白銀の少年の嘆く心の願い
「ど、どうもありがとうございましたー!」
司会者の引き攣った声を背に、エディスは幕の裏へと戻っていく。
「お疲れ様ー、凄かったわねっ!」
すると、髪をふわふわのウエーブにさせたリスティーが幕裏で立っていた。水を渡してもらい、カラカラに乾いていた喉を潤わす。
「紋章術? だっけ。実技も完璧だったし、誰も口はさめなかったわね」
「出そうな質問の回答も用意してたんだけどな」
残念だ、と言うエディスに、リスティーは失笑する。
「まあ、次はあたしとだし! 張り切っていこうよっ」
と腰に手を当て、形のいい胸を前に突き出すリスティーの姿を見て、エディスはため息を吐いた。
「了解しました、リスティー中尉」
にこっと笑うリスティーは、軍服を着ていた。
「軍人だなんて聞いてなかったぞ」
「養成学校では志望した子は学生時代から軍人としても扱ってもらえるのよ。知らなかったの?」
「知らなかった」
学生として過ごすのは、これが初めてだ。義務教育である小学校には行けず、ハイデの屋敷で家庭教師に一通りのことを教えてもらっただけのエディスは、学校と名のつくものについてはなにも知らなかった。
「でも、これでグレイアスの剣を公然として使えるでしょ。軍に使用許可書が出せるんだから」
「そうだな」
ぶすっとした顔をしたままのエディスを見て、リスティーはニヤつた笑みを浮かべる。
「ちなみに、リキッドも同期よ」
なにもあんなことをしなくても、もっとゆっくり入ってもどうにかなったのかもしれない。そう思うと、過去の行動やトラウマが脳内に蘇ってくる。
右のこめかみ辺りに手を当てたエディスは、ゴツッと肘を壁にぶつけた。
「頭痛ぇ……」
「えっ、大丈夫!?」
平気だ、と言い、手を出す。それに、なに? と首を傾げられたが、鍵、と返す。
「ああ! はい」
渡してもらった鍵を鍵穴に差し込み、回る。頑丈に作られた鉄製のドアを開く。
目が痛い程に白い部屋の中央には、ベッドが一つだけ置かれていた。ベッドを挟んで立ち、見る。そこには、肩より少し長い金髪を持った少年が横になっていた。
リスティーは、隣りに設置した機械に、なにかを入力している。それを少しの間見つめていたが、なに? という怪訝な顔をされてしまったので、エディスも自分も作業をすることにした。
会場に来てすぐ、この部屋に置いておいた黒い鞄の中から、手の平大の白い箱を取り出す。被さっている方を取り、中身を見る。
「感情記憶媒体?」
「ああ」
六角形の青い宝石を見たリスティーは、すばやくなにかを打ち込んだ。すると、少年の左胸の部分が開く。
「そこに入れて」
形は合うはずよ、と促されたエディスは、箱の中から宝石を取り出した。そして、それを少年の胸の中に込める。
「心が宝石だなんて、なんか素敵よね」
「……別に宝石じゃあ、ないんだけどな」
それを見届けたリスティーが、また機械に向き直る。十分ほど打ち込んでいたかと思うと、ふいに手を止めた。
「よっし、これで完了!」
できたー! と叫ぶリスティーはそうね、とエディスを解放した。そして、また反対側に戻っていく。
「カーロルッ」
エディスも、目が回りつつも少年に近寄る。くらくらとする頭を手で押さえながら、少年を見た。
「カロル」
リスティーと同じように、顔を覗き込む。こんな風に囲んでしまったら、怖がってしまうかもしれない。そう思いはした。だが、こんなことぐらいで怖がったりはしないという気持ちの方が強かった。
もう一度リスティーが名前を呼んだ時、まつ毛が震えた。そして、瞼が持ち上げられ、そっと目が開けられた。
「おはようっ、カロル!」
リスティーの嬉しそうな声が、エディスの胸に重く響いた。




