白銀の少年の嘆く結末の願いを
中に入った途端、魔法が全て解けた。エディスはそれに驚いて、口を手で覆った。
「大丈夫。ここは海水が入ってこないようになってるから、ちゃんと息できるわよ」
そう言われてから、手を恐る恐る離し、口を開く。リスティーはそれを苦笑しながら見ていたが、エディスの呼吸がちゃんと整ったのを確認し、
「ここを真っ直ぐ進んで。彼女の部屋に直通してるから」
洞穴の奥を指さした。エディスはそれに、お前は? と訊ねる。
「アンタ一人で来てって」
「俺一人で?」
「大丈夫よ。ちゃんと話を通しておいたから」
そう言ってから、リスティーは近くの穴に入って、椅子とティーセットを持ってきた。
「待っててあげるから、行ってきなさいよ」
リスティーは華奢な椅子に腰をかけた。そして、輪郭が丸いティーカップに紅茶を注ぎながらエディスを促した。
「分かった。じゃあ、悪いけど待っていてくれ」
「はーいはい」
手をぶらりと上げたリスティーに背を向け、エディスは歩いていく。
深い深い闇の中に、潜り込んでいく。やがて、その目に光が舞い込んできた。
「失礼します」
洞穴の中には、ドアがない。そのため、エディスは壁を代わりに二回軽く小突いた。
「はい、どうぞ」
中から聞こえてきた、みずみずしい若さを持つ女性の声。エディスは、まるで魔術にでもかけられてしまったかのように、その声に体を引きずられた。
「はい」
そして、光の元へ入り込んでしまう。眩い程の光に、目がくらむ。それを何とか緩和させようと、顔の前に腕を突き出して、光をふせぐ。やがて、慣れてきた頃に、目をもう一度開き、腕を退ける。その目に映ったのは、白い調度品と、それに囲まれた、紫色の髪を持つ女性だった。
「初めまして、エドワードくん。私は、シュアラロ・マリス・サラロリアといいます」
雪のように白い肌、血のように赤い唇、そして東雲のように寂しい紫の髪。柔らかい微笑みに、自分の心が自然と癒されていくのをエディスは感じた。
「エディスの息子さんよね? 会えて嬉しいわ」
本当に嬉しそうに、嬉しそうに話すその女性に、エディスは驚いていた。
「母の知り合いの方でしたか」
「ええ。さ、いつまでもそんなところに立っていないで、お入りなさいな」
促されたエディスは、彼女の傍まで歩いていく。
「ここにお座りなさい」
と引かれた椅子に座ると、用意していたのか、香の良い紅茶を手に握らされる。
「ああ、やっぱり。あなたはよく似ているわね」
「母にですよね? よく言われます」
またか、と思ったエディスに、その女性はくすくすと笑いながら首を振る。
「いいえ。あなたのお父さんによ」
「と、父様にですか!?」
「ええ。目なんてそっくり。……言われたことはないかしら?」
「はい。いつも、母似だと」
心底驚いて、胸がドキドキいっている。
「なら、見るところが違ったのね、皆。もっと細かく見なくちゃ。全体だけ見ても、その人の全てを知ることはできないわ」
そうでしょう? と軽やかに笑うのに、そうですね、とエディスは返す。不思議な雰囲気の女性だ。
「さて、では本題に入りましょうか」
ぽん、と温かそうな膝を叩き、シュアラロがそう言う。
「エドワードくん」
そして、優しそうな目でエディスを捕え、口を開く。
「あなたは、死んでちょうだい」




