白銀の少年の嘆く記憶の願い
「ねーねー、エディス。どこ行くのー?」
年下の子どもというのは、こんなに面倒なものだっただろうか、とエディスは苦く思っていた。首に絡みついた腕が苦しい。
「リスティー」
頼みの綱は同室にいる彼女くらいのものだ。しかし、リスティーは嬉しそうに笑ってこっちを見ているだけでなにも言わない。
「リスティー!」
思い切り叫ぶと、やっとはい? という応えが返ってきた。
「コイツどうにかしてくれよ」
後ろできゃっきゃと喜びの声をあげてじゃれつくカロルに向かって指を差す。だが、リスティーは指を組んでさらにでれっとした顔をするばかりだ。
「お前、これに性格つけたのか?」
「うんっ」
「どんな?」
嫌がる人の気持ちも覚えろよ! と思いながらカロルの頭を押さえつける。
「明るくて、懐きやすくて、素直ないい子!」
「俺と正反対だなコンニャロウ!」
「アンタと正反対でもいいじゃない……」
なに拗ねてんのよ、と呆れられてから、エディスは落ち着いた。
「そ、そう……だよな」
「そうよ」
怪訝な顔をされたが、笑って過ごす。
「そろそろ行かない?」
「そうするか」
今度はリスティーに、どこに行くの? と無邪気にじゃれつき始めたカロルの姿に、エディスは額を押さえた。
「おっ疲れ様ー!」 突き出された手に、自分の両手を合わせる。バチンといういい音がした。
「アンタって本当、よく口が回るわねえ。あんなにスパッと審査員が黙ったのは、初めてだったわ!」
「お前の説明は強引すぎるんだよ。こういうのはもうちょっと、研究者以外の奴にも分かるようにしねえと……」
喉に手を当て、いささか嗄れた声を出すエディスの背を、リスティーは興奮ぎみに叩いた。
「ねっ、うちでお茶でも飲んでいかない? 帰りの汽車までは時間があるんでしょ?」
「まあ、あるけど」
「なら決まりね!」
手を一つ叩いて、リスティーはエディスの手を絡め取る。
「あ、いや、一度ホテルに戻っていいか? 荷物を取っておきたい」
「そっか。それもそうよね」
エディスがしぶると、リスティーもふむと思案顔になる。
「じゃあ、あたし先に帰ってるから、色々終わったら来て」
「分かった」
二人の後ろで、交互に顔を見るカロルの手を、リスティーがとる。
「さ、カロル行くわよ!」
「うん、リスティー!」
感情を植え付けられたアンドロイドは、顔中に満面の笑顔を浮かべる。自分はこんな笑顔を、忘れてしまった。そうエディスは思った。
軍をやめることになったら、どうしようか。自分みたいな奴、雇ってくれる人がいるだろうか。いや、大きな屋敷で働いていたことがあるから、どうにかなるだろう。年齢の問題でそれが叶わないとしたら、行き倒れになるな。
ハイデの所には戻りたくはない。あの穏やかな兄を、自分の事情に巻き込みたくはない。あの人は自分とは違う。愛されて生まれてきた人だ。
「ドゥルースさん」
あのまま、あの屋敷で主人と過ごしていたかった。自分はそう思っていた。いつでもあの人の傍にいて、笑って、楽しそうだった。けれど、それは所詮記憶の中のことだ。再び会えるかどうかも分からない人でしかない。むしろ、会えない確立の方が高い。
だから、記憶は記憶のまま、触らずにいた方がいい。人生には望んでも叶わない事が多すぎる。だから、人なんて好きにならない方がいいに決まっている。期待する奴の方が間違いなんだ。




