白銀の少年の嘆く素顔の願いを
「おはよう」
「お早う御座います」
すっと横を通り抜ける際に挨拶をしてきた客に対し、頭を下げる。約二ヵ月くらいずっと泊まっている、少し変な客だ。しかし、何やら変な感じがして、顔を上げる。
「お、お客様」
声をかけると、その少年は立ち止まった。
「なに?」
「コートは、今日はよろしいので?」
確か、日の光に弱いと聞いていた。なので、ホテルマンは慌ててそう言った。だが、少年は銀の髪を揺らして振り返る。
「うん、もう必要ないんだ」
そして、ふわりと笑った。
ふわあああ、と大口を開けて欠伸をすると、隣に歩いているリキッドにもう、と注意をされてしまう。
「五時くらいまで作業をしてたのよ。欠伸くらい許してよー」
「五時!?」
驚いて叫んで、しばらく停止したリキッドは、次にため息を長く吐き出した。
「一体なにを作ってたんだい?」
「アンドロイドよ。何度か作ったことはあるけど、やっぱあたしには武器が一番合うわー」
細かくて細かくて仕方ない、と目と目の間を揉んでほぐるリスティーの姿を見て、リキッドはさらにため息をつく。
「リスティー、君、本当に手伝っていたのかい?」
「手伝うって言ったもの。なにに使うかは分からないけど、多分悪いことには使わないわ」
「君は反軍のリーダーの娘なんだ。気をつけなくちゃいけないんだぞ」
いつも真っ直ぐな幼馴染に注意をしても、大丈夫よと返ってくるだけ。
「復讐心があるだけで、悪い奴じゃないわよ。嘘をつく技量もないみたいだしね」
「それが演技だったらどうするんだい」
「ないない。そんなまどろっこしいタイプじゃないわよ、あーいうのは」
手をパタパタと振るリスティーに、リキッドがもう一度ため息をつこうとした時、後ろのざわめきが大きくなってきた。
「でなかったら、とっくの昔にグレイアスが嫌がって帰ってきてるわよ」
「それも変だよ。普通すぐに帰ってくるだろう!?」
「さーねえー。居心地いいんじゃないの? アイツ半分魔物でしょ。グレイアスは魔物の魔力しか欲しがらないもの」
それでも二人は話していた。が、
「……なんか、うるさくない?」
「ちょっと、気になるね」
あまりに周りがうるさいので、鬱陶しげな顔になっていた。
「もー、朝っぱらから何だっていうのよー」
とリスティーが後ろを振り返りながら言い、
「あ」
潰れたカエルのような声を出した。
「リスティー、リキッド、おはよう」
にこやかに手を上げ、自分達の方へ真っ直ぐ歩いてくる美少年。
「……ごめん」
周りが騒ぎ立てている明らかな理由であるそれを見ながら、リキッドが呟く。
「やっぱ、リスティーの言う通りだ」
「でしょう」
目の下にうっすらくまを作ったリスティーが呆れた顔で見ている。
「任務、失敗するわよ」
「別にバレてもいい」
「もし完遂させたとしたら、後で命を狙われることになるかもしれないのよ」
「もともと狙われるだろうなーって思いながら来たから、別にいい」
そう言うエディスに、二人は心底呆れてしまう。
「アンタ、自殺願望でもあるの?」
その言葉にエディスは立ち止まった。そして、少し考えた後、
「そうかもな」
と零した。
「ホンット、よく分からない奴ねー、アンタ」
「よく言われる」
「言われちゃダメでしょ」
ぷっと吹き出すリスティーに、エディスは少しほっとしていた。
「お前は分かりやすくていいな」
リスティーはそれを聞いて、きょとんとした後、ニヤニヤとした笑みを浮かべさせる。
「なあにー、話しやすいのおー?」
「話しやすいな。何しに来てんのか一瞬忘れるくらいに」
さらりと言われた言葉にリスティーはへへっと笑い、エディスの背を突っついた。
「何だよ、変な笑い方して」
「苦しゅうないぞっ、これからも喋ってやろう!」
ツンツンと小突いても怒ることのないエディスの背に、変な笑い声を出しながらリスティーはひっつく。
リキッドはそれを後ろから見ながら、ため息をついた。




