僕の名前
二人は、明日の発表について話しながらエディスが泊まっているホテルへと歩いた。
「ところで、リスティー」
「なに?」
顔を向けると、リスティーは繋いだ手を振ってくる。
「突進してくる技って、どうやってるんだ?」
「人を牛みたいに言わないでよ」
眉尻を上げ、唇を尖がらせるリスティーに、エディスは牛じゃなく猪だろ、と笑う。
「こう、足の踵で地面を二回蹴るだけ。ゆっくりでも、早くでも、蹴る速度は自分の好みはいいけど、音をとることで魔力を全身にいき渡らせるの。自分自身を一つの魔法弾にする、南部では一番最初に覚える魔法よ」
やってみようか? と微笑むリスティーに、エディスは遠慮しておきますと顔をひきつらせた。
「それより、エディス。名前、どうしよっか?」
「名前?」
訊きかえすと、リスティーはもうっ! と頬を膨らませた。
「アンドロイドの名前!」
「あ、ああ。リスティーはどんな名前がいいんだ?」
「そうねえー」
リスティーは、悩むような素振りを見せた後、ぱっと笑顔になり、
「アルフレッド!」
とエディスに言った。
「却下」
「えーっ、どうして!?」
格好良いじゃないっと言ってくるのに、格好良すぎるだろっ! と返す。
「じゃあ、エディスはどんなのがいいのよ」
頬をふくらませたリスティーに訊かれ、エディスは少しの間考える。
「カロル」
「カロル?」
首を傾げられたエディスは、
「carol。昔、大陸の方で使われていた言葉で、祝いの歌って意味だ」
そう説明した。
「昔の言葉を研究してるんだっけ?」
「研究といえる範囲じゃないけど、一応な」
言語や文化を研究する者は、少ない。それを研究したくとも、誰かから注目を浴びることもなく、金にもならない。ただ趣味で、一人寂しくするだけのものになる。そして、資料も少ない。科学分野の発達に繋がりそうな、数百年程前の資料は残っている。だが、千年二千年も前のものとなると、ほぼ見つからない。あったとしても保存状態が悪く、真面に読むことができないものも少なくはなかった。
「どうして研究しようと思ったの? そんな、別の国の言葉まで」
「ちょっと、話したい人がいるんだ」
「話したい人?」
結局、ずいぶん遠くまで一緒に歩いてきてしまっているリスティーに、エディスは今度は俺が送っていくことになりそうだ、と内心苦く思う。
「神様」
「神様ぁ?」
胡乱げな顔で見られたエディスは、少し笑いつつも、もう一度同じことを言う。
「面白くない冗談ね」
「いや、冗談じゃない」
真剣だと言うと、リスティーは片眉を下げる。
「シュアラロさんのことは、ごめんなさい」
「いいよ、気にするな」
夕焼けの中で見た少女の横顔は、とても可愛い。もし、自分がエディスという名前を受け入れなかったならば、こういう子と恋をしたんだろう。エディスはそう、自分が捨てた選択肢の先へと想いをはせた。




