが割入ってくる。真っ赤な髪を首の後ろで切り揃えた、小柄な少女だ。

 少女は手に握った太いナイフを左手から右手に持ち替え、腰を落とす。

「お、おい!」

 エディスが制止させようとしたが、その前に少女は魔狼に向かって走っていく。裂帛の気合を混めてナイフで切りつけようとしたが、魔物に体当たりをされた。少女の腰辺りまでの背丈をした魔物は体重も相当なものだったらしく、少女は後ろに吹き飛ばされる。

 小さな悲鳴を上げた少女の体を、エディスは着地点まで走って受け止めた。少女は衝撃を耐えようと目を閉じていたが、地面の硬さではなく、人の柔らかさに抱きとめられたことに気づくと、目を開いた。

「大丈夫か?」

 至近距離にあるエディスの顔を見上げた少女の顔が、ぱっと赤くなる。

「は、はい……っ。大丈夫です」

 もじもじと指を絡める少女を腕に抱き上げているエディスは、魔物との距離を確かめながら、横に移動する。少女を下し、左手で自分の背に庇う。少女が落としたナイフを足で上に蹴り、手に取る。そして、魔物に向かって放った。

 ナイフは魔物の右目に突き刺さり、

【極西の主よ その刃に宿れ!】

 金色の光を放って、魔物を二つに切り裂いた。エディスは魔物に近寄り、黒い体液に濡れたナイフを取り上げる。

「あのっ、ありがとうございました!」

 どうしようかと悩んでいるエディスに、少女は駆け寄って頭を下げた。

「いや、ごめん。ナイフ壊してしまって」

「いえっ。い、いいんです!」

「悪いし、弁償するよ」

「えっ!」

 ナイフはエディスの魔力に耐えられなかったのか、割れている。戦闘用に仕上げてあるこのナイフは、高価な物だろう。簡単に壊してしまって申し訳ない、とエディスは真摯に伝えた。

「い、いいです! そんなっ」

「いや、俺がしたいんだ」

 近くを通りかかった軍人を手を上げて呼び、魔物の処理を頼むと、エディスは少女を連れて歩きだす。先程の花屋まで戻ると、店員はなにを思ったのか、少女に花束を渡してしまった。エディスは複雑な気持ちになりながらも代金を支払い、残念そうな顔をする店員に頭を下げて店を出る。

 白く可憐な花は、小柄な少女にとてもよく似合っていたので、まあいいかと思い、近くの武器屋まで少女の手を握って歩いていく。

「軍人さんですよね?」

「ん? ああ」

 可愛いというよりかは綺麗の分類に入る美少女と、端正な顔立ちをしている美少年の組み合わせは人目を引くらしく、通りかかる人達の視線を集めた。

「お名前を教えていただけませんか?」

 初々しい様子で訊ねる少女に、エディスはこれ以上はない程に優しい笑顔を浮かべて名を教える。そして、少女の名を訊き返す。

「私は、アーマー・バスティスグランと申します」

 こう返ってくるんじゃないかと予想していたエディスは、

「可愛い名前だな」

 と言って頭を撫でた。

 負けてやるかと、心の中で誰かに向かって呟きながら。

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