白銀の少年の嘆く案内の願いを
その夜、エディスはホテルから抜け出した。そして、銀の髪を隠し、暗闇の中に入り込んだ状態で、リスティーの言った場所まで走っていく。
自分と同じように、黒い衣装に身を包んだリスティーを見つけると、手を振る。そして、来たわね、と肩を叩いて走り始める彼女の後ろを追っていく。 「どこへ行くんだ」
「あの詩の作者のところよ」
ひそりと訊ねたことの返答に、エディスは目を丸くさせた。北から中央にかけての話を書いた詩を作った作者が、南にいるとは思わなかった。そして、捜そうとも思っていなかった人物にたどり着いてしまったことに、わずかだが、恐怖を感じていた。
「なんでお前は知ってるんだ……?」
「友達が教えてくれたの」
友達、とエディスが繰り返すと、そう、とリスティーは頷く。
「そんな大事な情報……」
「南を守るためなら渡せるわ」
俺に家族を殺されそうになっている少女。俺と同じ境遇にさせようとしてしまっている、少女。
唇を強く噛み締め、それを少しでも変えようとしているその姿に、エディスは目を伏せた。どうして、こんなことをしているんだろうと、自分に語りかけながら。
昨日の昼に来たばかりの海。その堤防に背をピッタリ付け、二人は隠れていた。軍は眠ることのない組織だ。夜でも誰かが必ず見張り台にいる。
手を前に出し、何かをブツブツ呟いているリスティーを横目で見、
「なにしてんだ?」
とエディスは言った。
「体を見せないように隠すシールドと、水の中に入っても大丈夫な空気の膜を魔法で作るの。……もうっ、この魔法難しいんだから、話しかけないでよ」
と小声で怒られてしまったので、エディスは悪ィ、と口を閉じた。だが、なかなか出来上がらないのを見て、息を吐きだした。
「呪文教えろ」
それを聞いたリスティーは頬を膨らませたが、すぐに教える。
【私は見えない
私はいない
誰の目にも入らず
薄く透明な世界に
住まう
人に私は見えない!】
リスティーがしていたように、手を前に突き出したエディスが詠唱すると、一瞬だけ二人の視界が黒くなった。しかし、すぐにそれは戻る。
【深海に住む姫に命じる
その身に纏いし
海の羽衣の力を
我らに与えたまえ】
続けて、空気の膜を作り出す。リスティーは、ぼよぼよと弾力のあるそれを触りながら、エディスを見た。
「ありがと」
エディスはそれに少し驚いてから、別に、と言った。
「じゃ、行きましょ」
「ああ」
深い海の中にいる人。
一体どんな人なのか、いや――まず人なのか。それすらも分からない。騙されているのかもしれない。誰にもバレずに殺すためかもしれない。
「案内してくれ」
そこに行って、なにを知らされる。なにを、俺は知ってしまうことになる。
エディスは唾を飲み込み、暗く底の見えない水の中に飛び込んでいった。




