白銀の少年の嘆く契約の願いを
「もうね、絶対間違いない!! って思ったのよねっ」
ふふん、とリスティーが自慢げな顔でそう言う。
「女の勘ってやつ?」
「そうよ」
だとしたら恐ろしい、そう言いかけたリキッドとエディスは顔を見合わせる。
「じゃあ、お前はあの時起きてたのか?」
魔物のような姿をした男に跳ね飛ばされていたので、気絶をしているものだと思い込んでいたエディスがそう訊ねると、
「起きてなかったわよ」
リスティーはあっさり首を横に振った。
「じゃあ、なんで……」
「なんで、って。そりゃ、魔力でしょ」
「魔力?」
どうしてそんなものが、と言いそうになるリキッドの横に座っているエディスがそうか! と大きな声を出した。
「あの剣に残っていた魔力で判断したか、中の魔人に訊いたのか。そうか、判断基準を残しちまってたんだ!」
「当たりっ! 残ってた魔力と、一昨日の戦闘時に感じた魔力があってたからピンときたの。それで、魔人に訊いてみたのよ」
探すのが楽で助かったわーとにこにこされ、エディスはあの時剣を掴んだことを後悔しかけてきた。
「ど、どういうことなんだい、一体」
一人事情の分からないリキッドが呟くと、リスティーはもうっという顔になる。
「だから何度も言ってるでしょ、あたしの」
「コイツの作る武器は基本的にはそんなに筋肉がいらないようになってるんだよ。この剣は中に魔人が住んでいて、魔法を与えると自動で魔物を追ってくれたり、動きを修正してくれるんだよ」
と言って、リスティーから受け取った剣の鞘を撫でると、ふうっと剣が軽くなった。
「うん、優秀優秀」
甘みのある低い声にそう囁かれながら、引き寄せられた。
「グレイアス。出てきちゃったの?」
「リキッド坊やに顔を見せるのにはちょーっと抵抗あったけどな」
ま、一回くらいはいいだろ、とニヤついた笑みを浮かべる男。夜空のような黒い髪をツンツンと立て、赤いコートを着たワイルドな青年の姿をしていた。
「新しいご主人様はどう?」
机に両肘をつき、にこっと笑って訊くリスティーに、なかなか気に入ってるぜ、と歯を見せて笑い返す。
「けど、勿体ねえな」
何が? と訊ねようとしたリスティーよりも先に魔人がエディスに手を伸ばした。
「こんな綺麗な顔を隠しちまうなんてな」
パサリとフードが落ち、銀の髪が黒いコートの上に流れる。
「きっ、君……女の子だったのか!」
「違う! 俺は男だ!!」
椅子を蹴っ飛ばして立ち上がり叫ぶリキッドに、エディスは机を拳で叩いた。
「ご主人様、お名前は?」
ツッとエディスの頬から顎にかけてのラインに手を滑らせる。それを気にしないフリをしながらエディスは口を開く。
「エディス」
「ほら! 女の子の名前じゃないか! 君は女の子なんだよ!!」
「違う」
世界中のどこに逃げても、誰もが一度は俺を女だと間違える。偽って生きなければいけない、ならなければいけない、母の性別だと言う。
「リキッド、やめなさい。情けないわよ」
「……リスティー」
「この人が女だったら、なに」
真っ直ぐで力強い目がリキッドに向けられる。
「なになのよ」
「……そ、その」
「好みのタイプだったから付き合ってもらおうとでもしたの」
「そっ、そんなはずないだろう!」
「なら馬鹿なことを言わないの」
ね、と微笑まれ、リキッドは分かったよと頭をしょげさせた。
「で、アンタは? 本っ当ーにそれが本名なの?」
「……本名は、別に」
「馬鹿ッ」
可愛い女程、怖い。エディスの頭にはそういう言葉が浮かんできていた。
「魔人に嘘をついちゃ駄目よ。魔法使うくせにそんなことも分かってないの?」
「分かってる。けど、俺の今の名前はこれなんだ。本名は今度一切使う気はねえ」
「そんなに怯えなくっても平気よ? こっちの人も悪い人ばかりじゃないから」
無言で頭を振る。
「この名前で生きなきゃ意味がないんだ」
「……変な人」
「変な人間」
呆れ顔で溜息をつくリスティーと、エディスの頭の上に腕を置いた魔人とにそう言われたエディスはぶすっとした顔になった。




