白銀の少年の嘆く未来の約束を
目を開けたら、黄昏が沈んでいた。
沈んだ太陽は見たくない。ずっと笑って、明るくしていてほしい。自分にとって、たった一人の光だから。
「ドゥルース」
きゅっと、服をつかむ。
「ドゥルース、お早う」
こっちを向いてほしくて。笑ってほしくて。必死に声を掛けた。
「エディー」
「大好きっ」
ぎゅっと抱きつく。
「俺も、大好きだよ」
強く強く抱かれ、エディスは微笑んだ。
「これ」
ことっとベッドの横のサイドテーブルに何かが置かれる。
「……何……?」
きょとんとそれを見つめる、エディス。
「プリン。食べたこと、ないでしょう。甘くておいしいんだよ」
ペリペリとふたを取り、中身をすくいとる。
「はい」
にっこりと笑ってスプーンを差し出されるが、エディスはおどおどとするだけだ。
「あーん」
エディスの口元まで持ってきて、ドゥルースは食べさせようとする。
「あ、あの……っ」
「食べていいんだよ。エディーのために買ったんだから」
にこにこと笑いかけられ、エディスは観念したように口を開く。黄色いその塊を小さな口で食む。
「……あまっ!? おいしいっ」
「でしょう」
ふわと顔をほころばせる姿を見て、ドゥルースは甘く笑む。
「おいしいね」
小さな子どもの顔でエディスが笑う。それは、何の悲しみも、苦しみも見えない幸せな微笑だった。
「早く
ちびちびと食べ、終わったカップをサイドテーブルに置いたエディスがこっちを見た。
「早く……大人になるから……っ」
ぽろぽろと涙が膝に落ちる。シルクで作られた柔らかいズボンにしみが一つ、二つ、三つ……たくさんたくさん、できるかと思った頃。
「大人に、ならなくてもいいの」
ぎゅっと手が握られた。
「一緒にいてくれるだけでいいの。お話してくれるだけでいいの。ぎゅっとしてくれるだけでいいの。……ううん、ドゥーがいてくれるだけで、僕は嬉しいんだ」
星が散る。花が散る。月が泣いて。夜が笑う。
人はどうしてこんなに汚くて嫌なものなのだろう。どうしてこの天使は、どうして、こんなにも。
「お願いです。僕は奴隷でも、汚いものでも、いい。死んでしまってもいい。でも、どうか、どうか……せめて、こんな汚い僕でも。死ぬまで、一緒にいてくれませんか?」
例え、短い命でも。誰か一人でも傍にいてくれれば、きっと幸せにいける。
「お願い……お願いしますっ! 一人で、一人で死ぬのは、寂しい……!」
悲痛な叫び。その願いの中にある涙。ひたむきな願い。
「いるよ。俺が、エディーが死ぬまでいるよ」
額に口付けてから、微笑む。
「ありがとう……」
つつっと天使の頬を真珠が流れた。
神様、神様。どこにいるのかも、本当にいるのかも分からない、神様。まだこの世界にいるのなら。まだこの世界の人が好きなのなら。
どうか神様、この天使をさらっていかないでください。どうか神様、この天使をもう少し、地上にいさせて、下さい。
「何時か、大人になって‥俺が偉くなったら、ここから君をさらって行くよ。…覚悟、してくれる?」
「うん。覚悟、するよ」
にこっと微笑んだ天使の唇を、夕焼けが赤く見せた。初めてのキスは甘いお菓子の味がした。
どうしてこんなにも、この天使は愛しいのだろう。
早く、大人になりたい。この天使を、守ってあげたい。
その願いは――かなわない、けれども。